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2・岡本警部の憂鬱

シリーズ1のユーザーアクセスが1000超えたので無理してまた片手で続きを書きました。まあだれも待ってないだろうけど


 「―――で、何でこうなってるのよ?」


 栞の声が、ニコチン臭い車の中に響く。今日、いつもの三人で学校から帰宅の途中に、青色の車が近付いてきたのだ。そしてなかば強制的に三人は、その車に乗せられたのだ。


 「どういう事なの~、岡本警部?刑事さんが誘拐まがいな事やっていいの~?」


 涼は煙草の匂いに少し眉をひそめて、運転席に居る車の主の岡本に尋ねる。岡本は、涼の様子を見て窓を開けて、顎髭を右手で撫でながら口を開いた。


 「雪月花殺人事件、知っていますよね?」

 「あの今、ニュースで話題になってるやつ?」

 「ええ、実はその事件、私が担当しているのですが―――その―――」


 岡本は言いにくそうに、運転中だというのに視線を泳がせるという刑事らしからぬ行動をとる。その行動に涼は、思考を巡らす。一カ月程前、三人は奇怪な事件に巻き込まれた。その時の担当の刑事も岡本だったのだ。そして、その事件は涼が解決した。

 さて、涼は考えた。今言いにくそうにしてる岡本の態度からして、岡本はまだこの事件を解決できていないようだ。そして、前回の事件で自分の推理力に一目置いているとしたら―――――。

 涼は岡本の考えに気づき、一気に苦い顔になった。いや、確かに自分の力で協力できるのなら手を貸したい。だけどいくら何でも荷が重い。前回の事件はたまたま分かっただけであり、今回は分からないかもしれない。期待されるのは苦手だ。その期待を裏切ると、悪い事をした訳ではないのに何故か呆れられるのだ。勝手に期待しておいてそれはない。この考え方が、涼の目立ちたがり屋な性格とよく反発している。

 つまるところ、涼はこの事件には関わりたくはないのだ。しかし、岡本の口から紡がれた言葉は、涼の想像通りの言葉だった。


 「―――犯人の検討がつかないのですよ。上からの説教が絶えない。早く解決しないと警察の面目丸つぶれなのです。だから、すみませんが、知恵を貸してはくれませんか?」

 「丁重にお断り―――」

 「それで、まずはその日に届いたボイスレコーダーを聞いて欲しい」


 そう言って、岡本は左手で運転席の横にある茶色の鞄を膝の上に持っていき開くと、その中を捜し始めた。


 「ちょっと待ってよ!手伝わないよ、僕は!」


 涼はそう言うと、黒い帽子を深く被りなおし、一度腰を浮かせて、深く座席に座りなおす。その様子をバックミラー越しに見た岡本は、涼の言葉に驚いた。


 「あらー?こないだの事件で、お前の事を目立ちたがり屋の自信家だと思ったんだが・・・」


 岡本は本当に驚き、敬語ではなく元々の喋り方がでてしまった。


 「いえ、その通りなんですが、こいつプレッシャーとかそういうの嫌いで、自信がある時以外面倒事は滅多に受けないんですよ」


 純は涼の代わりに答えて、やれやれとばかりに首を振った。涼は“余計な御世話だよ”と言って、口を尖らせる。


 「それより白川君。何ですか、その子供っぽい喋り方は?」


 岡本はさっきから気になっていた事を尋ねた。白川とは涼の名字であるが、この前の事件の時はもっと大人びた喋り方だった筈だ。そして、推理の時は少し人を小馬鹿にしたような態度をとっていた。しかし今の涼は、やたら子供っぽい喋り方をしている。

 その質問に、代わりにまた純が答える。


 「僕らも気になってはいたんですけど、実際は涼はこんな口調なんですよ。なんかあの時は急に口調が変わって、僕達も驚きましたし」


 あの時とは、前回の事件の時の事だ。純のその言葉に岡本は“”ほお“と興味深く頷く。


 「本当。純よりも長く付き合うあるけど、あんな口調の涼は初めてみたわよ」


 栞は、窓の外を黙って見ている涼に向かって話しかける。純と二人は小学校二年生来の付き合いなのだが、栞と涼は物心ついた頃から一緒に遊んでいた。その言葉を聞いて、涼は窓から目を離し俯き、数秒の間を置いて涼は重い口を開いた。いつもよりテンションが低い声で・・・。


 「いや、栞は知ってるよ・・・?僕らがまだ“三人”で遊んでた時に・・・」

 「え・・・、あ!そ、そういえば・・・、そう、ね。御免・・・」

 「別にいいよ、昔のことだしね・・・」

 「その、帽子も、光の形見、だったわね?」

 「うん・・・」


 帽子を脱ぎ、それを目の前に持って感慨深く見つめる涼と、居心地が悪そうにもじもじしている栞、何が何だかわからず、ただその二人が次の言葉を発するのを待つしかない刑事と男子高校生一人。

 五分ほどたった頃、涼が重々しく口を開く。


 「―――前中俊三」


 他の三人は驚き、一斉に涼の方を見たが、岡本は運転中という事もあって、慌てて前を向きなおす。涼は言葉を紡ぎ続ける。


 「第一の被害者にて、乗っ取りなどで有名なX会社の社長。傲慢で悪戯好きな性格で評判が悪かった。ただ派手な事は嫌いだったため誕生日であった四日前、自宅で知人を数人呼び集め、ささやかな誕生日会を行った。その日に呼び集めた人の前で、コーヒーに入った青酸カリで毒殺される。


 二人目の被害者は、長年X会社に勤め前中の腹心の部下だった男で、第一の事件の現場にも呼ばれていた。社の中でも極度の倹約家として知られていた。事件が起きたのは三日前の夜。発見されたのは二日前の朝で、死因はニコチンによる毒殺。さらに、ナイフで体中を刺された状態で発見された。また現場には発見当時鍵がかかっていて、所謂密室状態だった。


 三人目の被害者はX会社の副社長で昨日の朝、これまた自宅で発見された。死因は金属バットを使った撲殺。さらにこの死体も同じように死後、ナイフで体中を刺されていた。


 また、第一の事件の際、社長宅に“雪月花”と名乗る人間からの犯行予告が入ったボイスレコーダーと、雪だるまの置物が送られていた。そして、第二の事件の現場には月の置物が、第三の事件の現場には花の置物が死体の傍らに置かれていた。


 僕の知っている事件の情報は、これが全部だよ。なにか間違いはある?」

 一気に吐き捨て、肯定しか許さない口調で問う涼。心なしか怒気がこもっている。そんな涼の態度に


岡本は“あ、ああ”と相槌を打つしかなかった。


 「と言う事は、白川君?協力―――してくれるのですか?」


 岡本の問いに、涼は帽子を被り直し頷いた。

 本当は嫌だったが、これ以上昔の事について涼は、触れられたくなかった。

 しかし、事情を知っている栞はともかく、それを知らない純はとても驚いた。涼はとても頑固なところがあり、自分の意見を曲げた事は純ですら片手で数えられるほどしか記憶にない。

 しかし、純は頭が良いので、すぐに涼の過去に何かあった事は推察できた。なので、後で栞に尋ねようと心に決め、いつものノリに戻る。


 「うわ、マジかよ~!今日は、即刻帰って再放送のドラマ“ジイサンズ ~空から降ってきたのは見知らぬじじい?~”を見なければならんというに!」

 「私も、今日の夜に“世にもありそうな物語”を見るつもりだったのに!今日のはトラックが見知らぬ少女に轢かれそうになっているところを、イケメンボーイが身体を張って助けた事により始まる二人の恋愛物語なのに~!」


 涼の肯定の仕草に、文句をブータラと垂れる。しかし、言葉のうちで涼についていくことが決定しているのは、やはり長年の付き合いというものだろう。


 「だけど―――先に言っておくけど、僕なんか力になんないよ、絶対」


 涼は、消え入りそうな、注意深く聞いていないと聞き取れないような、か細い声でそう囁いた。

 その言葉を聞いて、岡本は再びバックミラー越しに涼を見る。涼は俯きキャップ型の帽子のつばを限りなく下に向け、俯いている。本当に自信が無いんだな、と言う事はほとんど会っていない岡本にも分かった。

 そして、不思議に思った。前の事件で涼が推理していた時、涼の表情は終始自信に満ち溢れていて、態度や言動には余裕すら感じられた。岡本の目には、前の事件での涼と今の涼とは、どうしても同一人物には見えなかった。この事と涼の前回見せた推理力が岡本の好奇心をくすぐった。もっと、この白川涼という人物の事を知りたい。いつか知ってみせる。そういう感情が湧き上がってきた。


 (しかし、今は先に事件の解決からだ)


 岡本は、ネクタイを左手でギュッと締め直し気持ちを入れ替えた。そして、その左手を未だに膝の上にある鞄の中に入れる。十秒も経たないうちに、岡本は白いCDの入ったケースを取り出し、器用に片手でディスクを取り出す。

 その作業の最中に、栞がそのディスクを指差し尋ねた。


 「あれ、確かボイスレコーダーじゃなかったっけ?」

 「流石に、証拠品は持ち出せませんからね。これは内容を写したものですが、音質は保証します。」


 そう言って、取り出したディスクを車に備えられた器具に入れる。そして、涼に“済みませんが”と言って、煙草の匂いを紛らわすために開けて置いたサイドウィンドウを運転席からの操作で全て閉めた。勿論外に漏れないようにするためである事は直ぐ分ったので、涼も渋々同意した。そしていくらか、機械音がした後、岡本は再生ボタンを押した。


 車の中に気味の悪い笑い声が木霊した。


後最低一か月はおそらく更新できません

感想お待ち・・・、って感想が出るところまでまだ進んでないなw

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