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7話

柊side

 あれから幾年か年が過ぎていった。

俺達は未だに元の世界に戻る事は出来ていないがそれでも己が選んだ道を今尚進み続けていた。


「あ、勇者様たちだ!」

「今日もダンジョンの攻略に成功されたのね!」


 街の人の声が聞こえそちらに目を向けると綾崎達一行が王宮へと進んでいた。

あれからアレックスと共に結晶化した場所に向かう為に力をつける事を目指し魔術学院に通うなどをしていると聞いている。

今は実戦演習というやつなのだろう、ダンジョンに向かい最下層を目指し魔獣等を相手にしている様だ。


 そんな彼等を横目に俺も王宮へと向かい始める。

今日が俺にとって"大事な日"である為彼等に関わっている暇は無いのだから。


「うん?」

「どうしたんだ綾崎?」

「いや、今誰かに見られていたような…。」


 綾崎達より早くに王宮へと入り国王の待つ玉座に足を運ぶ。

道中に臣下や兵士、従者の皆さん等様々な相手とすれ違いながら挨拶をしふと自分の事を考えてしまう。

あの日以来綾崎達とは顔を合わせることが少なくなっていき今では殆ど会話らしい会話をしていない。

それは彼等の道と俺が選んだ道が別になってしまったのが原因ではある。

無論俺自身は自分で選んだ道に対して後悔をしていないが、俺と同じくアレックスについていくことしなかったか彼らに対しては少しばかり罪悪感を感じてしまうことがある。

本来ならば帰りたい気持ちがある筈なのにそれを押し殺して此処で暮らす事を選ぶ選択肢を作ってしまったのだから。


「あ、柊君!」

「お前は、鷹見。」


 俺に声をかけたのは俺と同じく綾崎達とは別の道を選んだ一人、鷹見晃平。

彼は帰れない事を受け入れた後臣下の皆さんに自分にもやれる事は無いかと確認し、彼等についていき国王や国民の為に日夜働いているとの事。

細かくどういった仕事をしているかは分からないがそれなりに地位のある役職に付き頑張っている事はなんとなくだが理解はしている。


「お久しぶりです!今回は長くこの国を離れていたとお聞きしましたが、大丈夫でしたか?」

「問題無い。仕事自体は直ぐに終わるものだったからな。」

「そういう意味では無いのですが…。まあ怪我無いのは良いことですので余り無茶はなさらないでくださいね。」


 鷹見は笑いながら俺にそう言ってくる。

別段心配される様な事は無いのだが無茶という言葉を聞くと少々バツが悪くなる。

その様子を見て訝しげな目線を向けている事を感じるがなんとか誤魔化すように彼に視線を向ける。


「それよりも何か仕事があったんじゃないか?」

「あっ!そうでした!この後各大臣の皆様と打ち合わせがあったんでした!失礼します!」


 急いで頭を下げながら廊下を走る姿を見て口から少しだけ息が漏れた。

なんとか切り抜けた事による安堵かそれとも誤魔化した事による罪悪感かは分からないがとにかく話を直ぐに終わらす事ができた。

余り時間をかけたくは無いからな。

そう気持ちを切り替えて俺は再び玉座へと足を向けた。


○●○●


 玉座の間の扉前まで着き扉に手をかけようとした時中からけたたましい声が耳に響いた。


「どういう事ですかお父様!!」


 この声はお姫様?

何故彼女が王の間にいるのか、そもそも何故こんなにも荒げているのか。

まあとりあえずここで固まっている訳には行かないから入るとしますか。

 目の前の扉にノックをして自分がいる事を告げ許可が下りたことを確認し中に入る。

何度もやってきたこの行動は中々に板についてきたのかもしれない。


「失礼します。柊巧只今戻りました。」

「うむ。こ度の遠征ご苦労であった。」

「問題無く無事に戻って来てくれて嬉しいよ。」

「有難き幸せ。」


 陛下の言葉と共に俺の直属上司と言ってもいい彼からの言葉は少しばかり心が満たされる気分になる。

この国の兵士となったからなのか別の気持ちが生まれたからなのかは分からないが、彼等がいる事で自分の存在する証明になっている気がする。


「それにしても君は何時も働き者で僕としても嬉しい限りだけど休息はちゃんと取れているのかい?疎かにする事が多い君に言っても意味が無いかも知れないが余りこんをつめることはしないようにね。」

「…御意。」


 俺の体調を心配してくれているのは直属上司的な人物、ルデウス・ライフ・ベルフェルーゴ。

この国において第三王子であり国の臣下の中で彼が次期皇帝になるのではと噂されている。

俺としてもその方が有り難い気持ちがあるが彼自身は王位に就くことを望んでいるかが今の所分からない為むやみに言葉を出す事はしない。


「本当ですよ!!何時も貴方は自分を大事にせず行動する。貴方の事を心配する者も多くいるのですからもう少し自己愛を持って下さい!!」

「……善処します。」


 彼女はこの国の第二王女のフィーナリア・アルファ・ベルフェルーゴ。

俺がこの国で兵士として就任した際に彼女の護衛を行っていた時期が有りその頃からの付き合いである。

まあ護衛の期間もそれなりに長くやっていたのと歳が変わらない事もあってよく話し相手にされてはいたのだが、今は殆ど関わりが無いに等しいが俺が任務から帰還する時殆どの確率で彼女がいる。


「相変わらずフィーナはタクミを心配しすぎな気質が強いね。そんなに心配しなくともタクミは強いから直ぐに戻って来るのに。」

「兄上!!そんな事を言ってタクミにもしもの事があったらどう責任を取るつもりですか!!」

「それは少し困ってしまうかも知れないが今は無事に帰ってきた彼を称えることが先じゃあ無いかい?」

「兄上こそ先程彼の勤務態度について色々と申していたではありませんか!?」

「僕は彼を一度お疲れ様と言った後に発言をしたから問題は無いのだよ。」

「そんなの屁理屈です!!」


 二人の話がヒートアップしているのを感じるが俺自身の事なのでここで口を挟むと余計に拗れると思い何も話すことができない。

正直に心配される事自体は嬉しく思うがいざ目の前でそういう話をされるといささか照れてしまう、が今はそんな事を思っている時では無いがどうすればいいのやら。


「お前達、心配するのは分かるが今はタクミからの報告を聞くことが先だ。」

「も、申し訳ございません。」

「失礼しました父上。」


 俺が状況の打開策を考えていた時一人の発言で二人の言い争いは終わりをむかえた。

止めたのはこの国の代表であるアーノルド・シュヴァリス・ベルフェルーゴ陛下。

この国の代表者の言葉には流石に従うしかない二人はそのまま話を終えて陛下の近くに立ち始める。

正直言って助かったという思いが強い。

目の前にいる陛下に目を向け感謝の意を目配せで送り陛下もそれに気付き軽く頭を下げる。

色々と気遣いをしてくれる陛下には本当に頭が上がらないが時々親戚のおじさんの様な対応してくる時は少しだけ大丈夫かと思ってしまう。


「ではタクミよ改めて報告を。」

「はっ!まず始めに此度の遠征先であるキリスシヤ山脈ですが既に結晶の侵食が活発化しておりこのままでは結晶に呑み込まれるのも時間の問題かと。」

「そうか……。周辺の村の被害はどうだ?」

「…残念ながら結晶の影響による魔獣達の侵攻で半数の村は壊滅状態…。残っている村も残念ながら復興は難しいでしょう。」

「そんな…。何とかならないのですか?あの村々には沢山の人達が…。」

「フィーナ、現場を確認したタクミが復興は難しいと判断したんだ。これ以上我々では何もできやしないよ。」


 ルデウス殿下の言葉にフィーナリア姫は深く悲しみの感情を滲ませていた。

それもそうだ、あの周辺は国にとっても彼女自身にとっても大事な所であったのだから。

それを何もできないと判断されて悲しむ事をするなというのが無理な話であろう。

ルデウス殿下もその事は分かっているがあえてあの様に仰ったのだ。


「ふむ。結晶の影響は予想以上に深刻となってきておるな。実際に結晶化自体はどこまで広がると予想されている?」

「そうですね。現状の段階ではキリスシヤ山脈の一部、多くても山脈の半分まで侵食すると考えられます。近隣にあった村に結晶化の被害は無いと思われますが先程話した魔獣達の侵攻による被害は少し広がる事でしょう。」

「となると新たに建設するとなると。」

「ええ、なるべく山脈から離れた場所に行わなければ同じ様に被害が出るだけで新たなる魔獣の活動域を増やすだけかと。」

「そうなると山脈からの鉱石入手は完全に諦めた方がいいのかもしれませんね。父上、村の再建先については私の方にお任せいただいても宜しいでしょうか?」

「何か策があるのかルデウス?」

「ええ。できれば余り使いたくは無い方法ですがね。」

「わかった。復興に関してはお前に任せよう。」

「かしこまりました。」


 陛下の言葉にルデウス殿下は頭を下げ魔力通信を行い連絡をし始める。

フィーナリア姫も悲しむだけでなく自分に出来ること考えようとしているのが見て取れ今の所は問題は無いと思い陛下の方へと視線を向けた。


「村の現状と結晶化の影響についてはわかった。では村々を治めていた領主はどの様な対応を行おうとしている?」

「そうですね。"現状何も出来ない"が答えでしょうね。」

「成る程…。そこ迄深刻な状態であるか…。」

「ええ。恐らく一時的な補助等をしても解決にならない事を分かっておいでなのかと。」

「となると我が国でも行える事は限りなく少なくなるか…。分かった。領主には此方から使いを出し話し合いの場を設けよう。現状の把握を一番しているのは領主であるからな。」


 陛下は自身の後ろにいる従者に向けて指示を出し、従者も一礼をした後直ぐに行動に移った。

やはり陛下専属の従者というべきか此方が目で追うことが出来ないほどの素早い動きで既にこの場にいなくなっていた。

そんな事を思っていると陛下から軽く咳をする声が聞こえそちらに目を向けた。


「時にタクミよ。今回の遠征に伴い暫く休暇を与えようと思うが何か希望はあるか?」

「休暇…ですか。私は特に必要ありませんよ。今回も遠征に行き状況の確認を行っただけに過ぎないのですから。」

「結晶化の確認をし無事に帰還しただけでも大義である。それにお主はまともに休んでおらんと聞いておる。身体を休め己のコンディションを整えなければいずれ倒れてしまうぞ。」

「そう言われましても現状私は疲れなどありませんので問題無いのですが…。」


 俺のこの言葉に陛下もフィーナリア姫も頭を抱えてしまった。

そんなにおかしな事をいただろうか?

自分の身体の限界なんて自分でよくわかっているのだからそんなにも心配される事は無いと思うのだが…。

俺が考えにふけていると魔力通信を終えたルデウス殿下が陛下のもとに向かい何か耳打ちをした。

一瞬だがこちらをやや呆れたような顔をして見ていた為何か面倒事を言わなければいいのだが。


「うむ、ではタクミよ。お主の言葉通り次の指令を言い渡す。」

「お父様!!」

「姫、大丈夫ですよ。陛下続きを。」


 陛下の言葉に少し興奮しているフィーナリア姫をなだめ陛下の御言葉を待つ。

陛下もフィーナリア姫に一瞬目線を向けた後再び俺の方に向き言葉を紡いだ。


「これよりお主には世界を周り己が感じたものをわしに報告せよ。」

「…………はい?」





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