表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/4

第4話 魔法省の暴走


 荷台を馬が引いてゆく。

 道が悪く、車輪が轍を踏むたびに荷台はがたがたと大きく揺れる。


 王都のうちとはいえ、その北端である。

 ここから先は魔物が棲むと恐れられる北方大森林が広がるだけであり、そんなところに旅をしようとする者もほとんどいないから、宿なり商店も、人通りもそう多くはない。

 だから道を整備する理由も少ないが、ケイティアの兄であるラードリアが素性を隠して潜むにはたいへん好都合であったのだ。


 そうしたやや寂しい街道の風景ではあるが、久しぶりに人の暮らしを見るケイティアはなにやら嬉しそうだ。荷台に座り、目深に被ったフードの奥からきょろきょろと街並みを見回している。


 「……やっと機嫌なおってくれたみたいだにゃあ」


 ケイティアの隣で膝を抱えているのはユーディファ。転生した元聖女である。全身傷だらけ、包帯だらけだ。


 「……今度はわしがキカイの身体、必要になるところじゃったぞい……」


 ケイティアを挟んでユーディファの反対側で、ラードリアがため息を吐いた。身体を覆う傷の程度はユーディファと変わらない。


 長い眠りから目覚め、自分の身体が鋼鉄製に置き換えられていることを知ったケイティアは、叫び、暴れた。

 暴れるにあたっては、全身に埋め込まれた各種の兵器が遺憾なくその性能を発揮し、兄の自宅兼研究所は完全に崩壊し、周辺の森は焼けた。破壊行為は、彼女に内蔵された小型の動力炉が燃料切れで停止するまで続いた。


 動力を繋ぎ、視覚と聴覚だけを回復させ、ラードリアはケイティアに噛んで含めるように事情を説明した。


 ケイティアの死後、魔法省の暴走がはじまった。ラードリアの上司であったゼリル長官は、ケイティアの事件、すなわち不心得者が聖女を殺めて魔法を不正に独占しようとしたことを理由に魔法技術の規制を強め、民間での魔法開発を禁止し、利用も許可制とした。が、その許可すらも徐々になされなくなり、やがて魔法そのものがまったく利用できなくなってしまったのである。

 中央で魔法を独占したゼリル長官には、もはや王家ですら異論を唱えることができなくなっていた。彼に靡かない王太子は不慮の事故で落命し、関係者も次々と消えた。ゼリルの手のものが御前会議を主催するようになり、やがて政権は実質的にぜリルのものとなった。


 ぜリルの魔法探知をかいくぐり、ラードリアは、ケイティアを異世界の技術で蘇らせた。キカイ、という鋼を組み合わせた仕組みで身体を作る技術。魔法によらず、魔法を超えることができる力を、兄は妹の新しい身体に与えたのである。

 いずれ対峙するであろう、ゼリルに対抗し得る力を。

 

 「……宿ってずいぶん、遠いのね」


 ケイティアがふいに声を出した。

 彼女の破壊活動により住居を失ったラードリアは、町のはずれに知り合いの宿があるからそこへゆく、と、馬を頼んだのである。


 「もっと近くにもあるが、信用できんからの。お前の身体、見られでもしたら」


 ラードリアの言葉を聞いて、ケイティアが、う、と泣き出しそうに表情を歪めたので、ユーディファが慌ててその背をぽんぽんと叩いた。


 「だ、大丈夫にゃ、ケイティアの身体、とってもきれいだし、すごいぴかぴか光ってるし、スタイルいいし、うらやましいくらいにゃあ」

 「……ほんと……?」

 「ほんとほんと、わたしもあんなすごい光線とか出してみたいし……あ」


 ケイティアの肩のあたりの兵装が、がぱん、という音を立てて開いた。その目がフードの奥でぼうと光を宿す。

 ユーディファは顔を引き攣らせてにじり退がった。

 が、ケイティアの反応はユーディファに対してのものではなかった。


 「おい、止まれ」


 ゆく手を遮って立ち塞がったのは、三人の男。

 町の代官の手のものだった。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ