第2話 令嬢、大復活
深い深い、水の底。
苦しくはない。
なにも見えないが、不安はない。
ただただ、ゆらゆらと揺れている。
時間も空間も意味がない。
いつから始まり、どこで終わるのかもわからない。
それでもこれが死というものであれば、なんて救いに満ちたものなのだろうと、どうか終わらないでと、ケイティアは小さな意識の奥でずっと考えていたのである。
あるとき、遠くにぽつんと、小さな光が現れた。
その光は見る間に大きくなり、やがてケイティアの魂を包み込んだ。
途端に、まるで桶に入った水をいちどきに流すように、そしてその中でもがく魚のように、ケイティアは周囲の空間ごとどこかに放り出され、激しく揺さぶられ、叩きつけられた。
苦痛に彼女は、呻いた。
と、その呻き声に反応するものがある。
「……声を出した!」
誰かが小さく呟いた。
何かが彼女の頬に触れる。
触れられた、と知覚してから、自分が肉体を持っているのだと理解するまでにずいぶん長い時間を要した。
そうして理解すると同時に、奔流のように記憶と痛みが戻ってきた。
身に覚えのない罪、理不尽な裁判、死刑宣告、処刑台。
兄、ラードリアの頷く顔。
そして……刑吏の刃が、振り下ろされ……。
「いやああああああ!」
彼女はがばと身を起こし、両手を前に突き出した。
同時に、凄まじい轟音。
いまだ目を瞑っている彼女にも周囲が膨大な光に満たされたことが感知できた。
空気が吸われたように持っていかれ、一拍遅れてどんと暴風として戻ってきた。彼女の身体も激しく揺さぶられ、周囲のものがばたばたと吹き飛んでいくのを感じた。
ようやくその風も止んで、彼女はゆっくりと目を開いた。
空が、見えた。
ケイティアがいるのは、石積みの部屋。
いや、石積みだった、と表現すべきだろう。正面と側面の一部の壁が消失し、青い空が見えている。石やら鉄やら、破片と瓦礫が散乱している。
外は森の中のようで、木立が見えるが、開口部の正面に位置する木はなにかで抉ったように円形に、その上部が失せていた。
「……え」
呆然とする彼女は、やがて自分が半身を起こしているのが鉄製のベッドの上であり、周囲にはなにか複雑な形状の道具が散乱していることに気がついた。
と、右手のこんもりと盛り上がった瓦礫が、動いた。
「にゃあああ痛てててて」
「……ふふ、ふふふふふ」
ふたつの声が同時に聞こえ、声の主が瓦礫の下から現れた。
ひとりは少女だった。栗色の髪をうなじで束ねて後ろに流し、極端に大きな桃色のリボンをつけている。すすだらけになった顔を袖で拭いながら、猫のように目を撓め、水色の瞳を輝かせてケイティアを見ている。
もうひとりは……白衣、そして、白髪の……。
「……おにい、さま……?」
ケイティアは白衣の老人に向かって声をあげた。