第三十七話:向かいの団地
……さて、次は何を話しましょうか。
たくさんの人たちが集まる場所は、本当に多種多様な怪異が潜んでいますから、そのぶん集まるお話も多いために悩んでしまいますね。
…………そうですねぇ。では今度は、小さい頃、団地に暮らしていた私の従兄が体験した、恐い話を一つしましょうか。
従兄が小学校二年生の時に目撃した、不思議な男性のお話です。
その従兄は、当時埼玉県にある団地に住んでいまして、部屋は最上階である五階にありました。
季節は冬で、確か外が暗くなりかけていたと言っていたので、夕方の四時半から五時前くらいの時間帯だったのだと思います。
従兄はその時自分の部屋におり、一人でゲームをして遊んでいたそうです。
父親は仕事から帰宅しておらず、家には母親がいて夕飯の準備をする音が聞こえていたと言っていました。
たぶん一段落ついたのでしょうね、従兄は遊んでいたゲームを一旦置くと、部屋のカーテンを閉めなきゃと思い窓際へと近づいていきました。
その時に、従兄は何気なく窓の外へ視線をやったそうなのですが、そこで不可思議な光景を目の当たりにしたというのです。
窓の先には、数十メートル離れた場所に隣の団地が建てられており、その団地の壁を、ぼんやりと白く発光する人の姿をしたモノが、まるでカエルのようによじ登っている。
何となく、輪郭から男の人かなと思ったそうですが、はっきりとしたことはわからず、その発光する人影は真っ直ぐに垂直な壁を登っていくと、やがて屋上まで到達し、そのまま視界から消えてしまったそうです。
慌ててカーテンを閉め、母親の元へと駆けていくと、従兄はたった今見たモノを説明したらしいのですが、何を変なことをと一笑され、結局は信じてはもらえなかったと、少し不満そうに語っていました。
ですが、従兄は絶対に見間違いや錯覚ではなかったと断言しています。
夜の帳が下りかけた薄暗い闇の中で、あんな長い時間錯覚を見続けるわけがないし、大きさと形からして大人の人間以外はあり得ないはずだった。
そう力説していましたが、では結局それは何であったのか?
その解は、未だにわからないままのようです。




