表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/37

10.後悔

「うおっ!」


 エリーゼがなぜ自分に物申してきたか理解し顔面蒼白になる中、首根っこを掴まれ思いっきり後ろに引っ張られた。父親が引っ張ったよう。それと同時に腕に張り付いていた温もりがなくなる。


 その温もり――幼馴染は自分の母親の手に捉えられて呆然としている。


 正直なところ困ってはいたが、顔の可愛い幼馴染に必死で好きだと縋られることに悪い気はしていなかった。婚約者はもちろん大事だが、また別物というのか……。


 オリビアには突き放せば彼女が命を絶ってしまうから、衰弱している彼女を放っておけるような薄情な人間なのかと言い訳をしたり責めるような言動をして自分の方が正しいように振る舞ってしまった自覚はある。


 大事にするべきはオリビアで突き放せば良かったのになんやかんやいって両手に花とか困っちゃうなぁなんて思っていた。しかしそんな気持ちを抱いた罰なのだろうか。


 この地獄のような現状は。


「エ、エリーゼ様!申し訳ございません!この女は息子とは何もないのです!強いて言うなら妹のように大事にしているだけでして……」


「へー大事なんだぁ。血の繋がらない妹な感じ?私この前血の繋がらない兄妹が恋仲になる物語を読んだの。私たちの愛は誰にも切り裂けないとか熱語りしていたわ。しかも裏切り者の自分達のことは棚に上げて婚約者を悪者にして婚約破棄していたのよ」


 しまった。確かにあるあるの物語。え、でも7歳がそんなの読んじゃうの?焦る婚約者の父親は墓穴を掘る。冷や汗をかきながらもなんとか絞り出した言い訳をバッサリ切るエリーゼ。


「何を言っているのよあなた!まだ若いのにボケてしまって……申し訳ございませんエリーゼ様。この子は先程具合が悪くなったようでして、息子が支えていただけなのです。息子が大切に思うのはオリビア嬢1人だけですわ」


 言葉に詰まる夫の代わりに妻が言い募る。冷静に言葉を選ぶ夫人だが目は血走り汗をかいている様は鬼気迫り、少々怖い。その顔で近づかないでほしいかもしれない。


 近づいてくるわけではないのだが、こう圧がじりじりと迫るような気がする。


 子爵夫妻はそれだけ焦っていた。これは公爵家の侍女を蔑ろにしてただで済むと思っているのかという脅しだと考えたからだ。


 うん?脅し?7歳児が?普通親が言うものでは……?いや、でもハサミを持っているのはエリーゼで。息子のムスコをねらっているのではなく、縁を切っちゃうぞみたいな?社交界から切り離すみたいな?それとも……首チョンパ?


 いやもう頭が正常に働かない。


「オリビアだけ?」


「は、ははははい!」


 どもる夫を睨みつける夫人。商売人としてはなかなかの手腕を持つのだが、なんとも気弱なところがあって困る。


「息子が生涯添い遂げるのはオリビア嬢のみでございます。そして私たちにとって娘と思うのもオリビア嬢ただ1人だけにございます。それ以外の者などどうして受け入れられましょうか!」


 夫人はとにかく必死にアピールする。エリーゼに聞かせるように、息子にそして幼馴染に言い聞かせるように。

 

 必死な両親の姿に目が覚める婚約者。モテモテだと喜んでいる場合でもなければ、どちらにしようかなと調子こいて有頂天になっている場合でもなかったのだ。


「エリーゼ様!申し訳ございませんでした!私は心を入れ替えます!必ず……必ず幸せにしますから、オリビアを私めにください!」


「いや、私じゃなくて本人に言ってよ」


 結婚するしないは当事者たちが決めること。決してエリーゼが決めることではない。それにそんな宣言を子供にされても困るというもので。それに愛の告白は本人にするべきもののはず。


 床に膝をつき懇願する婚約者にエリーゼはきっぱりと告げるのだった。



 一件落着……


「酷いですわ、エリーゼ様!」

 

 とはまだならなかった。


 幼馴染が悲痛な声を上げたからだ。場は白けていたが、気づかぬ彼女は舞台の悲劇のヒロインかのように声を張り上げる。


「わ、私は彼がいないと生きていけないのです!その彼を奪おうとするなど…………エリーゼ様は私にこの世から消えろと仰るのですか!?酷い、酷いですわー!」


 そう叫び両手で目を覆い、しゃがみ込む。


 幼い頃から彼が好きだったのだ。それに凄いお金持ち。絶対に彼と結婚すると決めた。なんの運命の悪戯かしらないが、気づけばオリビアとかいう少し顔が美人なだけの女が婚約者に収まっていた。


 でもそんなの気にならなかった。どうせ彼が選ぶのは自分だから。だって所詮人は長く付き合いのある方を選ぶもの。幼馴染である自分が一番彼のことを理解しているのだから。


 残念ながらそのことにテリー子爵一家の誰も気づかずに結婚しそうになったので、彼らの目を覚まさせてあげようと頑張ってきたのだ。あと一歩というところでこんなガキに邪魔されるわけにはいかない。


 所詮人は涙に弱い。


 特に女の――――。


 さあ、もうこれで十分でしょう?顔を上げれば私には同情の視線が……そしてあのガキには非難の視線が…………



 




 ………………嘘でしょう?なんで……?


 なんで?

 なんで?

 なんで?

 なんで?

 なんで?






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ