第二十七話:空き家の怪
以前お話を聞かせてくれた男性が、中学生の時に体験したという話です。
その方、ここでは冴木さんとしておきますが、冴木さんは中学生の時にお友達と二人で空き家へ忍び込んだことがあったのだそうです。
学校から家とは反対方向へ自転車でニ十分ほど進むと、住宅地の一角にもう何年も人の住んでいない二階建ての家があり、近所では幽霊が出る家だと噂されている場所だったと言います。
それ故に、肝試しや好奇心でそこを訪れる未成年は多く、学生たちの間では気軽に行ける心霊スポットのような扱いを受けていた家でした。
そんな場所へ、冴木さんは友人と学校帰りに立ち寄ったわけですが、季節は肝試しには不釣り合いな真冬で、その空き家へ着いた時にはもうかなり暗くなっており、友人の持ってきていたライトを使い、家の中へと入っていきました。
人目につかぬように門扉を潜り、庭の方へ回り込むと恐らく過去に訪れた誰かがどうにかして開けていたのでしょう、鍵の掛かっていない窓があって、中へ侵入するのは容易だったそうです。
家の中は、埃と黴の臭いがほんのりと立ち込め、家具も何もないがらんとした空間が異様に不気味に映り、冴木さんも友人も来てしまったことを一瞬後悔しかけたそうですが、それを口に出せば弱い奴と思われてしまいそうなのが癪で、お互いその場では強がり合いながら奥へと進んでいきました。
当時はまだ携帯電話も普及していなかったそうで、頼りになるのはたった一つの小さな懐中電灯が作りだす灯りだけ。
真っ暗な闇も恐いけれど、中途半端な灯りだけで動き回るというのも、光の外から何かが飛び込んできそうな気がして、冴木さんは内心かなり怖気づいていたと言います。
それでもどうにか一階を全て見て回り、次は二階へ移動しようということになった。
狭い階段を友人が先頭になって上がり、一番手前にあった部屋へと入った二人は、サワサワという外で風が吹いているような音を聞いて、反射的に小窓へ視線を向けました。
しかし、空も暗くなり夜闇に包まれた窓の外にシルエットのようになって見えている木の枝は、特に揺れているような気配はない。
それでも、サワサワという乾いたような音は静かにはっきりと二人の耳に届いてくる。
何か風が吹くような音してるよな?
そう冴木さんが訊ねれば、友人も「ああ。二階に上がるまでは何も聞こえなかったよな?」と相槌を打つように返してきた。
不思議だなと思いながら、冴木さんは窓へ歩み寄り鍵を外してそっと開けると、外は無風で近くで車が走る音が聞こえてくるだけ。
おい、風なんて全然吹いてないぞ。これ……家の中から聞こえてる音だ。
背筋をゾワリとさせながら冴木さんが振り向き友人へ声をかけると、友人は「マジかよ……じゃあこれ、いったい何の音なんだ?」と訝しむような声を漏らしながら、ぐるりと室内を照らした。
その一瞬。
友人の持つ懐中電灯が、床の隅を照らした時に、冴木さんはおかしなモノを見たような気がした。
おい……ちょっともう一回、そこ、床の隅っこ照らしてみてくれないか?
ゆっくりと友人の側へ移動し、寄り添うようなかたちになりながら冴木さんが言うと、友人は言われるままに床の隅を照らす。
刹那――二人は部屋に入ってからずっと聞こえていた音の正体を知り、悲鳴を上げながら階段を駆け下り外へと逃げだしました。
二人がそこに見たモノ。
それは、床の隅にビッシリと固まるようにして集まった髪の毛の束だったそうで、部屋の四隅を囲うようにして無数に散らばり、蟻の群れ、または糸のように細い毛虫が密集しているように、サワサワサワサワと蠢いているのを見てしまったそうです。
その後、冴木さんも友人も二度と空き家へは近づくことはなかったそうですが、その家は冴木さんが高校を卒業するまで誰も買い手がつかぬまま放置され続け、今現在はどうなっているのか、地元を離れてからは一切不明だとおっしゃっていました。




