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ELLIS-エリス- 世界最高の生き方(もっと優しい世界ver.)  作者: 結逸夢弐


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第十八章 - 青春時代② 高校生活 Ep.6:合同練習!

<エリスの高校生活⑧ いじめっ子を見返えそう!>

 次の週の火曜日、2限目が終わったばかりのモーザー学校の廊下には、鼻歌交じりにスキップしているエリスの姿があった。もう小指の怪我もすっかり治っており、フロスティとの甘い『新婚生活』も万事順調だった。あ~早くフロスティに会いたいな~。今日からStellaris Symphoniaの自主練に入るんだ~(ルンルン♪)。そんなことを考えながら曲がり角を曲がった彼は、目の前の情景に思わず足を止める。

 そこは中等部3年の子たちが使うロッカーの前なのだが、内一つのロッカーに異様な貼り紙がされているのである。そこには赤いペンでこう書き殴られていた。

 『Hwang Soyul – Asiatique déprimante. Dégage de l’école !(ファン・ソユル 根暗な東洋人 学校ヤメロ!)』

 悪質な人種差別的いじめである。いつの時代、どの国においても、こうした非人道的な行いは撲滅されないのである。これにはさすがのエリスも、強い憤りを禁じ得ない。ひ、酷すぎる……誰がこんな貼り紙を――。ちょうどそのとき、前からソユルが歩いてくるのが見えたので、エリスは咄嗟に貼り紙を引きはがし、それをクシャクシャに丸めて上着のポケットに突っ込んだ。

 「おはようソユルちゃん!」彼が右手をポケットに入れたまま、左手を掲げてそう挨拶すると、ソユルは一度ペコリと会釈してから、そのまま彼の方へと歩み寄ってくる。その隙に紙をできるだけ圧縮して、すかさずポケットから手を出す彼。「この学校にはもう慣れた?」必至の偽装工作の末、何気ない態度を装う彼だったが、無情にも彼女は右手を仰向けて、それを彼に向って突き出すのだった。

 「え、エリスさん。今ポケットに仕舞った物、出してくれますか?」

 ドッキーンッ! エリスの胸が動揺で跳ねる。

 「へ、へ? な、何のこと?」嘘が下手すぎるエリス。

 「今エリスさんの着ている、そのピンク色のカーディガンの右ポケットに入っている、丸まった紙のことです」一部始終をしかと目撃したソユル。言い逃れできぬよう正確に要求を伝える。

 「あぁこれ――あ、あれね、あれは……そう、さっき鼻を噛んだティッシュで! 僕ここ最近、鼻炎なんだ――あっ!」苦しい言い訳に業を煮やしたソユルが、一方的にエリスの服から紙を取り出して、それを広げる。「み、見ちゃダメだよ!」時すでに遅し。

 「何だ、やっぱりこんな物ですか」そこに書かれた心ない言葉を見て、純真なソユルはさぞかし強いショックを……いや、受けているふうでもなさそうだ。「エリスさん、どうして隠したりしたんですか?」

 「そ、そりゃ隠すよ! こんなの……酷すぎるもんっ!」エリスが本当に鼻炎になったみたいに鼻頭を赤くする。「ごめんねソユルちゃん……転入早々、嫌な気持ちになったよね?」

 「別に気にしてませんよ。こんなの日常茶飯事ですから」紙を丸め直して自分のポケットに仕舞い、何事もなさげにロッカーを開けて、次の授業の準備を始めるソユル。そんな彼女だったが、当然傷ついていないわけではなかった。ただ以前いた学校ではもっと酷いいじめを経験していたがために、何事もそれと比べればマシだと自分に言い聞かせ、耐え忍ぶ癖がついてしまっていたのだ。そう、こんなのはまだ序の口だ。私は本物のいじめってものをよく知ってる――。


[番外編③ ソユルの素顔 - 受け継がれし黄色いギター]

 かつて韓国に一組の夫婦が住んでいた。韓国外務省でフランス語の通約官をしていた妻と、フリーランスでプロのギタリストをしていた夫による夫婦である。ある日妻の方が、スイスにある『在ジュネーヴ大韓民国代表部(Permanent Mission of the Republic of Korea in Geneva)』への派遣命令を受けたことをきっかけに、二人はジュネーヴへと移り住むことになった。

 その際『外交官の配偶者』として帯同ビザを取得できた夫だったが、不安定な職ゆえスイスでの労働ビザまでは下りなかったため、実質この移住で彼は失業状態に陥ってしまう。彼がそこまでして妻に付いていったのは他でもない、それほどまでに二人が愛し合っていたからである。それに生活の方も、妻の稼ぎがよかったため特段問題はなかったのだ。

 慣れない土地ながらも、充実して満ち足りた生活を送る夫婦。ほどなくして彼らの間に子供ができた。それこそがソユルである。毎日仕事に忙殺される母に代わって、彼女の面倒は父が見てくれた。ソユルはそんな父と、彼の奏でるギターの音色が大好きだった。母の帰宅が遅くて彼女が不安に駆られている夜でも、父が優しく「사랑해요(サランヘヨ:愛してるよ)」と言って眠りに就かせてくれた。

 やがて幼稚園に通い始めたソユルだったが、そこで思わぬ言葉の壁にぶつかってしまう。家庭ではずっと韓国語を話していたからだ。しかし心配ご無用! フランス語を話すことに関してはプロだった母親の教えもあり、すぐに彼女のフランス語は友達と話ができるまでに上達した。それからはむしろ、ソユルの方が友達に言葉を教える機会も多くなった。

 *

 母が代表部に赴任して5年あまりが経過したころ、ちょうど彼女の常駐任期とスイスでの在留資格(B許可)が切れたのだが、そのまま彼女はジュネーヴの韓国領事館に転任することになったので、問題なくB許可を更新することができた。スイスでの暮らしにすっかり慣れていた彼ら夫婦は、このまま永住権を獲得するつもりで、ささやかな生活を続けていた。

 6歳から小学校に上がったソユルは、しばらくは何不自由ない学校生活を送っていた。しかし3年生になった辺りから、一部の心ない生徒たちから嫌がらせを受けるようになり、徐々にそれはエスカレートしていった。主導グループの圧力が働くなか、それまでの友達からも無視されるようになってしまい、学校内での彼女は着実に孤立していくのだった。

 でも彼女はめげなかった。いつも学校から帰ったら父が温かく抱きしめてくれ、ギターを教えてくれたからだ。それにそのころには母の仕事も落ち着いており、帰りが遅くなることもなければ、週末よく家族でお出掛けすることもできたのだ。だからソユルは幸せで、父と母さえ傍にいてくれるなら、この世で他に何もいらないと本気で思っていた。

 だが運命は残酷にも、そんな彼女から父親までも取り上げたのである。そう、彼女が10歳になったころ――ちょうど一家が永住権を獲得できたころ――突然、父はこの世を去ったのだ。不慮の病だった。それまで強固に繋がっていた三角形から頂点の一つが奪われたのだから、家庭が元の構造を保てるはずもない――母はより仕事に没頭するようになり、ソユルはどこにいても孤独を感じるようになった。

 そんな彼女の心の支えだったのが、亡き父が残してくれた黄色いギターだった。父娘で弾いた思い出のギター……唯一、彼女の心に空いた穴を埋めてくれる物……必然的にそれは彼女の『言葉』となった。

 彼女は貪るように、世界中のインストゥルメンタル・メタルをコピーした。父から受け継いだ全ての技術を駆使して、6本の弦から無限の言葉を紡ぎ出した。ギターを弾いているときだけは、全てのしがらみから解放され自由になれる気がした。世界にブチ響け! これが私の魂の叫びだ――。

 そして彼女が最後に決まって弾くのが、父が作曲したオリジナルのギターソロだった。毎晩その儀式を行って、ギターを清掃してから眠りに就くのが、彼女の日課だったのだ。おやすみ、お父さん……また明日ブチかまそうね……。

 *

 そして彼女は14歳になった。12歳のとき気まぐれで始めたYoutubeやInstagram、主に演奏動画をアップしていた彼女のアカウントには、今や数万人のフォロワーがいた。しかしそれを妬んだ同級生数人が悪事を働き、ある日の学校に大量のビラがばら撒かれることになる。そこには卑劣に加工された彼女のインスタ画像を背景に、こんなコメントが記されていた。

 『La solitaire Hwang Soyul – Sa seule amie, c'est sa guitare.(孤独なファン・ソユル 友達はギターだけ)』

 さらに彼女が使っていたロッカーの鍵が壊されており、中にあった教科書やノート、扉裏に貼ってあった家族写真などがズタズタに切り刻まれていたばかりか、化粧品類も荒らされ、鏡も粉々に割られていた。これまで静かに耐えてきた彼女も、このときばかりは涙を堪え切れなかった。

 これは到底見過ごせないとして、学校側が実行犯たちを探し出し、問答無用で退学処分にしたのだが、同時にソユルと母親には転校を勧める事態となり、最終的には母の判断として二人とも、ジュネーヴから少し離れたグラン(Grens)という町に引っ越すことになった。しかしソユルは転校なんて無意味だと感じていた。前いたインターナショナル・スクールですらアジア人は自分一人だったし、今度の学校でもどうせ同じ、何も変わりはしないだろうと……。

 新しい学校に転入した初日、ソユルは学校の外観をバックに自撮り写真を撮影し、それをインスタにアップした。『私の新しい地獄』というコメントを添えて……。彼女がそれでも自己表現をやめなかった理由は紛れもない、それが彼女に残された最後の『言葉』だったからである。それに心のどこかに、いつか魂を共鳴し合える仲間と出会えるかもしれない、という淡い期待もあった。

 そして一日、また一日と過ぎていく日々。幸い目下、目立った嫌がらせは見られない。この学校は民度がいいのか? いや、まだ存在を認知されていないだけだろう……特定の誰かに認知されたが最後、また地獄の釜の蓋が開くのである。結局はそれが、遅いか早いかの違いだけ――。

 そんなことを考えていた水曜日の放課後、彼女のもとに奇天烈な髪色をした女の子が走ってきた。「あ、あんた! ふぁ、ファン・ソユルだよね!? ギタリストの!」急な展開だったので、反射的に「は、はい。そうですが」と頷いてしまうソユル。あっちゃ~、もう何か始まっちゃったのか――。「ウッソだろ……まさか今日の今日で『こんな適任者』と巡り会えるとか……完璧奇跡じゃん……」目の前で何やら興奮している女の子は、独話しつつひとしきり呼吸を整えた後、彼女に右手を差し伸べてこう言う。「いつも動画見てるよ! あんたのファン! いや~まさかウチの生徒だったとは……今インスタ見てぶったまげたよ!」そして女の子は、間髪入れず両手を合わせるのだった。

 「頼む! アタイのバンドに入ってくれ!」

 それがキアラとソユルの出会いだった。

 とりあえず二つ返事で加入を了承した彼女は、キアラとメッセージのやりとりするにつれ、すぐに確信する――この子は私と同類だ。この子なら私の情熱を分かってくれる、と――。次の日の放課後、キアラから呼ばれた教室のドアを開くと、そこには他のバンドメンバーたちがいた。みんな良い人そうだ。嬉しい! ここから始まるんだ、私の本当の青春が――。


 そう……だからこんな貼り紙なんて……怖くないんだ……。「別に気にしてませんよ。こんなの日常茶飯事ですから」こんな紙、あとで捨てればどうってこと――。

 「だったらなお悪いよ!」

 廊下に怒号が轟いて、驚いた彼女がロッカーから顔を出すと、隣にいたエリスが怒りで顔を上気させていた。「人の心を平気で傷つけるなんて……絶対に許せない……」知らなかった……この人、こんなふうに怒ったりするんだ……噂では誰もが彼のことを、『明るくて、何をされても怒らない人』って言ってたのに――。

 「ソユルちゃん……もし本当は辛いって思ってるならね、僕にちゃんと言ってね? 僕、精一杯助けるから!」未だかつて、そんな言葉をかけてくれた人がいただろうか? 思わず鼻の奥がツンとして、泣きそうになるソユル。だ、ダメ! 今こんなところで泣くわけには――。心の強さを振り絞って、零れそうになる感情を抑え込んだ彼女は、気丈な態度でこう返すのだった。

 「ありがとうエリスさん、私は大丈夫です。何たって私にはギターが……皆さんとのバンドがありますから!」そう……全ての感情は音楽で吐き出すんだ、音でぶつけるんだ!

 「そっか……うんっ、分かった!」しばらく彼女の本心を推し量ろうとしていたエリスだったが、彼女の言葉を信じることに決めたようだ。「よーっし! 一緒に学園祭で最高のライヴ披露して、いじめっ子たちを見返してやろうよ!」

 「フフッ、そうですね!」

 二人はメロイック・サインを交わし合って、それぞれのクラスへと別れていった。本当にありがとうエリス、私は本当に大丈夫。だってあなたたちのような仲間に出会えたんだから……キアラに見つけてもらって、バンドに誘ってもらってから私、今までよりももっと強くなれたから――。


<エリスの高校休日② 合同練習!>

 次の土曜日、2040/09/22の午前11時である。その日キアラの家に初めて、バンドメンバー全員が集まっていた。理由は明白、今日から本格的に課題曲『Stellaris Symphonia』の合わせ練習を始めることになったからだ。これまで各々で自主練を重ねていた彼ら。エリスとエミリーはかなり上達していたが、実質これが他のメンバーに実力を示す最初の機会だった。

 ちなみに親友のエリスやドラム練習中のエミリーはもちろん、キアラの家には何度も来たことがあったが、ソユルとソフィーはこれが初めてだったので、そこはちょっぴり新鮮な休日風景となっていた。またキアラの家は自転車で来られる距離にはあったが、その日の訪問者たちはエミリーを除いて皆、重い機材を輸送する都合で親から車で送ってもらっていた。

 みんなで協力してそれらの機材を目的の部屋に運び入れたところで、すでに体力の大半を使い切ったかのようなエリスたち四人。そんな彼らを見た空手少女エミリーは、「みんなだらしないぞ!」と叱咤激励するも、宿敵であるキアラ家の『太っちょ猫』が現れたが最後、「デブ猫覚悟ー!」と突っかかっていっては、「シャーッ!」という威嚇とカウンター猫パンチを食らって戻ってきたので、威厳もへったくれもなかった。

 「もう午前中は機材の準備だけして――くはーマジで暑い――午後から練習ってことにしよう」大粒の汗を拭うキアラが告げると、みんなが「さんせーい(ですわー)」と弱々しい声を上げる。まだ残暑の厳しい季節。特段スポーツ経験のないエミリー以外の四人にとっては、アンプを運ぶ程度の肉体労働でも堪えるのである。

 その後アンプを電源に繋いだりシールドケーブルを挿したりした彼らは、キアラのお爺ちゃんが持ってきてくれたアイスキャンディーを堪能して火照った身体を冷やした後、持ってきたサンドイッチなどの昼食を食べて英気を養った。さぁさぁ練習開始だというところで、エリスが自前のベースをケースから取り出して掲げる。『んっ? ここはどこだ? ってチャンネーがいっぱい!』by フロスティ。

 「見てみてー! これが僕の相棒、『フロスティ』だよー! もう写真では見せたけど、実物はもーっと可愛いでしょー?」彼が早速、生まれたての我が子を自慢する親バカ母さんみたいな言動をする。キアラたち一同も、そんなときのママ友みたく大袈裟な表情を浮かべては、「うおぉ~可愛いじゃん! 目元なんかエリスにそっくり!」などと取って付けたようなコメントを……って、目元がそっくり? 今の言ったの誰? うん、たぶん空耳だな!

 一方、注目の的になったフロスティは、『うっひょー! べっぴんさんがイチ、ニ……四人も! もしかして僕ちゃんたち含めて、天使の6Pかい? アオアオォ―!』と謎の雄叫びを上げていた。彼は楽器であるにもかかわらず、なぜか他の楽器たちには目もくれていないようだ。主な理由はと言うと、長年楽器店で暮らしていたから養護施設の家族みたいにしか思えないことと、他の楽器が次々に売れていくのに自分は全く見向きもされなかった辛い過去があること、そして楽器は自分の『イイところ』を愛撫してくれないからである(結局最後の理由がデカイ)。

 そんな彼の前に、一台の特別な楽器が姿を現した。『へっ? あの娘はいったい……? なんて可憐なんだ……』by フロスティ。

 「うっわー! ソユルちゃんのギター、カッコイイー!」エリスが、今しがたソユルが取り出した黄色のギターに目を奪われる。全体が派手な蛍光イエローで、それを引き立てる黒のピックガード(ボディ表面を覆うプラスチック板)や、オレンジのピックアップ、ボリューム・トーンノブ、ポジションマークなどが特徴的な、雷光とも月光とも形容しうるストラトキャスターである。一見して、控えめな印象のソユルとはミスマッチにも思えるが……。

 「だしょだしょ! ソユルのギター、イケてるっしょ?」キアラが自分のことのように語り始める。「2012年に限定生産された『Ibanez RG1XXV FYE 25周年記念モデル』だわさ。超絶レアなヴィンテージギター……アタイもこれ持った彼女をインスタで見つけたときは、そりゃもう興奮したねぇ~」そこで不敵な笑みを浮かべる彼女。「ソユルの演奏見たらビックリするよ。マジ、ぶっ飛んでるから!」

 『アイバニたんのぶっ飛んでるとこ見たい! 僕ちゃんもうメロメロォ~♡』by フロスティ。いや、お前もアイバニだろ! 他に呼び方はないのかね? えぇっと……ダブルエックスヴィー、とか……?

 立て続けに褒められたソユルは、「ど、どうも」と眼鏡を押し上げるだけだったが、その慎み深い所作のなかには確かに、誇りと自信がみなぎっていた。「でも珍しいギターと言えば、キアラさんのもすごいですよね?」

 「おっ、ご紹介どうも! そう言やぁ、お嬢とソユル以外にはちゃんと見せたことなかったね。そんじゃ、改めて紹介するわ――」傍にあったハードケースを開いたキアラは、そこに大事そうに仕舞われた、禍々しくも美しいギターを取り出して掲げる。「こいつがアタイの愛機、『Schecter Hellraiser C-1 FR S Black Cherry』だ。漆黒のサクランボ色した、地獄より出でる死神の鎌さ!」そのギターからは明らかに、闇のオーラが漂っていた。

 『うぉっ! こっちのカノジョもマブイぞ! スパイシィ~』by フロスティ。

 「あ、あのぅ……ワタクシたち『ヴァルキュリア』でしたわよね、確か?」堪らずソフィーが、バンドコンセプトを再確認する。「魂を救済してヴァルハラへ導くんではなくって?」

 「半分の魂はね」キアラがヘルレイザーにシールドを繋ぎ、アンプとエフェクターの電源を入れてから、ボリュームを上げていく――ビィビィビィというノイズとともに、不穏な空気が立ち込める。「残り半分はアタイが『狩る』のさ!」突如、彼女が3弦14フレットのピッキングハーモニクスを炸裂させ、それをトレモロアームで「ギュイーン」とアップダウンさせる。その強烈なサウンドはまさしく、振り下ろされる死神の鎌を彷彿させるほど、空を裂き魂を両断する切れ味を宿していた。

 『僕ちゃんのハートも滅多切りにされちゃったぁ……ヘルレイザーちゅあんラブゥ~♡』by フロス――えぇい、うるさいわフロスティィィィ! どんだけ惚れっぽいんじゃ! しばらく黙っとけぃ!

 「さぁて戦乙女ども、腕を磨くよぉ! 刃を研ぐよぉ! 来るべき『ラグナロク』に備えてね!」

 鎌を振りかざして戦意を鼓舞するキアラ。そんな彼女に呼応するかのように、四人は照れくさそうに楽器を構え、演奏準備を整える。空気が張り詰め、エミリーがスティック・カウントを4拍打ったとき、五人は初めて一つとなった。

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