第二十八話:心霊写真
次に話すのは、これまでに私がここで出会った人の中で、一番酷い体験をされたんだなと、まぁ、そう個人的に思っている方から聞いた体験談です。
その方のことは、鈴宮さんということにしておきましょうか。四十代の男性の方でした。
この話を聞かせてくれたのが、約三年前。それから更に十年ほど前に、鈴宮さんが直接体験したお話なのだそうですが、その年の秋、鈴宮さんは職場の友人たちと五人で山にツーリングへ出かけたそうです。
どこなのかまではわかりませんが、紅葉の綺麗なスポットらしく、紅葉狩りへ来ている人も多く見かけたと言います。
しかし、そのツーリングに選んだ道というのが、過去に何度か交通事故が発生している場所であるらしく、鈴宮さんはあまり良いイメージはもてなかったそうなのです。
それでもせっかく遠出をしてまで来たのだし、ここで変なことを言えば友人たちを白けさせてしまうと思い、我慢しながら山道を走っていたらしいのですが……。
バイクで目的地へと向かう途中、少し休憩しようかということになり、車除けに設けられていたパーキングスペースに友人たちとバイク五台を並べるように止め、持参していた飲み物を飲みながら周囲の景色を眺めてらしいのですが、その時に友人の一人がせっかくだしここで記念写真を撮ろうと言いだして、写真を撮ることになった。
まず最初に言いだした友人が鈴宮さんを含む四人が並ぶ写真を撮り、その後に今度は鈴宮さんが友人たちだけが写る写真を撮ってあげました。
写真ができたら、皆にも配るからということを約束し、五人は暫しの休息を経てまたツーリングを再開しました。
それから一週間程が経過して、鈴宮さんが職場の休憩室で昼食を食べていると、ツーリングへ出かけたメンバーたちがどこか浮かない様子で集まってきた。
どうにも様子がおかしいので、鈴宮さんが「どうかしたのか?」と問いかけると、友人の一人、ツーリングで記念撮影を提案してきた人がポツリと呟くように口を開いてきました。
「この間、ツーリングに行った時に撮った写真、あっただろ? お前が撮ったやつ確認したら、変なもんが写っててさ……これ、見てくれよ」
そう言いながら、友人が差し出してきた一枚の写真を受け取ると、鈴宮さんはそこに写るものを確認して顔を顰めました。
自分が撮った写真なので、当然鈴宮さんの姿はない。
他の四人だけが、バイクを背にして横並びに整列し、笑顔をカメラへと向けている光景が映し出されている。
映し出されてはいるのですが、それがあまりにも不気味で、鈴宮さんは困惑しながら友人へ説明を求めるように写真から目を逸らした。
「これはいったい、どうしたんだ? カメラの故障か?」
写っている友人四人。その全員の身体がどこかしら赤い靄のようなものに包まれている。
一人は、顔。一人は、胸部。一人は、腹部。一人は、右肩から胸にかけての広範囲。
素人の目で見ても、光の反射とかそういう類のミスではないとわかった。
「お前が撮った写真だけなんだよ、そんな風になったの。その前に俺が撮ったやつは普通に撮れてたし、その後に別の場所で撮った写真も、全部何も問題はなかった」
全員がばつの悪そうな顔をする中、写真の持ち主である友人はそう言うと、気味が悪いからその写真は処分することにするよと言って、代わりに鈴宮さんの写っている写真を渡してくるとその場を離れていった。
このお話、ここで終われば少し不気味なお話だったなくらいで終わるのですが……更に続きがありまして。
この赤い写真を鈴宮さんが見てから一年の間に、写真に写っていた友人四人全員がお亡くなりになってしまったらしいのです。
自殺か事故かはわからないそうですが、一人は住んでいたマンションのベランダから転落し、顔が潰れた状態で即死。
一人は、仕事帰りに飲酒運転をしていた車に撥ねられ、胸部を強く打ち心臓が破裂し即死。
残る二人は、車に同乗してどこかへ出かけている途中で事故を起こし、一人は腹部を、もう一人は肩から胸にかけてを大破した車に挟まれ、ほぼ即死。
ツーリングへ出かけたメンバーで、唯一生き残ってしまったのは、鈴宮さんだけ。
本人も、余程恐かったのでしょうね。
このお話を聞かせていただいている最中も、途中から声を震わせていたのを今でもはっきりと覚えています。
もし、あの時。写真を撮る順番が逆だったら、自分が最初にシャッターを切って、二枚目の写真に写っていたら、僕、どんな死に方してたんでしょう。
震える声を必死に堪えながら、鈴宮さん、そう言ってました。




