第1話 ケイティアの死
処刑台は木製で、そこに上る階段は十三段。
ケイティアは、震える足でゆっくりとその一段ずつを踏み締めている。
「……どうして……こんな、ことに……」
足を出しながら呟くが、その小さな声は処刑台を囲む市民たちの歓声がかき消した。
稀代の悪女、聖女殺しの大罪人、呪われしリドリーニア伯爵令嬢の最期を見物しようという善良な市民たちは徐々にその数を増し、先ほどケイティアが登場した時点で千人を超えていた。
三ヶ月前の聖女の急死の後、王室の調査はすさまじい苛烈さと速度をもって進められ、複数の人物が数日のうちに捕縛され、あるいは討たれた。
聖女と親友であったリドリーニア伯爵令嬢ケイティアはそのうちの一人である。そして彼女は、今回の事件の主犯格と目されていた。
彼女は聖女とともにこの国の魔法体系の改良、そして聖職者や魔法使いといった魔法組織の改革を推し進めつつあった。伯爵令嬢ながら魔法史の研究者としても知られていた彼女は、研究活動を通じて聖女と親しくなり、王室から権限を与えられて仕事をしていたのである。
が、調査により、魔法技術の独占を狙ったケイティアが呪いの秘術を実践し、邪魔になった聖女を死に追いやったことが明らかになった。少なくとも、王に伝えられた公式の報告は、そうなっていた。
ケイティアの裁判は迅速に決着した。彼女自身が弁明する機会は一度も与えられなかった。
処刑台の上に到着した。
刑吏の一人が彼女の腕を掴み、肩を押さえて乱暴に膝まづかせる。
苦痛に呻きながらケイティアはもがくように首を振り、その動きで、処刑台の下に立つ二人の男を見つけることとなった。
彼女の兄、魔法使いラードリア。
そしてその上司であり、魔法省の長官でもある、ゼリル。
無表情でケイティアを見上げるぜリルの背で、ラードリアは眉を逆立て口元を噛み締め、だが、涙は見せずにケイティアを決然と見つめていた。
ケイティアは、兄の口が小さく動き、頷くのを見た。
大丈夫だよ。
そう、言っているように思えた。
刑吏の刃が振り下ろされたのは、その直後である。