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怪談遊戯  作者: 雪鳴月彦
33/66

――幕間――

「――とまぁ、こんな話を色々と聞かせていただいていたのですが、いかがでしたでしょうか? 物に宿る何かと、人や動物の霊、その境界線みたいなものは曖昧ではありますが、私は今話したものは全て、物や場所に残る想いが生み出した怪異だと思っています」


 ポリポリと、渋沢が漬物を咀嚼(そしゃく)する音を聞きながら、俺は羽切が語ったばかりの話を今一度頭の中で吟味する。


 いなくなった持ち主を待ち続けるかんざし、幼い頃を共に過ごし大切にされてきた植物図鑑、祖父が形見にと寄越した御守り、そしてオーナーを亡くしたガソリンスタンド。


 確かに全て、人の霊と一概に言うことはできない。


 ガソリンスタンドに現れたオーナーは、幽霊だったのか。それとも、そのオーナーすらもその場に染み付いた思い出が見せた残滓(ざんし)であったのか。


 御守りも、そこに祖父の霊が関わっていたと解釈することもできそうだが、持ち主を守りたいという、御守りに宿った念と解釈することもできる。


 しかし、これらのことを霊感もない自分が考えても、都合の良い答えを無責任に吐き出すことしかできはしない。


 そこにあったのが、他人の残した想いかどうかは、羽切がそうだと解釈するように、人それぞれが判断するしかないのだろう。


「確かに、そういう不思議な存在も世の中にはあるのかもしれませんね」


 そんな結論をだした上で、俺は聞かされた話に対する感想を口に出した。


 同時に、長年大切にされた人形が魂を持ち、髪が伸びるようになったなんていう不気味な話もあったなと、昔観たテレビ番組を思いだしたりもしてしまった。


「たまに、テレビや雑誌で見聞きすることがあるのですが、山中に車を走らせていると、突然霧が立ち込めてきて気づいたら見知らぬ場所を何時間も彷徨(さまよ)う羽目になった。なんてお話があるんですけれど、ようやく見知った道へ辿り着くとどういうわけか、迷ってからほんの数分しか時間が経過していなかった……なんて事例もあるようですね。ああいうのもきっと、その土地に何かしらの強い力が作用していたりするのかもしれません。下手をすると、そういう怪異の方が人の霊などより遥かに強力で恐ろしいのかもしれないなと、たまに思うこともあります」


「まさか、この辺でも同じことが起きるんですとか言いませんよね?」


 冗談めいた口調で戸波が訊くと、羽切は「さぁ? どうでしょうね。案外あるのかもしれませんよ?」と同じく冗談めいた調子で言葉を返した。


「えー? それって、霊界とか異世界に迷い込むみたいな話じゃないですか? 運が悪いと、もう二度とこっちには戻って来れないみたいな。神隠しとかって、絶対にそういう感じですよね」


「ああ、なるほど。言われてみればそうかもしれませんね。となると、そこは黄泉比良坂(よもつひらさか)である可能性が高いのかも」


「よもつ……?」


 いきなり出てきた聞き慣れぬ言葉に、俺たち三人は同時に首を傾げて羽切を見つめた。


「ご存じありませんか? 黄泉比良坂。この世とあの世が交わる境界の場所を言うのですけれど。そこへ迷い込めば、死者の国へ誘い込まれてしまうこともあるようで」


「へぇ……そんなのがあるんだ。あ、でもそれなら逆に、あの世にいる幽霊がこっちに迷い込むなんてこともあるんじゃないですか? 案外浮遊霊ってそういう理由でこの世にいるのかも」


「ふふ。戸波さんは面白い発想をしますね。あの世から迷い込んできたのが浮遊霊……。考えたこともなかったです」


 内容は不穏だが、感心した様子で何度も頷く羽切に戸波も気分を良くしたか、まんざらでもなさそうな表情で更に調子に乗って言葉を続けた。


「いえ、そんな面白いこと言えるタイプでもないですけど……。あ、そうだ。今羽切さんの話を聞いてる最中に、またいくつか前に聞いたりした話を思いだしたんですけど、良かったら話してみてもいいですか? 当時はまだ子どもだったから、結構一人で恐がってた記憶あるんですよね」


「ええ、もちろんです。怪談話ならどんなものでもいくらでも歓迎します」


 どれだけ恐い話が好きなのか、嬉々として頷く羽切に得意そうに頬を緩め、


「えっとですねぇ……それじゃあ最初は、山の中にある廃墟で起きた恐い話からしようと思います」


 浮かれた戸波が、次の怪談を喋りだした。

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