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怪談遊戯  作者: 雪鳴月彦
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第二十九話:甘える猫

 さて、次のお話ですけれど、これは今年の春に出会った夫婦から聞かせていただいたお話になります。


 夫婦と言いましても、これから話す体験をされたのは旦那さんの方でして、この旦那さんがまだ独身だった頃に遭遇した怪異になります。





 これ、僕がまだ妻と結婚する前に体験したことなんですけれど……あんまり気分の良い話ではないですよ?


 僕がまだ二十八の時でしたから……今から六年くらい前になりますね。


 当時、僕はアパートで一人暮らしをしていたんです。


 で、その時から妻とは付き合っていたんですけど、お互い仕事もありましたし、会うのは二、三週間に一度週末デートをするくらいだったんですね。


 そんなんで、僕もほとんど一人で生活をしている状態でしたから、正直ちょっと寂しくて。


 猫を一匹、飼っていたんです。


 茶トラの猫で、知り合いの飼っている猫が生んだ仔猫の里親になったかたちだったんですけど、すごい人懐っこくて可愛い猫なんですよ。


 それで、僕が寝てると身体を摺り寄せて甘えたりしてきて、よく一緒に寝たりもしていたんです。


 まぁ、それは今もなんですけどね。


 それで、ある日のことでした。


 僕が仕事を終えて家に帰って、夕食を食べたりお風呂へ入ったりして……いつも寝るのは十一時半くらいでしたかね。


 その日も普通に、同じような感じで布団に入ったんですよ。


 歯を磨いて、電気を消して布団に入って。


 で、五分……いや、十分くらいかな。


 僕がうとうとし始めた頃に、猫が布団の上に上がってきたんです。いつものことなので、それが感触でわかったんですね。


 それで、あ、来たなって眠りかけた頭で思ったりしてたんですけど……。


 普通なら、その後すぐに布団の中へ潜り込んでくるはずなのに、どういうわけかこの時はゴロゴロゴロゴロ喉を鳴らすような音を立てながら、ずっと布団の上を動き回っていて、なかなか布団へは入ろうとしなかったんです。


 ん? どうしたんだろう。布団に入らないのか? いつもより昼寝して、まだ眠くないのかな。


 そんなことを考えながら、僕もまぁ別に良いかってぼんやりしていて。


 暫くしたら、やっと猫が僕の頭の方へ近づいてきまして。


 お、やっと寝る気になったか、なんて思ったんです。


 何が嬉しいのかずっと喉鳴らしながら布団の上動き回って、僕の顔の横へ来てもまだゴロゴロ言いながら身体を擦り寄せてきたりしていて。


 随分ご機嫌だなぁと、眠りかけながらほっこりした気分になったりして布団へ入るのを待ってたら、顔のすぐ横にいるその猫が急にピタッと動きを止めて、くるっと身体の向きを変えたんですね。


 そういう動きをしたのが、感覚でわかったんです。


 そしたら、何かおかしいんですよ。


 自分の頬に触れている猫の身体の感触というのか、それが何か変で、あれ? って思って。


 猫って、全身毛だらけじゃないですか?


 なのに、その身体の向きを変えた途端、すごいサラッとしたというのか、人の肌みたいな感触に変った感じがはっきりして。


 ん? 何だこれ? どうなってるんだ?


 って、訝しみながら様子を窺ってたら……本当、突然ですよ?


 耳元で、すっごい低い男の声で、「……おい」って呼ばれたんです。


 僕ビックリして、ほとんど反射的に飛び起きちゃいまして。


 すぐに部屋の電気を点けたんです。


 そしたら、布団の上には何もいなくて、猫は? って思いながら探したら、部屋に小さい収納棚を置いていたんですけど、その棚と壁の隙間に入り込んで、何かを恐がるというのか、警戒するみたいに僕と布団の方を何度も見てたんですよね。


 寝ぼけて夢みて勘違いしたのかなって、そう思い込もうともしたんですけど、どう考えても猫の鳴き声なんかじゃなかったし、幻聴とは思えないくらいはっきり聞こえたんです。


 「……おい」って、本当に耳に口が付くんじゃないかってくらいの至近距離でしたから。


 それで、そのまま寝る気分にもなれなくて、暫く起きていたんですけど……起きながらよぉくその声を思い返してたら、ちょっと心当たりが浮かんだというか、以前に何度か聞いたことのある声に似てるなって気がついて。


 その声、当時――と言うか、その経験をする少し前まで、妻に付きまとっていたストーカーの声とそっくりだなって。


 そう思い至りまして、僕、慌てて妻に電話したんです。


 その男とは僕も何度か鉢合わせをして、口論になったこともありましたし、まぁ面識がありましたから。


 嫌な予感みたいなものがして、それで妻へ連絡をしたら、その時は別に何ともなくて、むしろ遅い時間に僕がいきなり電話してきたことの方に驚かれただけだったんですけど。


 ……ただ、その一月後くらいでしたかね。


 知り合いから、聞かされたんですよ。


 そのストーカーしてた男、僕が恐い体験をした二週間も前に、アパートの自室で首を吊って自殺してたって。


 当時は初秋で、日中は気温の高い日もありましたから、発見時はかなり酷い状態になったようで、アパートの住民や近隣では結構な騒ぎになってはいたみたいなんです。


 それを聞いた時に、僕と妻はある嫌な仮説が頭に浮かびまして。


 ストーカーの男、妻と交際してる僕のこと本気で嫌ってて、一歩的な殺意まで持ってたくらいの人でした。


 だから……あの夜、僕の布団の上を動き回っていたのは、ストーカー男の首だったんじゃないかなと、そう思いまして。


 ゴロゴロゴロゴロって猫が喉を鳴らしていたと思っていた音も、あれ、男が喉を窒息させて必死に苦しんでる時の音だった可能性もあるんじゃないかな、と。


 閉め切った部屋の中で首を吊って、腐敗して千切れた男の頭が……僕の所に来ていた。


 そういう風に考えたりしちゃうんですよね。


 羽切さんはこれ、どう思いますか? ただの偶然だったんでしょうか?

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