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怪談遊戯  作者: 雪鳴月彦
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第三十四話:エレベーターの気配

 最初のお話は、東京で暮らしてる女性から聞かせていただいた、エレベーターに(まつ)わるお話です。


 この女性は……そうですね、飯部(いいべ)さんという名前にしておきましょうか。





 この飯部さんというのは、都内で広告を作るお仕事をしていると言っていましたか。それで、マンションを借りて一人暮らしをしているという、そういう人でした。


 その住んでいたマンションというのが、私は詳しくはわかりませんが、それなりに設備がしっかりしている所らしく、泥棒や不審者が入り込めないようにセキュリティもかなり最新のものが使われている建物なのだと、ちょっと自慢されてしまいましたね。


 そういう安全性が気に入って借りたマンションだったそうなのですが、ただ一つだけ、どうしても気になることがあったのだそうです。


 そのマンションは八階建てで、飯部さんの部屋は七階にあり、毎回出入りする際にはエレベーターを利用していたらしいのですが、そのエレベーターに乗るといつも誰か他にも人が乗っているような、そんな気配がするのだと。そう言いました。


 当然マンションですから、他の住人と一緒になることはよくあるらしいですが、早朝や深夜などはさすがに一人になることが多く、そういう時でも誰かが側にいるようなおかしな気配を感じていたそうなのです。


 ですが当然、狭いエレベーター内を見回しても誰もいない。


 気のせいなのかなぁ……と毎回思いながら、あまり意識しないよう努めて生活をしていた飯部さんでしたが、そのマンションで暮らし始めて数ヶ月が経過した頃、ずっと感じていた気配の正体を目撃してしまうことになった。


 飯部さんは、仕事が忙しい時期になると帰りが零時を過ぎることもあるそうで、その日も残業を終えてマンションへ着いたのは日付が変わる直前くらいだったそうです。


 疲れてうんざりしながらエレベーターへ乗り、七階へ向かう。


 するとやはり、自分しかしないエレベーターの中に他人がいるような気配がする。


 ああ、またかぁ。そう思いながら七階へ到着するのを待ち、ドアが開くと同時に通路へ出た飯部さんは、数歩前へ進んだ時ふと背後が気になり振り向いた。


 ちょうどエレベーターのドアが閉まりきる直前だったそうですが、そのドアの隙間から、一瞬だけ見えたのだそうです。


 よれよれになった灰色の半袖Tシャツにジーパンを穿いた、三十代から四十代くらいの小太りの男が、下を向いたまま立っている姿が。


 肌は不自然に青白く、髪は清潔感がなくのっぺりとしているような感じで、力なく両手を下げたまま佇んでいるその姿を見て、飯部さん、一気に鳥肌が立ったそうです。


 間違いなくエレベーターには自分一人しかいなかったし、入れ違いで誰かが入ったりも絶対にしていない。


 ずっと感じていた気配は、あの男だったんだ。


 そう直感した飯部さんは、その体験をして以降は一人では絶対にエレベーターには乗れなくなったそうです。


 なので、早朝や深夜は大変なのを承知で階段を使うようにしているらしく、そのことが原因で今のマンションへ引っ越してきたことを後悔しているのだと、そうお話をしていただきました。

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