1話
柊side
勇者様?
一体何を言っているんだ?
彼は俺達が来るのを待っていたと言っていたが、それはなぜだ?
それに力を貸してほしいというのもわからない。
隣にいる武井も困惑の表情が出ていて今の状況に疑問を持っているのは自分だけでなかったことに密かに安堵したが、悟られないように目の前のいけ好かない奴に顔を向ける。
アレックスは俺達の行動にニヤニヤとしながら頭を上げ、芝居かかった動きで更に言葉を続ける。
「その顔は何を言っているのかわからないと思われているようですね。まあ、私も同じ立場なら困惑を隠せないと思いますので仕方のないことです。」
首を横に振りながら両手を肩まであげ人を小馬鹿にした態度する。
俺も武井もイラつきが増してきたがいざそれを行動に表そうとしても体が上手く動くことが出来ない。
此処で目を覚ましてから体調が悪くなっている。
目眩、吐き気、頭の痛み、それが重なってまるで自分の体じゃないような感覚に襲われる。
「フフッ、失礼。まずは一度体を休まれてからの方が宜しいでしょう。あなた方お二人以外の方達はまだお目覚めになられておりませぬゆえ。それにお二人とも此方の世界にまだ慣れていらっしゃらないと思われますしね。」
アレックスはそう言いながら立ち上がり右腕を軽くあげる。
すると俺達を包んでいた薄い幕のようなものや足下にあった紋様のようなものも消え始め辺りが少し薄暗くなっていった。
アレックスは紋様が消えた後右手を空に上げそこから小さい紋様が浮かび上がり辺りを照らし始めた。
(さっきから使っているあれは、漫画とかである魔法なのか?)
俺がそう悩んでいると急に視界がぼやけ始める。
一体何が起こったのかわからず周りを見るが同じ様に頭を押さえる武井が目に入り、自分だけではなかった事に驚きを感じながら直ぐにアレックスへ目を向けた。
アレックスは笑った表情を変えずに、いやそれ以上に悪質な表情をしているのが目に写り怒りが込み上げてくるのを我慢して見続けると、
「大丈夫ですよ。直ぐに目を醒ましますから。今はお休みなさいませ。」
アレックスは光続けている右手を俺達に向け何かを口にした。
頭の痛みが急激に増し、俺はアレックスの声を聞き取ることが出来なかったがアレックスの笑っている顔だけは鮮明に記憶に焼き付けられた。
(くそ……や…ろう…!)
俺は意識を手放してしまった。
◯◯◯◯
アレックスside
遂に勇者様を召喚することができた、できたぞ!
彼奴よりも早く!
この私の力で!
いや、まだ喜ぶ所ではない彼等が使えるものかどうかの確認をまだ終えていない状態で喜んでも意味がない。
「アレックス様、勇者様方をお部屋までお連れいたしました。」
「ご苦労。では数名程彼等の補佐にまわり残りの者は直ぐに儀式の準備を始めよ。」
「畏まりました。」
部下の一人が私から離れ周辺に集まっていた他の者達をつれ移動し私の指示通りに動き始めた。
私もそろそろ移動しないとだな。
父上にも報告し計画通りに事を運ばねばな。
「勇者様には頑張ってもらはなければな。私の野望のために。」
これからが面白くなる。
全ては私のために動き始めているのだから。
●●●●
この時アレックスの事に少しでも疑問を持っていれば俺達の運命ももう少し良くなっていたのかもしれない。
たらればの話になってしまうが、一つでも自分気付くことが出来ていれば俺達は平和に暮らすことが出来たのかもしれない。
そう思わずにはいられなかった。
狂いだした歯車はもう元通りにはならないのだから。
運命と言うなのレールは
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