押し潰される恋心
花王君が、愛さんを探しまわっている。
行きそうな友達の部屋を訪ね回って、私の所にも訪ねて来た。
「金野、愛と連絡取れないんだ。ジブラルタルも辞めたっていうんだけど。お前、連絡取れないか?頼む、愛の居場所知ってたら教えてくれ。」
「愛さん、お店辞めたの?連絡も取れないってどうして?」
「俺だって解らないよ。何処にいるのか分からないんだよ。俺が、あいつを追い詰めたからかもしれないんだ。体弱いの解ってるのに……。」
花王君の手は、小さく震えていた。
愛さんは、花王君は紳士的で大切に思ってくれてるけど、悩むのは自分の問題だって言っていたから、追い詰められたから急に居なくなるなんて事はないと思うんだけど。
もしかして愛さんに、何があったのな。
心配になって私は、直ぐにお店へ駆け込んだ。
まだ営業中の時間帯なのに、何故か黒之祐さんしか居なかった。
「林檎ちゃん?」
「あの…愛さん……ずっと連絡が取れないって、花王君が探し回っているの。お店を辞めたって本当?」
「うん、急な事情でね。」
「どうして?事情って何なの?」
「ごめんね。一緒に働いてるけど、個々が会社と相談して決めるから、俺達は、理由も聞かされてないんだ。」
「でも…でも花王君が、ずっと探し回ってるの。なんて言ってあげたらいいのか…。」
「そうだね……。ご家族の事で実家に帰ったって言ってあげたら納得するかもしれないね。?もしかしたら、本当にそうかもしれないし。」
「うん、安心してくれるように、何とか伝えてみるけど。あの……。愛さんが辞めたから、お店も休んでるの?」
「皆本当に忙しすぎて、疲れちゃったから、今日は閉めて帰ったんだ。俺達も急な事だったからね。」
「じゃあ、お店はどうなるんですか?」
「短めの営業にするか、誰かを採用して貰うまで閉めるしかないかな?」
「じゃあ……。私……お手伝いしていいですか?」
「林檎ちゃんが?」
「愛さんみたいに上手に出来ないと思うけど、お店が閉まっちゃうのなんて嫌だし……。それに…このお店、好きだから…。」
「ありがとう。バイトの許可とバイト代が出せるように、浦野くんに掛け合ってもらうように伝えておくよ。」
「はい。宜しくお願いします。」
愛さんの事をもう少し聞きたかったけれど、疲れているのに事務処理をしている黒之祐さんには、それ以上は聞けなかった。
このお店の人達は、皆重病で病院と治験薬の契約をしていると愛さんが教えてくれいたんだった。
黒之祐さんの事を心配して、私にアドバイスをくれたけど、愛さんだって重病だったことを忘れていた。
だから花王君は、心配で探し回っているんだ。
「黒之祐さん、あのね。」
「ぁ、林檎ちゃん。来月の半ばに、ちょっと遠いけど夏祭りに行こうか。花火大会もあるし。」
「ぇ?夏休みにお店閉められるんですか?」
「店は、閉めてもいいけど……。俺とだけだと行かない?」
「え?…えっと、二人で?」
「うん、二人で。都合悪いかな?」
「いえ。行きます。」
「じゃあ、空けといてね。」
「はい。」
愛さんの事を聞こうとしたのを、はぐらかされたような気がしたけれど、
急に誘われて、ドキドキしてしまった。
久しぶりに、二人で遠出の夏祭り。
どうしよう、緊張してきた。
「待ってて。送るよ」
「あれ?仕事は、終わったんですか?」
「疲れたから、明日にするよ」
思いがけずに一緒に帰る事になって、
まだ明るい時間に帰るのが勿体ないような気持ちになり、ゆっくりと寮への道を歩いた。
やっぱり愛さんの事を聞こうと、足を止めた。
「愛さん、体大丈夫なのかな。」
「え?どうして?」
「花王君から、前に愛さんが忘れたって薬を預かったの。体弱いからって花王君が心配してたから。」
「そうなんだ。」
「休んでるの、体調が悪くなったからって事じゃないですよね。」
「休む前の日まで、元気に接客してたよ。」
「もしかしたら…。」
「もしかしたら、本当に故郷でおうちの人の側で、療養してるのかも知れないね。」
「そうですね…。ご両親がいるもんね。」
「心配しなくても大丈夫だよ。きっと元気だから。」
「うん。」
「明日からは、笑顔で働いてね。」
「はい。ごめんなさい。」
「じゃあ。おやすみ。」
「おやすみなさい…。黒之祐さん!黒之祐さんは、…突然、どこにもいかないよね?辞めたりしないよね?」
「林檎ちゃん。夏祭り行く約束したんだから、何処にも行かないよ。安心して今日は、ゆっくりと眠るんだよ。」
ポンポンと、私の頭を撫でて、
黒之祐さんは、駅の方へと足早に去っていった。
夏祭り、約束したけど
急に二人きりで、遠出するのは何故?
嬉しい気持ちと不安な気持ちで、
胸が苦しかった。




