表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

05 彼女の正体

「服はすぐ乾くと思うから、とりあえずこれ着てて。ちょっと大きいけど、濡れたままよりはいいから」


「……」


「寒かったらお風呂入って温まってきなよ」


「……」


 タオルと僕のシャツを渡すと、彼女は黙って脱衣所に向かった。

 もちろん濡れたままの格好で居させる訳にはいかないという思いから。

 当たり前だが、いやらしい気持ちはなかった。


 彼女はだんまりを決め込んでるものの、素直に言う事を聞いてくれた事に胸を撫で下ろす。

 僕は彼女がお風呂に入ってる間に、今日あった出来事をもう一度振り返っていた。

 だが、いくら思い返しても彼女の存在を知る手がかりはなかった。

 分かるのは美雪と何らかの関係がある事ぐらいだ。


 彼女がお風呂に入る前に外したロケットを手に取る。

 遠い記憶しかないながらも、近くで見てもやっぱり僕が美雪と取った物に間違いはない。

 写真入れにもなってるロケット。

 僕は中を見ようと手をかけた。


「開かないよ」


「え?」


「開かないの。ずっと前から」


「……ごめん。勝手に」


 お風呂から上がってきた彼女がロケットを手にする僕に気づいた。

 無断に手にし、勝手に開けようとした事に僕は後ろめたさを感じてしまった。

 だが、彼女は全く気にもしてなかった。


「古いから開かなくなっちゃったんだと思う」


 その言葉は彼女と美雪が別人かどうかをはっきり確かめる切欠になった。


「本当に開かない?」


「何度か開けようとした事もあったけどダメだったの」


「そっか。無理やり開けようとはしなかったんだ」


「うん。そんな事したら壊れちゃうもの。大切な物でしょ?」


「そうだよね。確かに無理・・に開けたら壊れるかもね。玩具だから」


 そう。

 もしこれが本当に僕が美雪にあげた物なら?


「でも……」


 ロケットには左右にボタンのようなでっぱりが付いている。

 右側のでっぱりを上に、左側のでっぱりを下に。

 両方を同時に引っ張りながらだと下方がスライドし、開く仕組みになってる。

 サビ付いてたものの、ロケットは思いの外簡単に開いてくれた。


「え?」


「開け方があるんだ。ちょっと特殊なんだけどね。忘れてた?」


「あ、あの……」


「知らなかったんだよね?」


 開け方は取扱い説明書を見た事がある僕と美雪しか知らない事だ。

 それを彼女はやはり知らなかった。

 僕の中で彼女が美雪じゃない事がはっきり証明された。

 だが、このロケットが紛れもなく僕が美雪にプレゼントした物だという証拠でもある。

 ロケットの中には、中学の頃一緒に撮った僕と美雪のプリクラの写真が入っていた。


「はははっ。変な笑顔」


 懐かしい思い出が頭を過ぎる。

 それは照れる美雪に無理言って、初めて一緒に撮ったプリクラの写真だった。

 僕が頼んだにも関わらず、自然な笑顔の美雪と違って僕の顔は引きつってる。

 しかも緊張のせいでぎこちない。

 あの頃はそうでもなかったが、今見ると恥ずかしい。

 だけど、とてもいい写真だった。


「……お母さん」


「お母さん?」


 その写真を見て、彼女は思わず呟いてしまったんだと思う。

 言った瞬間、手で口を覆い、しまったというような表情を浮かべた。

 僕はようやく彼女が誰なのか知る事が出来た。


「君は美雪の?」


「……ごめんなさい。嘘つくつもりはなかったんだけど」


 彼女は深々と頭を下げた。


「私、吉崎よしざき夏美なつみって言います。美雪は私の母……お母さんなの」


 美雪の娘なら似てる事も頷ける。

 それにしても彼女は僕が戸惑う程、中学の頃の美雪に瓜二つだった。


「本当にそっくりだね」


「え?」


「うーん。そりゃあ俺も間違っちゃうよ」


 写真と夏美を見比べ、必要以上におどけて見せた。

 夏美の嘘付いた罪悪感を感じさせたくなかったからだ。


「お母さんも私が自分の小さい頃にそっくりだって言った」


不安そうだった表情がようやく和らいでくれた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ