第66話:新技
更新遅れてすんません...
「別に全然良いんですけど、なぜ私まで?」
「セレナにしか頼めないことがあるんだ」
「わ、私にしかできないこと...。じゃあ仕方ありませんね!」
「ありがとな」
現在俺はセレナと一緒にエクスに乗って昨日の海岸まで向かっている。なぜセレナまで連れて来たのかというと、俺の光探知では例の魔物を捕捉できないからだ。ここでセレナの出番というわけである。もちろん他にも役割はあるので、彼女は退屈しないだろう(たぶん)。
「今回の戦場は海ですよね?エクスも何か役割があるんですか?」
「いや、暇そうにゴロゴロしてたから誘った」
「ブルル」
「確かにエクスが〈雷〉魔法を放ったら、ここら辺の海に住んでいる生き物が全滅しそうですもんね」
ちなみに今回ムーたんはお留守番だ。今頃果樹園の秘密基地で惰眠をむさぼっているのではなかろうか。てか最近ムーたんが太ってきたと思うのだが、セレナはそれをどう思っているのだろう。「可愛いのでこれはこれでアリです」とか言いそうだな。これ以上太ったら大将か親方と呼ばせてもらおう。
「着いたぞ」
「あ~、やっぱりここなんですね」
「もしかして前々から探知に引っかかってたのか?」
「はい。まぁ引っかかったというよりも違和感がありましたね。でも大体仕事の途中だったので、特に気にせずスルーしてたんです」
「じゃあ今回は本気の本気で頼むぞ」
「任せてください」
俺とエクスは少しだけ離れ、後ろからセレナを見守ることにした。彼女は索敵と隠密に関しては世界で三本の指に入る逸材なのだ。魔力の味も覚えているそうなので、必ず見つけ出してくれるだろう。
「見つけました。この方角の二キロ先の地点です」
「ご苦労。了解した」
「それにしても、やっぱり変な感じですね。他の魔物でいう実体もあやふやですし、魔石すらありません。どうやって倒すんですか?」
「とりあえず色々試してみるが、それでダメなら...」
「ダメなら?」
ここで俺は【光鎧】を起動し、例の魔物がいる方向目掛けて海上に跳び出した。着水した直後、音速を超えたスピードで海面を走る。現在俺が光速思考無しで認識できるギリギリのスピードである。この半年間は目を鍛えることに尽力したのだ。
「ちょっと!そこまで言うのなら最後まで教えてくださいよ!」
セレナが面白い反応をしてくれたので俺は満足だ。エクスも鼻で笑ってるし。
そして走り始めて十秒もしないうちにアイツと相対した。遠くからは探知できなかったが、一応相まみえるのは二度目なので、これほど近い距離ならばもう見失わない。
近づくや否や、俺に向けて何百何千にも及ぶ水のビームをとばしてきた。さすがに光速思考を起動し全てを最小限の動きで躱していく。海水を加圧し、その一本一本に刃のような切れ味を持たせている。前世でいうウォータージェットのような魔法。テレビで鉄を切断しているのを見た記憶があるが、これはそれ以上だろう。たぶん禁忌級レベルの魔法だな。
俺も【光の矢】を千重展開し放つが、そもそもどこを狙っていいのかがわからない。こいつをわかりやすく言い表すと、魔石が無い超巨大スライムである。恐らく本体は魔力で構成されているがそれを隠すのが上手い。スライム野郎が操っている海水なのか、それとも本体なのかがイマイチわからん。
「ったく、なんで今までこんなバケモンが隠れてたんだよ...」
頭も良いので、本気で戦わないと勝てないことが分かっているのだと思う。今までは海の底に隠れて手を抜きながら漁船を沈めていたのだろう。
「斬ってみるか」
腰に差してある【星斬り】から、若干怒りが込められた魔力が滲みだしてきた。まるで「さっさと私を使いなさいよ!」と言われているような感じ。
俺は一旦空中まで跳び
【五月雨斬撃】
斬撃を雨のように降り注がせた。それと同時に
【破滅の光雨】
斬撃と魔法の波状攻撃を仕掛けた。だがしかし、決定打は与えられない。
と、そこで思いついた。物理攻撃なら効果があるのではないかと。
その間にもアイツは水の触手で俺を絡めとろうとしたり、大きな水弾をマシンガンのように撃ってきたりする。挙句の果てには大きな波で俺を飲み込もうとしてくる。
それを上手く回避しながら右手に魔力を込める。それは普通の魔力ではなく、【閃光】の魔力。破壊力だけを求めたその技の名前は...
【星芒拳】
刹那、海面が数十メートル陥没し、その衝撃でダウンバーストが引き起った。一応本気で放ってはいないので、台風や竜巻は起こらないだろう。でも強めの風はオストルフまで届くと思う。すまんな。
ここからが問題だが、アイツはギリギリ回避に成功しまだ生きている。このままだと逃げられてしまうので、一度海岸に戻ってセレナを頼ろうと思う。
「セレナ。【影縫い】でアイツを捕獲してくれ」
「了解です!【影縫い】!」
「すまん。助かった」
「いえいえ。海岸からでも戦いの様子が見えましたが、あんな怪物がいるとは思いもしませんでした。逆に今まで発見されていなかったことに驚きましたよ」
「アイツは少し特殊だからな」
セレナが縛り付けてくれている間に俺はとある魔法の準備を進める。それはちょびっと不思議な魔法だ。
【分身】
魔法を呟いた瞬間、俺の膨大な魔力の半分がゴソッと持っていかれた。わかりやすいように分身という名前を使っているが、別に形は何でもいい。海の中で戦わせるなら魚の形でも、はたまた潜水艦の形でも何でもいい。
「うわっ、これってまさか魔法で作った分身ですか?超練度の高い魔力操作とイメージセンス、それから≪光≫魔法の性質が上手く組み合わさってできた奇跡の魔法ですね!」
「実は十歳の頃からコソコソ練習してたんだ」
「え、そんな小さい頃からですか?なんか可愛いかも...」
「そうだな」
流石の俺でも海中や上空、マグマの中では自由に戦えないので、どうしようと悩んでいた末に考え付いたのがこの分身魔法である。ちなみにこの魔法の欠点は魔力の消費量が多すぎることと、光速思考と併用でしか使い物にならないことだ。今回は俺は見物するだけなのでまだマシだが、本来は己が戦うのと同時に動かさなければいけないので、普通に脳の処理が追い付かない。そのため光速思考との併用が必須なのだ。
「よし、行ってこい」
っていっても操作するのは俺なんだけどな。分身は海に飛び込んだ後魚の形になって移動を開始した。もちろんスピードは俺と変わらないので、戦闘力は実質SSランクかそれ以上である。
そして魔石が無い魔物VS魔石が無い魔物のようなモノの戦いが勃発した。
俺は光速思考を起動しながら操作を続ける。かなり弱っているので魔法の威力はそれほどではないが、アイツは海に生息しているだけあって、海中での戦闘の方が得意らしい。
側から見れば、両者自由に動き回る超次元バトルのようである。
こうして巨大スライムの魔力が少しずつ削れていき、遂に熱い戦いが幕を下ろした。
「ん?なんじゃこりゃ」
「どうしたんですか?」
「いや、アイツが死んだ直後、一つの塊に変化したんだ。魔石的な」
「へぇー。不思議ですねー」
「一応持ち帰って陛下に報告するか」
ちょうど分身が帰ってきたのでマジックバッグに魔石的なモノを入れ、俺たちは踵を返した。
ちなみに分身の魔力は俺が再び回収した。
「ブルルル」
「さっきのを食うのか?結構マズそうだけど」
「ブルル」
「わかった。でもとりあえず陛下とギルド本部に提出するから、解析が終わって返ってきたら食べても良いぞ」
「さすがに研究者達に止められると思いますよ?」
「でもこれ俺たちのだし」
「歴史的に価値のある物で~とか言いそうですね」
「まぁ、最悪【龍紋】で脅せばどうにかなるだろ」
「えぇ」
グリッターインパクトぉ!