表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/17

凍える心

「ありがとう。これは…友チョコだね?」


「さすが店長。よく知ってるね。」


優姫からのチョコを進さんは、笑いながら受け取っていた。


「俺。今日で友チョコ何個目かな。」


友チョコをお客さんから何個か既に貰っていたみたいだった。


「浦野さん、お客様からの信頼があるんですよ。」


亜論さんは、にこにこ笑ってカウンター裏の積まれたチョコの山を見ながら笑っていた。


「私は明後日、本命チョコを渡すのよ」


愛さんはうきうきしながら嬉しそうに胸を張って言った。

  

「林檎ちゃんのは、誰宛?」


「え?ぁ…あ、えっと…。」


進さんに急に聞かれて、軽い対応が出来なくて慌ててしまった。


「もぅ、浦野さん。林檎ちゃんは霧島さんに決まってるでしょ?仲良しなんだから。」


「霧島さん、さすがに林檎ちゃんからのは受けとるよね。」


なんか優姫が言ってた軽く渡す感じではなく、期待いっぱい、注目いっぱいの「友チョコ贈呈」になっているムードに、どうしていいのか解らなくなった私は、黒之祐さんに顔を向けられずうつ向いてしまった。


「まさかの本命チョコ?」


愛さんがワクワクした声で煽るから、慌てて打ち消すように、


「いつも、寮まで送ってくれるから。ありがとうって伝えたかったからで…。その、お礼の気持ちです。これ。」


そう言って黒之祐さんの手に包みを押し付けて、私は店の外に飛び出してしまった。


恥ずかしくて、寮への道を走り続けていた。


よく考えたら黒之祐さんの仕事の手伝いがあるのに、どんな顔して戻ればいいのか。今日は行けないと連絡をしようか。


悩んでいると、突然後ろから誰かに呼ばれ立ち止まった。


「金野?金野林檎だよな。」


振り向くと、男子寮の花王すぐる君が私に向かって歩いて来ていた。


「何?」


「お前さ、ジブラルタルの愛って知り合いだよな。」


「うん、仲良くしてもらってるよ。」


「これ、渡しといてくれないか?」


花王君は、私に小さな袋を渡してきた。


「車の中にあったんだ。あいつの忘れ物。多分大事な薬なんだ。食後に飲んでたし。」


「薬?」


ビニール袋にカプセル状の薬が数個入っていた。


「あいつ元気で明るいけどさ、時々体調辛そうなんだよ。14日、約束してるんだけど、さすがに2日間飲まない訳いかないだろ。」


「さっき。元気そうだったよ。」


「お客がいたら、そう振る舞うんだろ。だから心配なんだ」


花王君が、愛さんの本命チョコの人なんだ。

愛さんの事を本当に大事に思ってるんだと羨ましくなった。

愛さんは、ちゃんと気持ちを伝えるのに、私はごまかして逃げてきた。

逃げてちゃいけないんだ。

ちゃんと黒之祐さんに伝えなきゃ。

私の気持ちを。

伝えないと何も前に進めないもの。


「花王くん。今からお店に行くから渡しておくね。」


「おお。頼む。愛に無理するなって伝えといて。」


「解った。じゃあ。」


まだ、閉店後の掃除で皆残ってるぐらいだから間に合うはず。


私は、急いで店に向かった。


そして、深呼吸をして、扉をそっと開いた。




「それ、受け取ってあげてくださいよ。他のお客さんからの物と違うはずでしょ?霧島さん、林檎ちゃんの気持ちに気がついてるんでしょ?」


店の奥から進さんの声が聞こえてきた。


「解ってるよ。だから、受け取っていいのか…。」


「薫さんが亡くなって、日も経たないのにそんな気持ちになれないのは、解るけど、少なくともあの子が傍にいてくれてるから、少しは気持ちがまぎれて救われてるんじゃないですか?あの子はお礼の気持ちって言ったんだし、感謝の気持ちで受けとればいいじゃないですか。」


薫さん…。

薫さんって?誰?

亡くなったって?


もしかして、恋人。

亡くなったから来なかった日が続いていて、亡くなったからクリスマスパーティーの日に外に一人で座ってたの?


何も知らなくて。

無邪気にプレゼントとしてイルミネーションに連れてって貰って、

その時から大好きになったなんて、


私って…。

私って…。

子供すぎて、

馬鹿みたい。


黒之祐さんの気持ちも知らないで…。

チョコなんか渡して、浮かれて…。

喜んでくれるかなんて。

馬鹿みたい…。

子供扱いされるはずだよ。


恥ずかしすぎて、

もう、一緒に居られないよ。


もぅ、ここには来ない方かいいのかも知れない。


そう思った私は、声も掛けることも出来ずに そっと店を出た。


悲しすぎて、馬鹿すぎて

歩けなかった。


暗くて冷たい2月の空気が、余計に私の心を凍えさせて、何も考えられなくなって 寮へ帰ることも出来ず

通りの途中で立ち尽くしてしまった。



優姫…。

あんなに、応援してくれてたのに、失恋したって言えないよ。


今は…悲しすぎて…辛すぎて

誰にも逢いたくない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 切ない展開に胸が痛みます。 どの登場人物にも笑顔になってもらいたい…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ