第三話 襲撃
「魔族だー!」
悲鳴と共に、村は混乱の渦に飲み込まれた。崩れ落ちる家々。魔族の魔法が轟き、大地が悲鳴を上げる。
高台からその惨状を眺めていると、少年が崩れた柱の下敷きになりかけているのが目に入った。
「……一応、王国からの表彰目当てだからな。外面は良くしておくか。」
静かに高台を降り、少年へと近づく。魔族に気づかれないよう、慎重に。
柱を持ち上げれば簡単に助けられるが、下手に動かせば周囲が崩れ、魔族に気づかれる危険がある。
俺は愛用のマチェットを柱と地面の間に差し込み、慎重にてこの原理で持ち上げる。
「あ、ありがとう……!」
少年の足は血に濡れていた。……おぶってやるか。
村の外にある避難所まで運ぶと、母親らしき女が泣いて感謝してきた。
(いつもなら、これでもかってほど金をむしり取るが……まぁ、いいか。)
俺は無言で村へと踵を返す。
――戦いの火蓋は、すでに切られていた。
勇者一行と魔族が激突している。
「……期待外れだな。」
剣筋は荒く、フォーメーションも雑。仲間同士でようやく死角を補い合うが、戦士以外は目も当てられないレベルだ。
しかも、勇者の武器は剣一本。まるで剣豪気取りか何かか?
「ナイフくらい持てよな……。説教臭い思考に、歳を感じるぜ。」
……まぁ、俺には好都合だがな。
魔族の断末魔が響く。
「さて─金を受け取る準備といこうか。」
俺は長柄の特注メイスを手に、静かに勇者へと歩み寄る。
そして、お手製の魔物仮面を被る。
(適当に袋にそれっぽい顔を描いただけだが……まぁ、顔が隠れればOKだ。)
まずは僧侶を殺す。回復魔法があると厄介だからな。
僧侶が視線を逸らした瞬間、足に込めた力を解放する。
――ゴシャッ!
メイスを振り抜くと、僧侶の頭部が弾け飛んだ。
勇者の顔に血と肉片が降りかかる。
「……ッ!!」
驚愕の表情。次の瞬間、俺は胡椒を取り出し、魔法使いへと投げつける。
咳とくしゃみに悶える魔法使いの頭を、容赦なく叩き潰す。
一度退く。
家の影で、メイスについた血を拭いながら様子を伺う。
勇者は呆然と仲間の名前を呟いている。
だが、戦士の方は違う。
視線の動き、足の配置、剣の微妙な角度──すべてが洗練されている。
「……流石、王国最強の戦士ってわけか。」
だが、相手が悪かったな。
俺はこの手を、金のために血で染め続けてきた。
下手な暗殺者より、よっぽど殺し慣れてんだよ。
さて――勇者の番だ。
その悲しみに沈む首を、一撃で吹き飛ばしてやるさ。