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6話

柊side

 帰る方法がある?

目の前の男が言っていることの意味はわかっても理解ができない。

現に先程まで俺達に話をしていた国王の表情からは嘘の気配は感じられず、周りの臣下達もこちらに対しての謝罪の意が感じられた。

故に方法は無いに等しい筈なのにこの男はそれができると言い放った。


「急にこの様なことを言われて何故と信じられないでしょうが、少しだけ私の話を聞いて頂けますでしょうか。今我が国…、いやこの世界が大変な事になっているのです。」

「大変な事…?」

「はい。元々我々の世界は豊かな自然の恵みと生物に流れる汚れ無き魔法の力によって美しく、そして平和でありました。ですが、突如として現れてしまった魔結晶の力によってこの恵みは途絶えてしまったのです…。」


 アレックスはそう言いながら両手を大きく広げそのまま上に掲げ始めた。

すると俺達の近くにこの世界に来た時と同じ様な光が現れ始めた。

恐らく彼が言う魔法なのだろう。

その光は段々と強くなっていき俺達全員を飲み込むように輝き始めた。


 光が止むと目の前の景色が変わっていた。

そこには自然豊かな景色に変わっていて正直その美しさに見惚れていた。

鳥の声、肌に心地よい風、のんびりと過ごしている動物達、まるで何も縛られることの無い世界が広がっていた。


「綺麗だ。」


 誰の言葉か分からないが皆同じ感想だろう。

俺自身も同じ様に感動していたのだからその気持ちがわかる。

各々と感動していると頭の中にアレックスの声が響き始める。


「美しいでしょう。今皆様に見せているのはほんの一部分に過ぎません。ですがこの様な自然がこの世界に幾つも存在しています。ですが…。」


 言葉と同時に目の前の景色に変化がおきる。

地面は揺れ、動物達の逃げる音、肌を強く叩きつけるような風、そして何かを押しつぶすような重い雲が覆いはじめ今この瞬間にも逃げ出したくなるほどの嫌な気持ちにさせられてしまう。

周りを見てるみると怯えてしまう子達もおり恐怖を感じて涙を流してしまっている子達もいる。


「大丈夫ですよ。皆様が見ているのはあくまで私の魔法で作り出した幻でございます。皆様に危害を加える事はありませんので。それよりも見て下さい!この悲しみの始まりを!」


 アレックスの言葉と共に景色の変化を終わりを迎え始めた。

地面から結晶の山が現れ煙とともに木々を侵食し始めてしまった。

先程まで綺麗な自然の景色が不気味な結晶の姿に変わっていく、まるで異物を吸い込んだかのように草木の変化は止まらず更に傍にいたであろう動物達も結晶を取り込んだ異色の姿をしていた。

本来の進化とは異なるのだろうその表情は苦しそうにしており、鳴き声を聞くだけで影響の無い俺達でさえ苦しくなってしまうようだった。


「そう…、このような現象が世界のあらゆる所で起こっているのです。このままでは世界各地が結晶化してしまいこの世界は滅亡してしまうかもしれないのです!!……我々の国でもこの自体を解決すべく結晶化の阻止を行っているのですが…残念ながら我々の力でも解決出来ないのです。」


 アレックスの言葉とともにまた場面が変わり大勢の人達が結晶化した場所に向かって行く所が見える。

だが向かっている人達の足取りは重くまるで重りを付けているかのように歩きづらくしている事がわかる。

更に彼等が歩くに連れて周りの景色も霧のような靄が発生しある者は体を擦りながら歩き、またある者は頭痛が酷いのか頭を抑えながら歩き続けている。

誰が見ても苦しみながら進んでいる事がわかる状態で結晶を取り除く事は出来るように見えなかった。


「ご覧頂いている通り我々の足では結晶の影響で霧が発生しており体に害を与え結晶を取り除く事が出来ません。更にはいざ結晶の近くにつくことが出来ても近くにいる結晶の影響で生まれた魔獣達によって何も出来ないのです。」


 結晶化した動物達が人々を襲い始めている姿、更には結晶の影響を受けてしまった人々が仲間である者達へと攻撃を仕掛けるまさに地獄絵図とでも言うべきか最悪な光景が繰り広げていた。


(もういい…。もう見せないでくれ。こんなにも苦しんでいる人達を見せつけて一体何がしたいんだ。)

そう思っていると目の前の景色が一変し元の玉座の間に変わっていた。

自分達の周りに先程まで整列していた騎士達や玉座の近くにいたであろう身分の高そうな服を着た人達が集まり俺達の体を支えていた。

恐らく先程までの映像で体の力が抜けていたのだろう。

全く動く事も出来ない。


「こんな、こんなものを見せて…一体何がしたいんだ!!お前は!!」


 武井は俺達の気持ちを代弁するようにそう口に出した。

当然だ、いきなりこの世界の真実だと言って恐怖や絶望を感じてしまうような映像を見せられたんだ。

真っ当な理由があろうと無かろうとこんな事をしても意味が無い。

武井の言葉や俺達の視線を見ても臆することなくアレックスはこちらに歩みながら話し始めた。


「気分を害してしまい申し訳ございません。ですが皆様に知っていて欲しかったのです。我々の世界の現状を。そして皆様にかせられた使命を。」

「使命?」

「そうです。皆様は我々がこの世界にお連れさせていただきました最後の希望なのです。」

「希望…。」


 アレックスは微笑みながら俺達の前まで足を止めてフィンガースナップをした。

するとアレックスの目の前に魔法陣が現れ中央から

水晶玉が乗った台座が現れ始める。


「皆様がこちらの世界にお越しできたのは、皆様の中にある潜在能力がこの世界を照らす光となる素質があったからなのです。真ながらに勝手な事を皆様にお伝えしていることは十分理解しております。ですが、皆様の、勇者である貴方方の力でどうか私達を救って頂けないでしょうか?」

「救うって言ったって…。」

「僕達は、ただの学生…。」


 不安の声が俺の周りで上がり始める。

当然だこんな事を言われても納得なんてできやしない。

ましてや普通に学校生活を送っていた存在にいきなり力があるから戦えなんておかしな話にも程がある。


「ご心配には及びません。我々もただ勇者様にお任せするだけではなく責任を持ってサポートをさせていただきます。それこそ我が国王が申したように生活のサポートやこの世界に生きるすべ等様々な事を。……それに皆様にとっても有益なものになると思っております。」

「有益なもの?」

「はい。先程の映像をご覧いただいたと思いますがこの世界では様々な場所で結晶化現象が起っております。そしてその結晶化起こすには大きな力が必要となりますそれを維持する為のものがあると睨んでいます。そちらを使えば皆様を安全に元の世界に戻すことが出来るはずです。」


 アレックスの言葉に俺達だけじゃなくこの国の騎士達も驚いた表情をしていた。

騎士達の反応にはいささか疑問を持ったが帰れるという言葉の真意は何となく理解はできた。

だが…。


「本当に帰れるのか?」


 不意に言葉が漏れてしまった。

どう考えても都合が良すぎる。

夢物語を見せられている気分になるほどの突拍子のない発言にしか思う事ができない。


「………。正直絶対という保証はできません。ですが可能性は零では無いのです!!ならばその可能性に私と共にすがってみませんか!何もやらずに後悔するよりも、何かを成し遂げてから後悔する、それこそが皆様にとって価値があるものだと私は思います!!どうか皆様の正しいご判断を期待しています。」


 アレックスの言葉に耳を傾けながら俺達は互いに顔をあわせた。

それも無意識に…。

迷う、怖い、でもやらなきゃ、こんな感情が読み取れてしまう。

俺も同じ表情になっているだろう。

そんな時一人の人物がアレックスに近づいた。


「やります。帰れる可能性があるのなら僕はそれにかけたい!皆とともに!!」


 そう言いながら俺達に手を差し出す様にした彼、綾崎はこちらに振り向いた。

彼も怖いと思っているのか少し震えてはいた。

でもそれを感じさせない様に笑顔で此方を見ている。

そんな行動に感化されたのか綾崎の周りに何人かの人物が集まり綾崎と同じ様に力強くアレックスに宣言し始めた。


「俺もやるぜ!確かにやって後悔した方が前に向けしな!」

「私も!」

「僕も!」


 次々と立って己の気持ちを出している者もいれば、俺と同じ様に座っている者もいる。

今直ぐにやる必要なのか?

俺にはそう考える事しか出来ない。

綾崎の周りは希望を話しているが、俺の周りは不安を出している。

ここには明確な溝のようなものを俺は感じてしまった。

だからなのか、嫌だからこそ俺は口を出してしまった。


「何が起こるか分からないのに早々に決めて良いのか?」

「どうしてだい?」

「命の危険だってある。見ただろうあの映像を。リスクを考えてみろよ、俺達に力があったとしてもそれで何かが変わるのかよ。この世界ではあらゆる場所で同じことが起きそれが解決出来ていないんだ。俺達子供にそれを解決出来る術があるとは思えない。」

「そうだよ!冷静に考えてみよう!」


 俺の発言に同意してくれたのはあの時俺と武井の近くに来た少女、霧山だった。

霧山と俺の言葉に一瞬たぢろぐ綾崎達だが決断は変わらないのだろう。

真剣な表情で俺達を見返しこう続けた。


「それでも、それでもやらなきゃ何も変わらないじゃないか!!」

「そうだぜ!折角希望が見えてきたんだ!!」

「確かに何があるのか分からなくて怖いけど…でも!」

「僕達に出来ることがあるならやるべきだと思う!」


 何を言っても無駄なのだろう。

彼等の意志は固くそれでいて自分達は出来ると思い込んでしまっていた。

俺は近くにいる霧山達に目を向け彼女達の表情をみる。

恐怖、悲しみ、諦め、そんな表情をしていた。

…これ以上は無理だと思い知らされてしまう気分だった。


「……わかった。ならそれぞれ自分達で決断しよう。そしてそこには一切の迷いを見せない。いいか?」

「わかった。」


 俺と綾崎はそう話そして周りもそれに賛同した。

こうやって別れることがあると思いながら俺は、嫌俺達はそれぞれ自分達の道を決断した。

それがどうなるのかはこの時は誰一人としてわかっていない。

だが…この決断こそが大人になることなのかもしれない。

 




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