04 感じる違和感
「上手いんじゃなかったの?」
期待してた射的は僕が失敗し続けて彼女には拍子抜け。
結局、彼女が欲しがった景品を取る事が出来なかった。
「それ取った時も大変だったろう?」
「……そうだったね。持ってるお金、全部使っちゃったんだよね」
不意に過去の話しを振ってみた。
もしやと思ってはみたが、事実がちゃんと話された。
さすがに夢と現実の違いぐらい僕は分かってる。
今起こってる事が現実だという事に。
いったい彼女は誰なんだろう?
僕の疑問は解決されないまま、不思議な時間が過ぎていく。
「あー、疲れた」
出店の立ち並ぶ縁日通りを歩き終えると、元気な彼女もちょっとお疲れ気味。
「楽しかった?」
「うん。とっても」
飾らない無邪気な笑みが年相応でかわいらしい。
あの頃の美雪の笑顔と重なる。
「ちょっと待ってて」
「?」
すぐ近くの公園のベンチで彼女を休ませると僕は飲み物を買いに行く。
「はい」
「……ありがと」
買ってきた飲み物を手渡すと彼女はきょとんとした表情を見せる。
その後頬が赤らむと、はにかむように口元が緩んだ。
僕は気にもしなかったが、然もない気遣いが嬉しかったようだ。
だが、そんな素直な彼女に僕は悪戯心が湧いてしまう。
「アイスの方が良かった?」
向こう側のベンチでソフトクリームを頬張る幼稚園ぐらいの子供がいた。
僕はからかうつもりでそっちに視線を向けながら彼女にそう言った。
「え?」
「ん? ……何でもない」
「……あっ! もう! バカにして」
「はははっ。ごめん、ごめん」
最初、何の事だか理解してなかったが、笑いを堪える僕を見て気づいた。
子供扱いされるのが余程気に入らなかったようだ。
今度は頬っぺを膨らまし、唇を尖らす。
コロコロ表情が変わる彼女が微笑ましい。
胸の奥が擽ったくなる。
さっきから僕が感じてるのは初恋に似た甘酸っぱい感覚だった。
美雪に対して忘れてた恋心が蘇ってるせいだと思ってた。
だけど、ちょっと違う。
美雪を想う気持ちがあったのは事実だ。
僕は目の前の彼女にどんどん引き込まれていたんだ。
そう思う時点で、僕は美雪と彼女を別の人物と認識してた事を意味する。
確かに姿形はそっくりで、美雪しか知らない事実を知ってたり、全く同じ仕草や癖も見て取れた。
だが、一緒にいれば 少しづつ違和感とズレを僕は感じるようになっていた。
元気で明るい事に間違いはないが、僕の知ってる美雪以上にはしゃいでる。
彼女の明るさは根本的に美雪と違っていた。
それに奥手な美雪は決して自分から腕を組むような事はしない。
僕と付き合ってた頃も手を繋ぐ事はあっても人中で腕を組んだりしなかった。
やはり別人なんだ。
僕はそう確信し始めていた。
「考え事?」
「え、あ、いや……」
「どうやってからかおうか考えてたんでしょ?」
「いやいや、そうじゃなくて……」
「そうやって子供扱いして。私はもう子供じゃないんだから……」
考え事をして気を抜いてた僕の目の前にいつの間にか彼女の顔が寄せられていた。
余りにも近い位置にある。
次の瞬間、僕の唇を覆うように彼女の唇が重なった。
だが、柔らかい唇の感触は一瞬だけ。
唇はすぐに離れ、彼女の表情は真剣なものへと一変していた。
「あ、あの……」
「キスだって、もっとエッチな事だって出来るんだから」
見つめる視線を外せない。
彼女は本気で言ってる。
「君は……いったい誰なの?」
さすがの僕も聞かずにはいられなかった。
「何言ってんのよ。美雪よ。私は美雪」
「違うだろ」
「……」
僕がそう言ったきり、彼女は何も話さなくなってしまった。
表情は曇ったまま、戸惑ってる。
そして、彼女に呼応するかのように、空からは雨が降り出してきた。
雨宿りするものの、僕も彼女もしっとり濡れてしまった。
両手で体を抑え、震える彼女をさすがにこのままほっとく訳にもいかない。
僕が宿泊してたホテルがすぐ近くにある場所だった。
僕は濡れた彼女を部屋へと連れて行った。




