第3話 めっちゃ強い身体
「おにい……さま?」
ケイティアの声に、老人は皺だらけの顔をくしゃりと歪めてみせた。笑みを浮かべているらしい。枯れかけたような相貌のなかに、それでもケイティアは、確かに兄、魔法使いラードリアの面影を捉えていた。
「おお、覚えていてくれたか。嬉しいぞ、ケイティ」
「……おにいさま……その、お顔……どうしてそんな、ご老人みたいな……」
「老人じゃからな。あれから何年経ったと思うとる……はて、何年じゃったかな。なあユウナ」
「にゃあもう、博士は最近ほんと怪しいにゃ。ええと、うちが生まれるまで四十年、生まれてから十三年だから、五十三年」
「……はかせ、って……」
ケイティが尋ねると、ラードリアは白髪の眉を持ち上げ、白衣の裾に突っ込んでいた手を引き抜き、身体の前で組んだ。
「うむ、長い話になるが……そうさな、あれはおまえが」
「あっあとはうちが引き継ぐにゃあのね死んじゃったあなたのためにこの人は秘奥義開発して異世界の扉開いて魂戻す技術とめっちゃ強い身体を作る技術を持って帰ってきて五十年くらいかけてあなたを再生したんだけど向こうではそういう仕事してるひとを博士って呼んでるからそう呼ばれたいらしいよ終わり」
「……はいありがとうすごい早く終わったね」
ふふんという表情で腰に手を当てて胸を張っている少女、ユウナは、ケイティが眉根を寄せて見ていることに気がつき、にぱあと大きな笑顔を浮かべた。
「うちのこと、まだわかんない?」
「……あの、わたしと……知り合い?」
「にゃははは、うちだよお……あ、こんな言い方だからわかんないのか」
そう言い、少女はすうと息を吸い込み、目を薄くし、胸の前で手を組みあわせた。と、彼女の額のあたりに薄い光の線が浮かび、五芒星を形作った。そのまま膝を降り、聖女の正規の礼をとってみせる。
「……王室神殿、星の房。聖女ユーディファ、参上いたしました。リドリーニア伯爵令嬢ケイティア、お久しぶりです」
「……あ……ユーディファ……」
「えへへ、うちも転生したんにゃよお」
ユウナの笑顔に、ケイティアの息が詰まり、胸が熱くなった。
ユーディファは、ケイティアの親友であり、仕事仲間であり、そして彼女が殺したとされた聖女である。
目の前にいるのは、年端もゆかない少女。野生味のある浅黒い顔は、ケイティアの記憶にある色白で細身の聖女とはまったく異なったが、たしかに表情と口調に面影が残っていた。
胸の熱が目の奥に至って、小さな雫となり、目の端からこぼれ落ちた。手の甲でそっと拭う。
が、ケイティアは違和感を感じ、手を見下ろした。
違和感の原因はふたつ発見できた。
ひとつ、涙が、薄い茶色をしていること。
ふたつ、その涙が載っている腕が、鋼鉄でできていること。
ケイティアは叫び、腕を横に突き出した。その拍子に指先から眩い光が迸り、いまだ無事だった側面の壁を爆裂崩壊させた。