第四話 戦士
どう足掻いても戦士を先に殺すのは無理だな。…魔族から逃げる事を優先してクロスボウを置いてきたのは間違いだったな。
今更戻れないし、そもそも戻る気なんて無い。魔法使いと僧侶の再生は始まってなさそうだな。勇者は…まだ立て治れてないのか。
メイスの先が、隣の家に向くように構える。まるで投槍のような体勢のまま、特製メイスを家に投げる。全力で投げたメイスは家の壁を破壊して、ドガァン!と大きな音を立てた。戦士がその方向を向いた瞬間、俺はマチェットで勇者の首を跳ね飛ばす。すぐに戦士に気付かれ、長柄の斧の追撃を受ける。咄嗟に攻撃に被せたマチェットが折れ曲がってしまった。
「ひぃ〜すげぇ力。にしても勇者の仲間なんて貴族のボンボンかご機嫌取りの道具だけかと思ったが、お前、やるじゃねぇか。」
折れ曲がったマチェットはその辺に置いておき、予備に持ってきたロングソードを構える。
「目的は?」
「目的?素直に言うかよ筋肉野郎。」
戦士が斧を構えた。久し振りの感覚だ。全力の殺意、わかりやすい実力者。冷や汗が頬から落ちる。さっきの様に、正面から受ければ、下手したらそのまま、叩き斬られておしまいだ。
拳にありったけの力を込めて、舗装された道をたたき割る。パラパラと舞い散る砂、瞬きの一瞬に、戦士に距離を詰められた。咄嗟にロングソードで後ろへと流し、そのまま首筋へ刃を下ろす。しかし、柄の部分でロングソードは弾かれてしまった。
一旦後ろに引きつつ、さっき割った道の欠片を投げる。余裕の表情で払われた。
その後も、ギリギリのタイミングでの後退が続く。
「どうした?さっきの笑顔が消えてる様だが。」
「…そういう事もあるだろ。」
戦士は俺と俺の回りにしっかり警戒している。
「ブォー!!」
オークが咆哮する。戦士はオークに気付けず、咄嗟に避けるも、左肩に大怪我を負った。戦士は困惑している。気配に気付け無いことなんて今までは無かっただろうからな。
「これ知ってるか?」
「火薬…。だからなんだ。」
微かに戦士は眉をひそめる。
さっきから撤退する度に仕込んでいた。目的は感覚を鈍らせる事。
「ボンボン音が近くで鳴ると、人は小さな音に気付けなくなっていくんだよ。慣れだな。」
勇者は今は居ない。つまり、勇者の倒すはずのオークはどうなるか。
答えは不死身だ。
「じゃあな戦士さん。また今度会おうな。」
振り返り一撃で首を飛ばしても、オークは止まらない。もう家に帰る…訳ないだろう。オークから逃げるには匂い消しが無ければ無理だ。匂いを追跡され、殺しに来る。なにより、戦士がそれを良しとしない。
村の崩壊した家や、瓦礫の影を移動し戦士に見つからないように近づく。ついでにメイスも回収だ。我ながらいいアドリブだ。
オークに一撃を入れる刹那。戦士の首を長柄のメイスでたたき割る。
すぐに匂い消しを使って、オークから逃げた。
高台から村を見下ろす。上手く言った作戦に大満足だ。誇り高き戦士は撤退を考えない。絶対に恥をさらさない。
だからな、隙晒して負けるのさ。