麺はウマい
麺は、うまい。
ただの粉を細長くしただけなのに、うまい。
具材が添えられていれば、さらにうまい。
汁と塗れれば、だいたいうまい。
熱かろうが冷たかろうが、そうとううまい。
麺は…とにかく、ウマイのだ。
粉を練って細長い形に成形して茹でたのち、ちゅるっと口に入れる。
口の中で右往左往する麺が、咀嚼という無心の時間を与えてくれる。
麺そのものの味もさることなが、麺以外の部分もウマイ。
麺と具材が織りなす味の集大成が、壮大な物語をも生み出す。
粉を練り、麺という形態になる事で…底知れぬ魅惑の物体へと変容する。
粉があったからこそ、麺という物体は生まれ…愛され続け、今もなお歴史を刻んでいるのだ。
減った腹を満たすのは、麺たちの…緻密かつ大胆な味を追求する、魂の賜物。
麺を汁とともに啜るだけで満足していた時代を経て、調理法と共に試行錯誤する道を選び。
平凡な麺だけで満足していた時代を乗り越え、世界を混乱に巻き込む道にまで手をのばし。
麺は、『麺』として存在しているからこそ…そのウマさは格別なのだ。
麺は、ただの麺ではない。
麺は、決して腹を膨らませるためだけの…多すぎる、持て余しても仕方がないと考えて良いものではない。
麺としてこの世に存在しているものは、すべて…ウマいではないか。
麺としてこの世界で食されているものは、すべて…貴いというのに。
麺、ああ…麺。
麺…、ああ、麺。
腹が減ったら、まず麺。
手軽に食べるなら、やっぱり麺。
醤油ラーメンに、味噌ラー麺、担々麺。
チャーシュー麺に、次郎系ラー麺、家系ラーメン。
焼きそばに、まぜ麺、つけ麺。
うどんに、そば、スパゲッティ。
きしめんに、ほうとう、ひやむぎ。
そうめんに、味噌煮込みうどん、鍋焼きうどん。
わんこそばに、カップ麺に、甘口抹茶小倉スパ。
食べれば食べるほどに深みにハマる、麺の無限の可能性。
麺…、麺は、本当に…ウマい。
……この仕事が終わったら、絶対に麺、食べるんだ。
決意を胸に、仕事に取り組む私であったが。
買い置きのカップ麺はすっからかん。
お気に入りのラーメン屋がつぶれて店内はすっからかん。
財布の中身も、いつの間にやら…すっからかん。
すっからかんの胃袋を抱えたまま、美味いものの事を考えながら水を飲み。
満たされない腹を…、そっと撫でるしかない人が、ここに、ひとり。