第二話 それは俺のもんだ
俺は状況を整理する。この本の正体は勇者の未来を示す物だとして、その物語は邪魔出来ない。こう仮定した場合、勇者は俺と会話出来ないかもしれない?邪魔出来ない=オークは勇者の殺す星の元に産まれたって事だ。可哀想なこった。ただ、そうなると俺は行動出来ない。俺が動けば未来に影響がでるからだ。しかし、完全に決まっているのではなく、物語の要所を邪魔できないとすれば?
そう考えれば、これならさっきの俺は否定されないし、辻褄もあう。未来を知った上で行動しても問題無さそうだ。よし!こう仮説を立ててみよう。
なら、これを利用してみるか。せっかくの機会、黙って見るだけってのも趣味じゃない。
どうせ知ってしまった未来を待つのなんてごめんだ。
しかし、期間限定の不死身のオークなんて使い道はあるか?俺は思い付かない。そこで俺はひとつの作戦を思い付いた。
この作戦の前提を説明しよう。勇者とは、魔王とその眷属である魔族に攻撃できる特別な存在だ。その仲間も同様だ。俺みたいな一般冒険者はどうやったって刃が折れて攻撃できない。だが、王国は魔族を殺せば金をくれると言っている。役に立つからそんな人材、欲しいのは当たり前だ。
そして勇者と仲間は不死身と言われている。傷つきはするが、死なないそうだ。だから最後まで戦い、魔族を倒すらしい。しかし、頭に怪我を負った時、戦闘の記憶が飛んだそうだ。それでも戦うとは素晴らしい精神性だ。
正直な所、俺はそんなに魔王を脅威と認識していない。そりゃ勇者が倒してるから魔族なんて見たこと無いからだ。言葉だけじゃ実感はない。
しかし、こんな日銭ではなく、大金が欲しい。モッフモフのソファでふんぞり返って人を見下したい。そこまでは行かなくとも金は欲しい。
魔族を村に連れてって勇者と戦わせるのはどうだ?勇者の動向を知っている。物語と関係ない魔族と勇者はどう戦うのだろうか。好奇心は猫を殺す。俺は思い立ったらそく行動。魔王の領域へ出発した。
禍々しい魔王の領域で、魔族を探す。余りに最悪の作戦についていない良心が痛む気がする。
「真っ黒な角。立派なもんだな。」
…普通に魔族がいた。人型の魔物とは不気味なものだな。実を言うと見たのは初めてである。そもそも会おうとも思わなかったから、当たり前ではある。
その辺の石を投げたら、鬼のような形相で魔族が追ってきた。尻でも叩いて挑発する予定が思ったより早くて全力疾走になった。
「勇者様、勇者様…。私を救って下さい。な〜んてな。」
笑いながら逃げる男と、鬼の形相の魔族。
「ハハハッ!」
ガテーノはクズであった。