表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪談遊戯  作者: 雪鳴月彦
41/66

第二十六話:引っ掻く音

 これは、とある三十代の男性が、田舎に古い一軒家を買った際に体験したというお話です。


 その方は独身で、今の時代は普通なのでしょうか? 結婚願望があまりない方のようでしたね。


 それで、アパート暮らしもお金がかかるし、いっそ中古で一軒家を買ってしまった方が将来的には安上がりじゃないかと、それほど大きくはない一人暮らしにはちょうどいい広さの、平屋の家を購入したのだそうです。


 立地条件があまりよくないせいか、破格の値段であったのも購入を決定させる要因の一つだったらしく、その方にしてみればかなりの掘り出し物であったみたいです。


 車は所持しているため、移動には困らない。


 仕事も正規雇用で安定しているから、余程の不運がなければ一生安泰。


 お墓は実家の墓に入れば済むし、これで今まで以上に勝手気ままに安定して暮らせるなと喜んでいたそうなのですが、いざ住み始めると一つだけ不可解な現象がその方を悩ませることとなりました。


 それは、その家で暮らし始めて、三日目の夜から起こり始めました。


 最初の数日は、ネズミの仕業かなと思っていたそうなのですが、夜になりその方が布団へ入ると決まって同じくらいのタイミングでガリガリ、ガリガリと床下を引っ掻くような音が聞こえてくるようになったのだそうです。


 それは、爪で畳を引っ掻く音によく似ており、近いうちに何かネズミの対策をしなくちゃいけないなと思い、一週間ほど様子見をした末に業者へ駆除の依頼を入れたと言います。


 しかし、いざ業者が調べてみても、床下どころか天井にも壁にもネズミがいる痕跡は見つけられず、音の原因を特定することはできなかった。


 それならいったい、あの音は何だというのだろう。


 家鳴りにしてはあからさまにおかしいし、ネズミ以外の動物が夜な夜な床下へ潜り込んで引っ掻いているとも思えない。


 モヤモヤとした気分を払拭できないまま、その方は仕方なく寝る場所を変えて暫くはやり過ごそうと考えました。


 それで寝室に使用していた真下で音がするのなら、茶の間にでも寝るしかないと布団を持ってきて、テーブルを横へずらして寝てみることにしたのですが、これまたどういうわけか、その夜もすぐ真下からガリガリという音が響いてくる。


 まさかこの音、寝室だけじゃなかったのか。


 驚いてすぐに起き上がると、様子を確かめるため寝室へと向かってみたそうなのですが、どういうことなのか、下で聞こえているガリガリという異音も、まるで後を追いかけるようにピッタリとついて移動してくる。


 ……その方、そこで初めて気がついたんです。


 毎日床下から聞こえていた音、それ、ただ真下から聞こえていたのではなく、ずぅっと自分の側にピッタリくっ付いて音を鳴らしていたってことだったんです。


 それがこの時、部屋を変えたことで明らかとなった。


 さすがにこいつは普通じゃないなとその方も確信を持ったそうで、その夜は音が止むまで寝つくことができず、翌日すぐにお祓いを頼める神社を探し、除霊をお願いしたと言いました。


 そうして、いざお祓いをしてわかったことが一つありまして。


 その家の床下から、かなり古い人骨が三人分、発見されたそうです。


 事件性はなかったそうなのですが、その場所、家が建つ前は小規模な墓地であったらしく、恐らく移動の際に業者のミスでそのまま取り残されたりしたものだろう、ということでした。


 きっと、見つけてほしかったのでしょうね。


 どれほどの間その家が空き家になっていたのかは存じませんが、ようやく入居されたその方に、自分たちの存在に気づいてほしいと、毎晩真下からガリガリガリガリと床板を引っ掻き続けていた。


 事実、お祓いと遺骨の移動を済ませた途端、毎晩聞こえていた異音はピタリと止んだそうですから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ