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夢の世界へ


「わぁ〜。凄〜い。家で観るより、もっと星が見える。あれ、天の川?」


「そう、天の川だよ」


星が綺麗だ。


「そんな所に寝っ転がってないで、2人共早くお部屋に入りなさい」


薫が呼んでる………。


「お父さん、白鳥座はどこ?家では解ったのに〜。星あり過ぎてわかんないよ〜」


「何座だとか解らなくてもいいじゃないか。」


「どうして、昔の人は、こんなに沢山の中から星座なんてつくったの?こんなにあったら適当でもいいのに。白鳥座なんて、見つかりっこないよ」 


りんこが笑っている……。


りんこ………。薫………。



「……ぅ…ぁ……」


「霧島さん。大丈夫ですか」


徐々に意識がはっきりして、ゆっくりと目を開けると、浦野君がいた。


林檎ちゃんをなだめながら、

大学の寮まで送り届けた後、

疲れが押し寄せて、病院の寮の前に座り込んだ事までは、覚えていた。


「あまりにも帰りが遅いので、気になって外に出たら、倒れてたので、直ぐに先生に来てもらったんです。」


「申し訳ない……」


「だいぶ、心臓が弱ってるんですね。」


「仕方ないよ…対象年齢枠越えてるからね…」


「投薬、少し前に辞めたって聞いたんですが。」


「体力的に限界だって言われたから」


「いつからですか?」


「薫が衰弱した頃からかな。やっぱり年齢的に無理なんだと思ったよ。でも、薫に続けて欲しいって言われたから、春先までは続けてたんだ。」


「薫さんが。」


「あいつ、少しでも未来の人達の為になれるならって、この話を受けたのに、薬が合わなくて寝たきりになった事を悔しがってたから…」


「そうですね。一緒に制服も選んで嬉しそうにされてましたよね。」


「開店初日に話を聞かせて、林檎ちゃんの事を話した時、薫…驚いた顔してさ。」


「え?」


「……りんこって言うんだ。俺達の亡くなった子の名前。俺も…同じ事思ってたんだ……。」


「りんこちゃんっていうんですか…。いくつで亡くなったんですか。」


「もう、随分昔だけど、15歳だった。将来医者になる目標に向かって、高校受験目前に、当時流行りの感染症で。あっけなく……突然に…。」


「医者に…なりたかったんですか…。」


「優しい子で、皆を幸せにしたいからって理由だけで……。」



そんなりんこが………亡くなった。



俺と薫は、突然の事に現実を受け止めることが出来ず、力無くぼんやりと数日を過ごしていた為、心配した近所の人達や職場の仲間が毎日訪ねてきては、俺達に寄り添ってくれた。


薫は憔悴しきって寝たきりの日が続き、やっと日常生活を送られる様になったのは、一周忌を迎える頃だった。


俺達は、りんこと同年代の子供達がいる町を離れる事を決め、お世話になった地域の方々に別れを告げ、小さな村に家を借りた。


村の年寄り達が過ごしやすい様に、

自宅で生活雑貨屋店を営み静かに暮らしていた。


子供を亡くした俺達は、未来の目標も無く。

毎日、一日一日をただやり過ごすように生きて行くだけで良かった。


ささやかに生きているある日、

ふと体の異変を感じ、

村の医者を訪ねると直ぐに大学病院へゆくように紹介状を渡された。


診断の結果、二人共進行している

末期癌だと解った。


でも、驚きもしなかったし、悲しくも無かった。


「りんこの所にゆけるね」


薫は、ホッとした顔で少し微笑んで言った。


「そうだな。」


俺達は、いつ『りんこのいる世界』に

逝っても良いと思っていたので、余計な治療は断ろうと医師の元に行ったのだが、医師から思わぬ提案がされたのが、治験薬の臨床試験への参加だった。


抗がん剤の臨床試験と

もう1つは、全ての細胞を若返らせる効果がある新薬の臨床試験。

国が年配の国民を、肉体の若返りをさせて、長く働き続けて子供を産み育てる事を推進する為の治験薬だ。


俺と薫は、将来俺達の様に子供を亡くした老夫婦が、若返ってもう一度子供を授かることが出来る可能性の役にたてるならと、参加を決めたのだった。


でも、薫はその薬が合わなかったのか、なんとなく違和感を感じながらも投薬を続け、店の準備の話し合いにも参加していた。


だが、暫くして衰弱して寝たきりになった…。


新しい目標も砕け散って、悔しい気持ちのはずだが、俺の事を気遣ってか、

毎晩、店の話を聞きたがった。


「ねぇ。あなた。りんごちゃんは、どんな子なの?いくつなの?」


俺は、閉店後に薫の病室を訪ねて、林檎ちゃんの話を聞かせていたのだ。


「大学2年生なの?20歳なのかしら?

お祝いしてあげたいわ。」


名前が似ているせいか、薫は林檎ちゃんに、りんこを重ね合わせて、会ったこともない林檎ちゃんを可愛く愛おしく思っていたのだ。


あんなに嬉しそうに微笑みながら、

話す薫を見るのは何十年ぶりだろうか。


そして、12月のあの日

夢見る様な笑顔を浮かべ、

泣きながら俺の手を力なく握って


「あなたを、ひとりぼっちにしてしまって…ごめんなさい……。でも…あなたは…。この実験を続けて…ね…。りんごちゃんの、事…。りんこの…分も……守ってあげてね……。」


そう言って、笑い泣き顔のまま、眠るように逝ったのだ。






「だから、林檎ちゃんの気持ちは、受け取れなかったんですね。」


「あの子を見てると、りんこを思い出すから……。娘の代わりなんて考えちゃいけないんだけど……。りんこにしてやれなかった事を全部してあげたかった……。あの子が笑顔でいるなら……何でもしようと思った……。いつまでも、見守っていたかった……。だから、本当は………俺の事なんかで……泣かせなくなかったんだ……。」


「そうですか……。いつまでも、見守っていたいですよね。」


「……でも、もう…限界なんだ……」



「霧島さん…。林檎ちゃんに、伝える事はないですか。」


「笑っていて欲しい………それだけ伝えてください…。」


浦野君は、俺の目を見つめ、手をしっかりと握りしめた。


ありがとう。

君は、本当に良い店長だよ。


林檎ちゃん……本当に

ありがとう。


俺は、そのまま 夢の世界へと

吸い込まれて意識が消えて行った………。






















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