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24.嫉妬?

 ガシャーン!!!


 ワインの瓶が割れる音がジョーの自室に響く。敷かれた絨毯がワイン色に染まっていく。


「なんでなんだ!この前から何が起こってるんだよ!?」


 ガターン!!!


 今度はテーブルが倒れる音がした。


 ジョーは先程自宅に届いた手紙を読んで荒れていた。


『お前のせいで全てを失っただろうが!この厄病神が!二度と連絡してくるなよ!キモいしデブいし、臭いしハゲてるし最悪なんだよ!せめて痩せろ!』


 送り主はマリベラだ。


 この前まで自分に夢中だったはず。自宅にまで招き入れ、夫婦の寝室で最高の時間を過ごしたばかりなのに。エリーゼを共にやり込めたのに。彼女だってとても楽しそうだったのに。


 なんで……なんでこんな手紙を送ってきたのだ。



 それにしても……またキモい、デブ、臭い。自分はそんなに……。いや、変な考えに飲み込まれるな。自分はイケてるのだ。だから多くの女を抱けるのだ。


 本当にキモくてデブくて臭いとか思ってる人間に抱かれる女はほぼいないはず。娼婦なら仕事であるかもしれないが貴族の令嬢が嫌な奴とは関係なんかもたない。自分には魅力があるのだと自身に言い聞かせる。


 男爵夫人たちに続き、マリベラまで……もしかして、エリーゼが何かしたのだろうか。いや、まさかな。


 でも、もしかして。


 そうだとしたら


 ――それはいわゆる嫉妬というものでは?


 あの美しいエリーゼが?


 いやいや、無いだろ。でもこんなにモテるのだから全く可能性がないというわけでもないかもしれない。なんかある気がしてきた。


 鼻の穴が膨らみ、荒い息がフーフーと出てくる。


 決して嬉しいとか思っているわけではない。


 まあ、でも……


 たまには顔でも出してやるか。


 ジョーはエリーゼの元に向かうことにした。




~~~~~~~~~~




 これは……わなわなと震える身体。せっかく来てやったというのに目の前の光景は何だというのか。


「あら、サイラスありがとう」


「気をつけなよ?今日のヒールは少し高めなんじゃないかい?いつもより背が高いような気がするよ」


「あら、わかる?商人に勧められてね。いつもは7センチ程なんだけれど15センチに挑戦してみたの」


「それは攻め過ぎではないかな。転んだり足首を痛めたら大変だよ」


 ジョーが目にしたのは妻エリーゼが兄のサイラスに抱き留められている光景だった。実際は高いヒールを履いてバランスを崩したエリーゼをサイラスが受け止めただけなのだが。


 会話からそれはわかる。わかるのだが、1枚の絵のように美しい光景にかっとなったジョーの口からは怒声が飛び出る。


「エリーゼ!サイラス!何をしている!浮気か!?」


 2人に近づきながら唾を飛ばす様はとても汚いし下品だ。エリーゼはサイラスから離れながら微笑みの表情から冷たい表情にシフトチェンジした。


「エリーゼ!家の中で不貞なんてこの尻軽女が!しかも相手はご主人様の兄か!?この最低のアバズレ女が!」


 これのどこが不貞だというのか。馬鹿じゃないの?相手する価値なし。顔も見たくない。バサリと手に持っていた扇子を広げ彼を視界に入れないようにし、お人形のように黙るエリーゼ。


「まあまあジョー様、よろけたところを助けただけですよ。怪我したら大変でしょう?」


 エリーゼの完全無視の姿勢に気づいたサイラスが代わりに宥めようとする。


「うるさい!黙ってろ!この間男が!誰の温情でこの家に住めると思ってるんだ!」


 うん、何も言わないのが正解かもしれない。サイラスもとりあえず口を開かぬスマイルを貼り付けることにした。


「お前たちは最低だ!クズだ!せっかくたまには顔を見せてやろうと思って来てやったのに!最悪だ!お前らみたいな馬鹿でクズでモラルも常識もないやつのせいで俺の気分は最悪だ!!!」


 ( お前にだけは言われたくねぇよ )


 おっと危うく口から出そうだった。出てないわよね?うん、出ていない、セーフ。というよりもブーメラン。それだけ自分に当てはまる事を言って自分に突き刺さらないのだろうか?


 うん突き刺さっていない。


 不思議である。


 ちらりとサイラスを見ると僅かに顔が引きつっていた。まだまだだめね。この程度で引きつっているようでは。


「……………~っ……」


 急にダンダンと地団駄を踏むジョー。


 地震かと見紛うほどに床が揺れるのでやめていただきたい。床も傷むではないか。


「エリーゼいつまでこいつの隣にいるんだ!は、早くこっちに来い!」


 ジョーから勢いよく手が伸びる。


 こいつ正気なの?エリーゼは僅かに目を見開いた。


 高いヒールを履いている人間をそんな勢いよく無理矢理引っ張ったらどうなるかもわからないのか。とはいうもののジョーが気づくわけなしと多少のケガも覚悟したのだが。


「!は、離せサイラス!お前は何をしてるのかわかってるのか!?」


「ははは、駄目ですよ。紳士たるものレディにはいつでも優しくあらねば」


 エリーゼに触れんとしたジョーの手首を掴んだサイラスは爽やかに笑う。ジョーは更に言い募ろうとするが、その手の力の強さとサイラスの目が笑っていないことに気づくと怖気づく。


「ふ、ふん!そんなことわかっている!あ、ああ!美しい令嬢たちが私を待っているからもう行くぞ!」


 青褪めながら負け惜しみなのかそんなセリフを吐くジョー。格好悪いし、そんなどうだみたいな顔をされてもどうでも良い。


 ドスドスと音を立てながら去っていくジョーにまだまだ全然こたえていないようだと感じるエリーゼ。



 何か変な勘違いをしているようだったし、予定通り次は違う方向から攻めてみましょうか。


 どんな反応をするかしら?次こそは面白い反応を見せてくれると良いのだけれど。口角が上がるエリーゼだった。







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