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児童書全集

白い犬と黒い犬に導かれ

作者: 月尊優

 こちらへ()幾日(いくにち)()ぎたでしょうか?

 旅館(りょかん)を出て朝一番(あさいちばん)のバスで終点(しゅうてん)まで()き、そこから道路(どうろ)(ある)き、山路(やまみち)(はい)ります。

 白い(ころも)()(かさ)(かぶ)り、(つえ)をつき(のぼ)(つづ)けます。


 一人だけど一人じゃない。お杖にはお大師(だいし)さまが宿(やど)っておられます。


 杖をつくのにもきまりがございます。

 (はし)(わた)るときについてはならないのです。

 橋の下でお休みになられているお大師さまを()こしてはいけないのです。

 いろんな(ところ)におられるのですね。


 こちらの人たちはみんな親切(しんせつ)です。ご接待(せったい)というものがあります。

 お(ちゃ)、お菓子(かし)にみかん。ジュース(だい)としてお(かね)をそのまま(いただ)くことも。

 お(くるま)のご接待もありました。これはお(てら)から(えき)まで、宿からお寺までのように、車に()せて頂くことです。

 ぜんぶ(ある)く人はこれを(ことわ)ります。わたしは汽車(きしゃ)電車(でんしゃ)、バスを使(つか)いましたのでありがたくお()けいたしました。

 自転車(じてんしゃ)、オートバイ、自家用車(じかようしゃ)でまわる人、観光(かんこう)バスの団体(だんたい)さんだっているのです。


 それぞれ長所(ちょうしょ)短所(たんしょ)がございます。

 一人は自由(じゆう)ですがさみしいです。(おお)ぜいは(みな)()わせなければなりませんが、(たの)しそうです。

 こちらの道路はとってもせまいです。自家用車もたいへんですが、観光バスの運転手(うんてんしゅ)さんは(もの)すごく上手(じょうず)ですね。そんけいするしかございません。


 この山路はけわしいですが、(ほか)にお寺の道路がございます。観光バスは(とお)れませんがタクシーなどの車が(はし)っているのが()えました。

 よい景色(けしき)でしたので、フィルムに(おさ)めました。



  *



 お寺でもきまりごとがございます。

 最初(さいしょ)にかねをつき、ロウソク、お線香(せんこう)、おさい(せん)。お念珠(ねんじゅ)()ち、おきょうをあげます。これを本堂(ほんどう)と大師(どう)最後(さいご)(のう)きょう(ちょう)です。

 達筆(たっぴつ)()かれ、はんこを()されます。

 これをぜんぶまわると三十日(さんじゅうにち)。乗り(もの)を使わない人は六十日かかるそうです。


 よい空気(くうき)()いながら弁当(べんとう)()べておりました。

「そんな所にいないで中にお(はい)りなさい」

 お寺さまから(こえ)がかかりました。中にも(きゅう)けいする所があったのです。



   *



 (つぎ)反対側(はんたいがわ)の山路を下ります。

 ですが、路に(まよ)いました。(あた)りはだんだん(くら)くなっていきます。心細(こころぼそ)くなりました。

 

 (いぬ)(こえ)がきこえました。白い犬と黒い犬です。

 ふたりはわたしをみて、()(かえ)(ある)(はじ)めました。「ついて()て」と()っているようでした。



   *



 ()いたところは今朝(けさ)()りたバス(てい)でした。

 ふたりが(かえ)って行くのをみおくり(つづ)けました。


 口の中は(うみ)(あじ)がしました。

 ()ぬぐいを()()し、その(みなもと)にあてました。

 (そら)がこんなに(あか)るいんだ。

 (まち)とは(ちが)い、ここはその(かず)(おお)いようでした。


 バスの()(さき)(あか)くなっておりました。



   *



 そのあとは順調(じゅんちょう)にまわれました。

 (おな)方法(ほうほう)で順にまわる人たちは何度(なんど)もお()いします。外国(がいこく)から()たお(とう)さま、お(かあ)さま。東京(とうきょう)から来たお(ねえ)さま。

 外国の両親(りょうしん)にはタクシーに乗せて頂きました。わたしの()らないことばで(はな)してらっしゃいました。

 お姉さまは駅のベンチで弁当を()べているわたしをみて「そんなのあーりー?」とおっしゃいました。


 わたしは一人ではありませんでした。

 また会えるといいな。



   *



 ふたりにはまた会えたのです。

 山道(やまみち)に車を(はし)らせ(みちび)かれた(さき)は、神社(じんじゃ)奉納(ほうのう)された御神犬(ごしんけん)でした。

 黒い犬は白いお母さまより(つよ)くたくましい(おとこ)()でした。


 お大師さまの伝説(でんせつ)、白い犬と黒い犬の伝説は各地数多(かくちあまた)にございます。

 お大師さまは宝亀(ほうき)(ねん)から承和(じょうわ、しょうわ)二年、奈良時代(ならじだい)平安時代(へいあんじだい)()ごされ、七歳(しちさい)のころからその伝説が(のこ)されてございます。

 「(たと)い七歳の女流(にょりゅう)なりとも(すなわ)四衆(ししゅ)導師(どうし)なり」(高祖承陽大師こうそじょうようだいし道元禅師(どうげんぜんし)(ちょ)修證義(しゅしょうぎ) 第四章(だいししょう) 發願利生(ほつがんりしょう)」より引用(いんよう))とありますが、(かぞ)え七歳((まん)五、六歳)ですごいことをなされております。

 わたしは別宗派(べつしゅうは)信徒(しんと)ですが、だいじょうぶでした。お大師さまは、どの宗教(しゅうきょう)、どの(くに)の人でも受け入れて頂けます。

普段は「二匹」と数えますが、大和ことばから「ふたり」を選びました。遣わされた犬をペット扱いしているわけではございません。

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