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ELLIS-エリス- 世界最高の生き方(もっと優しい世界ver.)  作者: 結逸夢弐


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第十四章 - 青春時代② 高校生活 Ep.2:メンバー集め!

<エリスの高校生活② メンバー集め!ソフィー編>

 「でね……キアラに誘われてバンドを始めたんだけど、よかったらソフィーもどうかな?」

 その日の放課後、ティータイム中だったソフィーのもとを訪れたエリスが、早速『バンドメンバーにならないか』と彼女に声をかけた。ここはカフェテリアではなく、モーザー学校の外にある木の下の段差スペースで、彼女はよくそこで父親のお迎えを待ちながら、水筒に入れてきた紅茶を楽しんでいるのだ。

 たまにそこでレジャーシートを広げてピクニックまでしている彼女は、先生たちに何度も「植木のところには入ってはいけません!」と注意されていたが、「何人たりともワタクシの午後のティータイムを邪魔させなくってよ?」と、全く聞く耳を持っていないようだった。彼女は内申書に多少傷を付けてでも、それだけは譲れないと高を括っているようだ。

 ライラック色の日傘ロリータ・デザインをクルクルと回しながら、水筒のカップを優雅に口に運んだソフィーは、やんわり温かい紅茶を無音で口内に吸い込んでから、少しの間ホッコリして、やがて怪訝な表情を浮かべて「バンドですって?」と言った。

 「そうだよ! ソフィーはピアノが上手でしょ? キーボードをお願いできないかな?」エリスがまずソフィーに目を付けた理由は単純で、彼女がピアノを習っていて、何度かコンクールで受賞経験があることを知っていたからだ。

 「嫌よ」即答だった。エリスが『どうして?』という悲し気な顔をすると、ソフィーがツンケンした態度で理由を述べる。「確かにワタクシ、おピアノは嗜みますけど、ワタクシが弾いているのは『クラシック』ですの。キアラに誘われたってことは大方、演奏するのは『うるさくて野蛮な音楽』なのでしょう? ワタクシの趣味ではありませんわ」

 「シンフォニック・メタルはそんな音楽じゃないよ!」エリスが食い下がる。自分が大好きなもの――綺麗で美しくて、自分を幸せな気持ちにしてくれるもの――を先入観だけで決めつけられるのが我慢できなかったのだ。「メタルにはたくさんのサブジャンルがあってね? 例えば『メロディック・スピード・メタル』や『パワー・メタル』、『エピック・メタル』、『ペイガン・メタル』、あっ『ゴシック・メタル』や『ネオ・クラシカル・メタル』っていうのもあるんだよ? 確かに音数が多いからうるさく感じるかもしれないけど……」

 まぁキアラがもっと過激なジャンル、『エクストリーム・メタル』や『ブルータル・デス・メタル』も好きなことは事実だっただけに、それ以上言い返せなかったエリス。はぁ、ソフィーが入ってくれたら、バンド活動ももっと楽しくなりそうだったのに……。半ば説得を諦めてしまっていたエリスだったが、次の彼女の言葉を聞いて、元気を取り戻す。

 「あら、『クラシカル』に『ゴシック』? なかなかいい響きですわね?」ソフィーがお茶菓子として持ってきていたスコーンを鞄から出しながら言う。「優美な旋律が特徴ですの?」

 「そうそう! どっちもオーケストラルな音楽だけど、ゴシックはより耽美的で様式美を追求したジャンル、ネオクラはより高度な速弾き演奏を多用するジャンルだよ! だからネオクラならきっと、ソフィーの演奏技術も遺憾なく発揮できると思う! どう、興味湧いた?」エリスが『食いついたお客様を逃しはしないぞ』という気概を持って擦り寄る。

 「ふふ~ん、多少は腕慣らしになりそうね?」ソフィーはスコーンを齧ってからお茶を啜り、しばらく考えに耽ってから、こう言った。「まぁそこまでおっしゃるんでしたら、よくってよ? そのバンドに加入してあげますわ」エリスが満面を笑む。やったー! ソフィーが仲間になってくれた――。しかし彼女はそんな甘いお客様ではなかった。「ただし条件がありますわ――」突然ソフィーが日傘を使ってエリスの身体を引き寄せ、外からの視界を遮りながら彼を抱き寄せては、その耳元で囁く。

 「あぁ『ワタクシの』エリス……あなた、ヴァケーションの間に何かありましたわね? いつも通り振舞っていても、ワタクシの目は誤魔化せませんわよ」エリスのシャツの中に手を入れ、彼の胸元をまさぐり始める彼女は、すぐに彼の身に起こった変化を感じ取った。「なるほど、違和感の原因はコレですのね――」彼女がエリスの身に着けているブラを引っ張り上げると、途端に小さく膨らんだ乳房が無防備になる。「全く忌々しいですわ! あなた、いつから女になったんですの?」彼女が乱暴に乳房を揉みしだき始める。

 「ふあっ、やっ、そふぃ、やめてよっ」エリスが小声で拒絶の意思を伝える。今は日傘で死角になっているとは言え、あまり騒ぎ立てると他の人の注目を集めてしまうと思ったのだ。「き、今日のソフィー変だよ? どうして、こんなことすりゅ――あっ」続いて彼女が先端をものすごい力でつねってきたので、その痛みと衝撃から思わず悲鳴をもらしてしまうエリス。気づけばソフィーの指が、彼の『なけなしの脂肪』を引っ張ったまま徐々に捻られていき、エリスは苦悶の声がこれ以上もれぬよう両手で口を塞いでいた。だ、ダメッ! ここで強く拒絶したら、ソフィーがバンドに入ってくれなくなるかも……今は耐えなきゃ……とにかく耐えな――。そこで彼女の攻撃が終わった。

 「さぁエリス、答えなさい。いつからこんな『卑猥な』身体になったの?」普段のソフィーはもう少し温厚で、『スキンシップ』も軽いものが多かったのだが、今日に限っては虫の居所が悪いようだ――とは言え、そんな言い訳は通用しない。今のは完全に『暴力』だし、何なら『セクハラ』でもある。

 「せ、先月からエストロゲンのお薬飲んでるから……それで、お胸が大きくなってきたんだ……」エリスが苦しそうに説明する。これまでソフィーから受けるスキンシップは、くすぐったいくらいで特段嫌ではなかったが、今みたいにゾワッと冷たい感じがしたのは初めてだった。もし次こんなことがあるなら、そのときこそ強く『やめて!』って伝えないとと彼は思った。

 「エストロゲン? あぁそういうこと……許しませんわ!」ソフィーがその一瞬のうちに、驚くべき思考速度で事情を察するが、決して理解は示してはいなかった。「あなたはオトコノコのはずでしょ? そんなのおかしいですわっ!」

 「どうしてそんな――こ、これは僕の身体の問題だよ?」エリスが反抗する。この2040年の時代に、こうも真っ向からアイデンティティを否定され、選択の自由を脅かされたのでは、さすがの彼でも強いストレスを感じて当然だった。「おかしいのはソフィーの方だよっ! 今日どうしちゃったの!?」

 「べ、別にどうもしないわよ……」ソフィーが歯噛みして口ごもる。彼女が押し殺している感情とはズバリ、『嫉妬』である――もっと言えば、エリスの持つ『完璧なまでの美しさ』への嫉妬だった――。


<番外編① ソフィーの闇 - 終わりなき美への渇望>

 ソフィーは人の何倍も美しいものが大好きな少女だった。『美』そのものを敬愛していた彼女は、絵画や映画、彫刻、音楽などの耽美的な芸術に陶酔していたし、咲き誇る花々や大空に掛かる虹も崇めていた。だが彼女が何よりも愛していたのは、『プリンセスのように美しい自分自身』のことだった。と言うのも彼女は、客観的・統計的に見て世界人口の上位0.0001%に入るほどの美貌――つまり百万人に一人ワン・オブ・ア・ミリオンの美貌――を持っているのだ。当然、その辺の学校や地域コミュニティーでは余裕で一番になっているはずである……そう、もしエリスさえいなければ……。

 子供のころはただエリスのことが好きだった。自分と釣り合うほどの美しさに加えて、あの純粋で従順な態度は、まさに自分の理想の『召使い』だったからだ。それでも成長するほどに気づかされる自分と彼との差、味合わされる屈辱――彼とのツーショットで周囲の人たちがまず目に留めるのがエリスであり、その視線が彼女に向けられるのはずっと後になってからだ……。あぁ忌々しい……忌々しいエリス――。

 それでも悲しき性かな、彼女はそんな憎しみと同じだけ、エリスを強く愛してもいた。抗いたくとも抗えない……とてつもない求心力……だから忌わしいのですわっ! だいたい何なの? こいつの奇跡みたいな容貌は! 確率的にいくつよ!? 0.00000……えぇい分かるもんですかっ! 

 頭が爆発しそうなソフィーに代わって説明すると、エリスのレアリティは十億人分の一人ワン・オブ・ア・ビリオンであり、2040年時点での世界人口が約90億人なので、上位9人に入っている計算である――まぁこの世界(作品)の神の立場から事実を述べさせていただくのであれば、この時点でのエリスは世界ランキング第四位である。上の三人はもはや宇宙人なので、現時点で詳しい言及は控えるが、第一位はスウェーデンの10歳の少女で、第二位がロシア出身で今はリトアニアに移り住んでいる12歳の少女、第三位がカナダの11歳の少女である。

 そう、トップ・ランカーのほとんどが高緯度国出身で高緯度国在住の10代前半の白人少女である。容姿の美しさは判定する人の主観に委ねられるが、およそ思春期を迎えたばかりの10~12歳が最も『幼さ』と『色気』のバランスがいいとされる(異論は認める。あくまで一般論である)。ただしこの年齢は肌荒れしやすい時期でもあるので、ランキングは日々刻刻と変化しているのだ(誤解しないでいただきたいのが、この『ランキング』とは実際に行われた実験結果などではなく、神の視点から見た事実上のランキングである)。

 だから比較的低緯度のスイス出身&在住で、かつ15歳の男の子であるエリスが第四位に入っているのは、本当に奇跡のような状況である。実際エリスは8歳の時点で一度『世界ランク第一位』になっており、そこから14歳までで十五位まで転落し、そして15歳になりエストロゲンを服用し始めて――また、ちょっぴり恋の味も知って――から一気に四位まで上昇したのだ。彼がここまで健闘できている理由はまず、言うまでもなく遺伝子が優れていることと、それから『無精巣症』という稀有な疾患でホルモンの悪影響を受けていないこと(彼は生まれた本来の姿をしていると言える)、そして彼の育んできた後天的生活様式が素晴らしいからである。

 ここから大人になるにつれて、エリスのランキングは緩やかに下降していくことになるが、それでも同年代において相対的にトップクラスであることは変わりないし、心の美しさまで考慮に入れるなら圧倒的に……いや、それはこれを読んでくれている人なら言わずもがな理解してくれていることだろう。さて、そろそろ話をソフィーの胸中に戻そう――。

 つまるところソフィーは、そんな尋常ならざる比較対象が常に隣にいたことで、本来得られていたはずの名声(そして人々からの羨望の眼差し)の大部分を取りこぼす結果となり、ゆっくり確実に自尊心が削られていたのである。本当に自分をプリンセス扱いしてくれるのは父親だけだったし、薄々自分が『真のプリンセスではないのかもしれない』という気づきとともに、どこか諦めや絶望にも似た感情も芽生え始めていた。

 そうですわ……どうせワタクシは『ありふれた一輪の花』ですの……ありふれた、野に咲く花……すぐに心も身体も醜く枯れていくのですわ……こんな完全無敵な『プリザーブド・フラワー』になんて最初から勝てるわけ――。そのとき彼女の心にどす黒い感情が流れ込んだ。嫌っ! ワタクシは負けを認めませんわっ! エリス! たとえあなたがプリザーブド・フラワーであろうとなかろうと、花であるならば簡単に壊れるのですわ! ワタクシがあなたを壊す! ぐちゃぐちゃに壊すぅぅぅぅ! そして思い知らせてあげますわ、この世界に『永遠の美しさ』などありはしないとっ!

 「ぐちゃぐちゃに……」

 「うっ……ぐっ……そ、そふぃ……」

 気づくとソフィーの右手は、エリスのシャツの内側に潜ったまま、彼の首を絞めてつけていた。いけない、このままではエリスが死んでしまう! そう分かっているはずなのに、右手の力がどうやっても抜けなかった。このまま彼を殺してしまえば、いっそ楽になれるのかもしれない……そんなある意味で『自傷的』な考えが頭にこびりついて離れない――。そのとき、一つの呼び声が聞こえて彼女は我に返った。

 「おーい、ソフィー! 私のプリンセス~、パパが迎えに来たよ~」声の主はソフィーの父親だった。彼は黒塗りの高級車を学校の駐車場に停めてから娘のスマホに到着の知らせを入れたのだが、一向に返信がなかったので敷地内まで呼びにきたのである。とっさに彼女がエリスを解放すると、すぐさま「ケホッ、ケホッ」と激しく咳し出す彼。本当に意識が落ちる寸前だった。かなり危なかった……。

 ソフィーが鞄を持ち上げてその場を立ち去る。内心エリスを殺さずに済んで安堵していた彼女だったが、プライドが邪魔してそんな素振りを見せられなかった。最後、振り返って別れを告げようとした彼女は、さらに狂気じみた言動をしてしまう。「さきほどのバンド加入の話ですけど、ワタクシが提示する条件とは他でもない――バンド活動中ずっと、あなたがワタクシの『奴隷』になることですわ。ワタクシの命令には絶対服従すること! よければ明日また返事に来なさいな」

 エリスはまだ咳き込んでいて、それどころではなかったが、彼女から言われた心無い言葉をちゃんと聞きとっていたし、なぜ親友がそんなことを言ったのかも分からず、ただただ悲しくて悲しくて、目から涙がボロボロと溢れてきた。

 歩き去る日傘の下で、ソフィーが不気味にほくそ笑む。フフッ、エリス……この契約を結んだが最後、ワタクシがこの手であなたを壊してあ・げ・る♡


<エリスの高校生活③ メンバー集め……エミリー編>

 その日あれから、呆然と自転車置き場へ歩いていたエリスの背後に、誰か接近してくる影がある。「よーっすエリスゥ~♪ 今帰りぃ?」影の正体は空手少女のエミリーだった。彼女に後ろ髪をクシャクシャにされたエリスは、「うん、そうだよ……」と力ない返事をすることしかできない。頑張って元気に振舞おうとしたが、どうしても無理だった。そんな彼の様子を心配するエミリー。「どうしたの、顔色悪いよ? お腹痛い? それとも……何かあった?」

 「ううん、何でもな――」

 「――ないわけないっしょ!?」エミリーが詰め寄る。面倒見のいい彼女からすれば、今のエリスが一大事を抱えているのは明白だった。「言ってみ? 誰かに何かされたのか?」

 エリスはほんの数秒、彼女に事情を打ち明けて助けを求めたいという欲に駆られたが、それでエミリーがソフィーと対立でもしたらそれこそ嫌だなと思い、考えを改める。もうカイトとテムバのときみたいな、友達同士の喧嘩なんか見たくなかったのだ。「心配してくれてありがとう。ちょっとお腹痛いんだ……でもエミリーと話してたら治ってきたよ!」

 もっともらしい嘘でお茶を濁す彼に、エミリーは怪訝そうな目を向けてから、やがて気を遣うように「何それっ、アタシは歩く胃腸薬かい!?」っとツッコミを入れ、事態を笑って受け流す。あっちゃー、こりゃ相当大ごとだね……エリスがわざわざこんな嘘つくなんて――。「けど真面目に、何か困っているならいつでもアタシに言いなよ?」そう言ったエミリーもまさか、次にエリスからそんな相談を受けるとは思ってもいなかった。

 「エミリー……楽器弾ける?」

 「はっ?」呆気にとられるエミリー。

 「うん。僕、キアラとバンドを始めたんだ。それで今メンバーを集めているところなの……エミリーもどうかな?」おいおい! そんな暗い顔して誘われたって誰も乗ってくれるわけないだろエリスゥ―! そんなセールストークじゃあ超お買い得の『空気清浄機』でも誰も買ってくれんぞ!? 頼むからそんな営業職を一年持たずして首になるリーマンみたいな顔してアタシを見ないでくれぇぇぇぇぇ!

 「ば、バンドかぁ~。アタシ楽器なんか弾けないし、空手も忙しいからなぁ~」エミリーが困ったように頭を掻く。エリスは「そうだよね……」と言って明らかに沈んだ様子だった。くっそ~まいったな~、アタシこの子の笑顔が見たいって思っちゃってる――。「エリスはさ、本当にアタシとバンドやりたい? アタシが仲間になったら嬉しい?」エミリーは思っていた、『もし彼がアタシ自身を必要としてくれているのであれば、助けてあげよう』と……。

 「も、もちろんだよっ!」エリスが必死に訴えかける。「僕、大好きな君たちとバンドできたら、どんなに素敵だろうって――」彼の目から青春の汗が吹き零れる。「でもみんな事情があるのも分かってるし、僕のワガママで迷惑もかけたくなくって、辛くって……」あぁもう! アタシャ泣かせたかったわけじゃないってのに! こりゃ前に誘った奴に相当どぎつい断られ方したな? ったくしょーがないな――。

 「分かった! 分かったから泣かないでおくれよ!」エミリーが彼を宥める。「バンド活動と空手の二刀流、結構じゃないの! やってやれないことはないっ!」彼女が空手の象徴的な動作――両腕で十字を切って中段構えへと移る動作――を行って続ける。「押忍っ! アタシも音楽やるよ~! それでい~い?」

 「ほ、本当?」エリスが涙を拭いながら5歳児のようにしゃくり上げている。その姿があまりにも愛らしすぎて、エミリーのハートが『キューンッ』と締め付けられた。あれっ? 笑顔みたいって思ってたけど、これはこれで……何てわけにはいかないな! やっぱエリスは笑顔じゃないと――。

 「おぅよ! 空手ガールに二言はなぁ~い!」エミリーが緩い『正拳中段突き』をエリスのみぞおちにコンッと打ち込む。「別にエリスを喜ばせたいってだけじゃないよ? 去年『シング・ストリート』って映画を観たときからさ、アタシも結構『バンドしてみたい、楽器弾いてみたい』って願望は心の片隅にあったんだ! だからぜひ混ぜてよっ! 一緒にシング・ストリートばりのイカしたスクール・ライブやっちゃおう!」

 「シング……ストリート?」その作品に心当たりがない様子のエリス。アニメ映画の『シング』なら知ってたのだが……。

 「おっ、未視聴かい? ならオススメするよ! きっと元気になるから」とエミリー。彼女はもう彼の笑顔を待ちきれないようだ。「それはそうとして、アタシもバンドに入るんだよ? 嬉しくないの?」

 「う、嬉しい! すっごく嬉しい!」エリスが最後の涙を拭って、泣き腫らした目を細めて作った、クシャクシャな笑顔を彼女にお返しする。「へへっ、ありがとうエミリー!」あぁこれよこれっ! 最高のプレゼントすぐる~! ぐへへっ、泣き笑いってのがレア度高いんよね~!

 「じゃあアタシこれから空手の稽古だから、もう行くね?」ルンルン気分で先に駐輪場へ向かうエミリー。「バンドの件は明日詳しく聞かせて~」

 「うんっ! バイバ~イ!」やったぁ! 夢じゃないよね? エミリーが加わってくれたんだ! 嬉しいな……みんなで素敵な音楽を奏でられるといいな――。

 *

 エミリーと別れて家に帰ってきたエリスは、早速テレビでNetflixを起動し、『Sing Street』と検索してみた。すると偶然にも本作がアップされていたので、再生してソファーに腰かける彼は、お気に入りのぬいぐるみを抱き寄せては、一緒に観賞し始める……。

 本作はアイルランドのダブリンを舞台としていて、ストーリーはこうだった。父親が失業した影響で私立校から無料の公立高校(実在するカトリック修道会が運営する学校)へ転入させられた主人公の男の子が、ひと目惚れした女の子の気を引くためにバンドを結成し、厳しい校則を掲げる教師の圧制や、いじめっ子からの卑劣な妨害に抗っていくのだ。バンド名は学校名『Synge Street』にあやかって『Sing Street』と決まる。

 最初こそコピーバンドだった彼らであるが、主人公が兄から「オリジナルで勝負しろ」と諭されたことで本当のスタートを切る。バンド活動が軌道に乗り始めたところで、家の中での練習シーンになり、オリジナル楽曲『Up』が流れ出す。それはヒロインにひと目惚れした主人公の心境を歌った曲だった。Bメロからサビに掛けての歌詞が、エリスの心に染み渡る。


 そう、彼はベッドのなかで『まどろむ』ような、美しくも不思議な感覚に苛まれていた。彼女と出会ってから彼の心はどこかハイで、これまでの自分は壊れていき、まだ見ぬ輝きを放って高次の舞台へと引き上げられていくような感覚だったのだ。

 そんな甘酸っぱい恋と青春の気持ちが、その歌詞には綴られていた。その録音テープを受け取った彼女が、自室で再生しながら涙を流すシーンで、エリスの目からも同じ気持ちが零れ落ちた。


 ありがとう、エミリー。これで明日きちんとソフィーと向き合えそうだよ。それにキアラもありがとう……君の運転する夢にヒッチハイクしたみたいに、もう君の夢は僕の夢にもなったんだ。僕たち、きっと最高のバンドにしようね――。

 さて、次章から本格始動する『ヴァルキュリア・セレナード編』! はたしてエリスはソフィーの闇を振り払い、感動の学園祭を迎えられるのだろうか!?

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