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8話

柊side

「世界を…見て周れ?どういう事ですか?」

「言葉通りの意味だ。世界中を周りお主の見たもの感じたものをわしに報告し己の世界を広げよ。」


 世界を広げる、一体何故それが必要なんだ。

世界を見るだけなら遠征任務を増やしていけば様々な所に向かう事が出来るわけだ。

それこそ国の為、民の為となる訳であり陛下にとっても願ったりするものでないのか。

それを俺個人の為に国から離れて等何を考えておいでなのだ?


「そこ迄深く考えなくてもいいんだよタクミ。」

「殿下…。」

「言ってしまえばこれは休息を取れって言っているだけだからね。君は働き者なのは十分理解しているがそれによって倒れられでもしたら困ってしまうからね。それに君は先程迄の対応で自分から休暇を取るようなことをしないからね。強制休暇任務ってやつかな。」


 俺が考えにふけているとルデウス殿下からその様に告げられた。

強制休暇任務って…。

まあ任務と言われてしまったら仕方がない。

それに従う事が兵の勤めであるのだからここで何かしらの異議を立てたところで覆ることは無いのだから。


「…御意。ではこの後準備に取り掛かります。」

「うむ。以後の細かい詳細はルデウスの指示に従い行動せよ。」

「と言うことで今まで通りだけど僕の指示で動いてもらうね。勿論無理な指示はする事はないから安心して。」


 何を安心すれば良いのやら。

まあ殿下からの無茶振りは今に始まった事じゃないし問題ないか。

そもそも殿下が変な入れ知恵を陛下に話した事が今回の休暇任務を言い渡された訳だからな。


「わかりました。では私はこれで失礼します。」

「準備が出来たら僕の部屋においで。とりあえずの予定をそこで決めよう。」

「御意。」


 一度頭を下げて玉座の間から退出する。

此処に長居する必要は無いのとこれから長い間国から離れるのだからそれなりの準備をしないといけない。

途中呼び止められた気がしたがまあ問題ないだろう。


柊sideout


ルデウスside


 タクミが玉座の間から退出したのを確認しすぐに父上に話をしようとしたが遮るようにフィーナが此方に噛み付いてきた。


「お兄様…。タクミを外に出すなどと一体何を考えていらっしゃるのですか!!」

「フィーナ…落ち着きな。」

「落ち着いていられますか!御二人も見ましたよね!タクミの疲労している顔を!歩き方を!!」


 フィーナが怒るのも無理は無いだろう。

本人は気付いている様子は無いが相当無理をしているのが見て取れる。

動き方や顔付きなど親しいものが見れば一発で分かってしまうほど。


「だからこそ、彼には休みを与えなければならないからこの様にするしか無いじゃない?」

「だからといって命令とはやり過ぎです!そもそも休みを与えるのに何故国から離れる必要があるのですか!!どう考えてもおかしいです!」


 怒りからか彼女の周りから荒々しい程の魔力が漏れ始めていた。

この場に兵や大臣達がいなくて良かったと心から思う。

余りにも強すぎる魔力に大抵の人物は押し潰されてしまう様な錯覚を覚えるほどだ。


「もし、タクミが旅先で倒れてしまい誰にも頼れず、動く事もできない状態で…何、かあったら……私は…。」

「フィーナ…。」


 心配、その言葉だけで片付けられるほどの思いじゃない。

それ程までに彼の事を思っているのだろう。

父上もそれは感じ取ったのか名前を呼ぶ事しか出来ていない。

健気に思う気持ちは立派だが此方の考えを早合点してしまうのは彼女悪い癖だな。


「フィーナ、僕は何も考え無しに彼を旅立たせるつもりは無いよ。それは父上も同じ様に思っている。」

「…そうだな。フィーナよ。タクミがもし休暇を与えてこの国に留まっていたとき何をすると思う?」

「それは…。休んでいるのでは……。」

「休暇を与えたその日に他の兵に混ざり任務をこなし、剰え他の業務を淡々とこなしている所を目撃されておる。」

「えっ。」

「本当の事だよ。実際に僕も父上も現場を目撃しているし何なら兵や従者達から休ませあげてくれと嘆願が来る始末。此方の好意を無かったことにして働きづめだ。」


 そう、現状タクミは自分が休みを貰ったとしても自分から新しい仕事を作り出してしまう。

それは優しさから来るものなのか或いは彼自身が何かに囚われているのか正直分からない。

それでも現状を変えるためにありとあらゆる事を試し彼に自信を労る時間を作ろうと努力していたが無意味に終わってしまった。


「それでも…一人でなんて…。」

「フィーナ。僕達は何も彼に一人で旅をしろなんて一言も言ってないよ。」

「え?」


 驚いた顔を向けるフィーナに近付きながら笑いをこらえる。

今から伝える事を聞いたら二人ともどんな表情を向けてくれるんだろう。


ルデウスsideout


 玉座の間から自身の部屋まで移動し旅の準備を始め、巧はふと思いにふけていた。

急な休暇による旅、国王やルデウスから自信を労れと言われ続けていたがこうも強制されると思わなかったのだろう、少しばかり苦笑した顔をしていた。


「あらかた準備が終わったけど時間がまだあるな。どうしようか。」


 ある程度大きな鞄に少しの着替え等を入れ終えた巧は座りながら考え込む。

必要なものは遠征に向かう時に使っていた物がありそれに追加して入れるだけだから時間がかからなかったのだろう。


「そうだ。あそこに行くか。暫く行くことが出来なくなるからな。」


 そう言いながら先程まで準備した鞄を担いで自身の部屋を後にした。

その姿は少し悲しみを感じさせるものがあった。


 王都から少し離れた小さな丘に巧は一人腰を下ろしていた。

目の前には小さな石碑があり巧はそれに手を合わせながら目を瞑る。


「……中々来れなくてごめんなさい。色々と忙しい毎日だったものですから…。ってこんな事言っても言い訳になるだけかな。」


 目を開けながら苦笑し巧は石碑の上に手を当てる。

目の前の石碑に汚れを落とす様に撫でながら更に続ける。


「殿下から休暇命令が来まして暫く此処に来れそうに無いですが、此方に戻り次第直ぐに此処に駆け付けます。その時は沢山のお土産話を出来ればと思います。」


 ある程度の汚れが落ちたの確認し巧は立ち上がりながら手をはらう。

地面に置いていた荷物を肩にかけながら後ろを向き石碑から離れる様に数歩歩き始める。


「それじゃあまた来ます。……行ってきますミラージュさん…。」


 巧がそう呟きながら歩き始め石碑を後にする。

穏やかな風が巧の頬を撫でるように吹き抜け、まるで巧にエールを送っているようだった。


柊side


 ミラージュさんに挨拶を終えて殿下が待つ部屋まで歩いていると目の前に一人の女性がキョロキョロと周りを見ていた。

見知った背中がアタフタしていた所を見ると少し笑けてしまうが困っているなら声をかけるべきか。


「何処か探してるのか?」

「はへ!?」


 驚いた声を上げながらこっちを見る人物、宮下葵は距離を開けながらこっちを向いた。

そこ迄驚かなくてもいいだろうに。

笑いながら宮下を見ていると向こうは安心したのかホッと息を吐きながら此方に近付いてくる。


「巧君でしたか…。驚かさないで下さい。」

「いや勝手に驚いただけだろう。それに挙動不審に辺りを見てる所に出くわしたこっちの方が…プフ……驚きたい……フフ……きぶんだわ……。」

「笑いながらそんな事言わないで下さい!!というか全然驚いてる雰囲気無かったじゃないですか!!」


 両手を上に上げながら怒ってる姿は中々面白いしもう少しからかってみたいが、殿下が待っているからそう長くいれないからな。

とりあえず落ち着かせて話を聞いてみるか。


「まあまあそう怒るなって。それよりもお前はここで何してんだ?」

「怒らせた本人が言うことですか…。ふぅ、実はルデウス殿下から呼び出しをいただきまして今お部屋まで向かっている所なんです。」

「殿下が?」


 宮下を呼ぶなんて何かあったのか?

仕事の事についてならそれこそ彼女直属の上司から話を持っていけばいいはずだ。

わざわざ殿下が話す必要はないはずだが…。

何故か嫌な予感がして仕方が無い。


「……まあ此処で話をしているのも時間が勿体ないな。丁度俺も殿下の部屋に向かうところだから、一緒に行くか?」

「本当ですか!!良かった〜…。かれこれ三十分くらい迷ってましたからどうしようかと思いまして…。」


 いや、そんなに迷ってたんなら誰かに教えて貰うなりすれば良かっただろうに。

まあ恐らく焦りすぎて頭の中にそんな事を考えてる余裕が無かったんだろう…。

そんな事を思いながら少し息を吐きながら彼女の顔を見ると花が咲いた様な嬉しそうな顔して両手を合わせて此方を見てくる。

薄っすらと瞳が潤んでいる所を見るに余っ程心細かったのだろうな…。


「まあついでだしな。」

「ありがとうございます!!」


 勢い良く頭を下げる宮下に苦笑しながら彼女の隣を通り抜けながら前に進む。

真面目で礼儀が正しいのが彼女の良いところだけどそれ故になのか相手に対して遠慮してしまう所があるからそこを直せるようにすれば良いんだけどな。

俺が歩き始めた足音が聞こえたのだろう、宮下は顔を上げて少し急ぐ様に俺の隣まで歩き始めた。

別に置いていかないんだがな。


「本当巧君が近くに来てくれてありがたいです。私一人じゃあ目的地に着けずに迷惑をかけるところでしたので。」

「そう思うなら誰かに連れて行って貰えるように頼んでおけよ…。」

「あはは…。それよりも巧君も殿下のお部屋まで行くなんて珍しいですね。いつもは玉座の間に行ってその後はまた任務に戻ってしまうのに。」

「俺か?陛下から新たな任務を貰ってな。その時に殿下に準備が出来次第部屋まで来るよう言われてな。」


 誤魔化すように話題を変換する気付かないフリをしながら彼女の質問に答える。

俺の返答少し驚いた表情をした後眉間にシワを寄せて俺の腕を掴み立ち止まる。

掴まれても問題無く進めるが取り敢えず彼女と同じ様に立ち止まる。

一体何か変な事を言っただろうか?


「………それは、また危険な任務に向かうって事でいいですか?」

「まあ、どうなるか分からんが。今回はいつもよりも長く国を空けることになるのは確かだな。」


 いつもの事だと言うのに今日はやけに絡んでくるな。

鷹見にしろ、陛下達にしろ心配し過ぎだと思うのだがな。

俺の体は俺自身がよくわかっているというのに…。

そんな事を思っていると宮下は少し涙目になりながら先程よりも強い力で俺の腕を握ってくる。

まるで放したくないと思っている様に感じられる。


「その任務は、休む事は出来ないんですか?流石に連続での任務は体に毒ですよ。」

「既に決定事項だからな。今更覆すことは出来ないよ。それに現状問題無く動けているから心配する必要は無いさ。」


 笑顔で彼女にそう告げても余計に暗い顔をされてしまう。

上手く笑えていなかったか?

どちらにしろ一兵士である俺に今更覆す事は出来やしない。

ましてや今回は強制的に受ける様言われているわけだからどのみち無断だ。


「まあそんな事より早く行こうぜ。殿下がお待ちになられてる筈だからな。」

「…………はい…。」


 納得していないって顔をしているが俺の言葉に従いついてくる所を見るに説得は無理だと判断したんだろう。

後ろから少し悲しみを帯びた視線を感じるが今は無視して進み続ける。

今の現状を他人が見たら気まずい雰囲気を感じ距離を空けるだろう。

それ程空気が重く、俺と彼女の距離が少し離れている事がわかる。

気にする必要が無いと思っているが、何故だろうか今は左目が薄く痛みを出してくる。

まるで叱るように俺に何かを伝えて来ているそんな気がした。


○●○●


 沈黙の空気のまま殿下の部屋の前まで着き少し身嗜みを整えてからノックをする。

中から入る許可が聞こえ扉を開けて後ろにいる宮下を先に入れてから部屋に入る。

中には殿下と何故かフィーナリア様がいるがまあ些細な事だろうと思い今は殿下に声をかけないとな。


「失礼します。準備が完了しました。」

「うん。待ってたよ。それにアオイも一緒に連れてきてくれたんだね。」

「も、申し訳ございません!!お時間をお掛けしてしまって…。」

「問題無いよ。寧ろ此方まで使いの者を寄越せばよかったね。申し訳ない。」


 宮下の言葉に頭を下げる殿下。

律儀な人だなと思いながら隣を見ると宮下はアワアワと焦っている様子をみせる。

まあ目上の人物が自分に対して頭を下げるなんてそうそう起こることじゃないからな。

流石に話が進まないから殿下に頭を上げるように言い今回の任務の詳細を聞く態勢をとる。

殿下も納得し頭を上げて笑顔で話し始める。

その表情を見るととても嫌な予感がするが。


「さてとそれじゃあ君達を呼んだ理由を話そうか。」




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