第一話 英雄の辿る道
俺はガテーノ。ここ王国にて、冒険者をしている。依頼を受けて、魔物を倒す。そして、報告と素材を明け渡して日銭を稼ぐ。俺のルーティーンだ。
そんなある日、俺は木の陰に古びた本を見つけた。こういうのは高く売れたりする。とはいえ、中身が気になる自分もいる。取り敢えず家へ持ち帰った。
タイトルは「英雄が辿る道」だそうだ。いかにもな英雄譚でも始まりそうなタイトルだ。ここで、期待は打ち砕かれた。
「…高く売れそうにねぇな。」
まぁ、コアなファンがいたり、たまにこういうのも高かったりする。取り敢えず中身を読んでみよう。
─驚いた。これは売る必要の無い素晴らしいものだ。中身はありきたりな勇者と魔王の話。間の小話ももはや知っているくらいには使い古された英雄譚。
「な、なにも新鮮味がねぇ!」
思わず口に出るほど言うこと無い本に失望した。しかし、国の名前も、勇者の名前も同じだ。なら誰か勇者に憧れた奴が書いたのか?しかし、本は市販品と同じクオリティだ。何も書いて無ければまあまあな価値があるだろう。
しかし、妙に引っかかる。なんというか、リアリティを感じる。あの勇者ならどうせそんな事をする。みたいな自明の理とも言える感覚。故に少し試すことにした。
本に書いてあった村に行き、倒すとされる魔物を倒すことにした。
「あのオークが本来勇者が倒す…であろうオークか。」
使命感にも似た不思議な感覚に体を押される。ここで確かめなければならない。そう感じるのだ。どうせ数日すれば討伐依頼が出るくらいの脅威だ。単体で行動し、興奮状態だ。
オークは始めに威嚇としての咆哮をする。オークなんて何十体も殺した。こんな事は今更だ。オークは厚い脂肪で全身を覆っている。油で刃が駄目になる腹を避け、首筋を切断する。いつもなら、ここでオークは怯む。首筋は切断した。─が、オークは怯まない。いや、それどころか─
さっき切った筈の首筋が治っている。傷跡もない…。再生でもない。思わず、後ろに下がる。
そして、また異常が起きた。オークが咆哮した。痛みでは無い。威嚇の咆哮だ。─こんな事は今まで無かった。異常が積み重なった結果と言えばそこまでだ。しかし、おかしい。始めと同じ体制、同じ声量。余りに正確。
どう考えてもおかしい。まず、異常は避けて状況は落ち着いてからまとめるべきだ。
危険を察知した俺は匂い消しを使ってから、村から遠ざかるようにオークの追跡を振り切った。
あのオークは異常だ。再生?をし、何故か完全に一致する状況での咆哮。もう10年は魔物を殺してきた。オークだって知り尽くしている…筈だ。
この本には3日後に来るはずの勇者があのオークを倒す。と書いてある。なら、俺の見た異常は一体…?
─もしかして、この本は何かを示している…?