――幕間――
「ね? あんまりインパクトない話でしょ?」
語り終えた戸波は、俺たちの反応を窺うかのように視線を巡らすと恥ずかし気にはにかんだ。
「いや、充分不思議な話だと思うよ。自分が体験したら、絶対人に話したくなる」
「まぁ、押入れから髪の長い女が飛び出してきたとかって話に比べりゃ、インパクトはねぇけど。でも、地味な話だと信憑性が増すから逆に不気味な感じはするな」
フォローするように俺と渋沢が感想的な意見を述べると、戸波も少し安堵した様子で白い歯を見せる。
「ありがと。でも、これ本当に実話だからね? 恐かったよぉ。暫くはトイレ行く度に同じこと起きるんじゃないかってビクビクしてたし」
「それっきりだったの?」
「うん。それ以降は何も起きてない」
俺の問いかけに、戸波はコクリと頷いた。
「――面白いお話でしたね。お盆であれば、確かにご先祖の霊が里帰りをしていたということも考えられますし、ちょっとした悪戯心で自分の子孫へ自らの存在をアピールしたかったんじゃないでしょうか」
話を聞き終え、暫し余韻に浸るように黙り込んでいた羽切が、怪談の感想とは似つかわしくないくらいに穏やかな口調で言葉を紡いできた。
「ちょうど、今日はお盆ですし。まさに旬なお話でもありましたね」
そして、スイッと首を上向かせ、年季の入った天井を見上げながら何かを探すように視線を左右へ移動させると、「……ひょっとしたら、私の主人も今近くに来ているのかしら」と、面白がるように呟きを付け加え微笑を湛えた。
「…………」
返答に困り、ぎこちない愛想笑いを浮かべてしまう俺たちへ視線を戻した羽切は、おどけるように小首を傾げ、
「冗談ですよ。今年は迎え火を焚いていませんから、きっと今頃は山の中を彷徨っているんじゃないでしょうか」
と更に返答に窮する発言を放ってきた。
「さてそれでは、次は私がお話をしましょうか。これは私が小さい頃、お婆ちゃんから聞かされたお話なんですけれど、子供ながらに恐いと感じて、未だに忘れられない話なんです。お婆ちゃんも、もうずっと前に亡くなりましたから、今となっては真実かどうかを確認できないのが残念ですが……」
言葉を詰まらせたままの俺たちをそのままに、羽切はスゥ……っと浮かべていた笑みを薄めていくと、祖母に聞かされたというその不思議な話を語り始めた。