第十九話:御守りの音色
次のお話は、私の主人の姪が小学生の頃に体験したというお話です。
姪には、小学一年生の時に病気が原因で死別した母方のお爺さんがいたのですが、そのお爺さんは生前、姪のことを目に入れても痛くないと言わんばかりに可愛がっていたそうなんです。
そのお爺さんが亡くなる直前、形見に持っていなさいと古い御守りを姪へ渡しました。
デザインはシンプルで、赤い紐の先に魔除けと書かれた紙と金色の鈴が一つ付いているだけ。
控えめに言っても、女の子が喜ぶような見た目の物ではなかったのですが、姪もお爺さんへ懐いていたこともあり、また、子どもながらにお別れが近いことを悟っていたのでしょう、素直にそれを受け取るとランドセルへ付けて毎日学校へ通っていたそうです。
そして、姪が小学校五年生になって迎えた秋の夕方に、ある不思議なことが起きました。
ずっとランドセルに付け続けていた御守りが、家に帰ると失くなっている。
かなり古い物でしたから、紐が千切れてしまったか、誰かの悪戯で外されてしまったか。
どちらかであろうと考えながらも、自分にそんな嫌がらせをしてくる相手に心当たりはなかったし、紐が千切れて落ちたのなら、その際に鈴の音を聞いた覚えがないのも不思議で、紐を結んだ部分くらいはランドセルに残っていそうなものなのに……と腑に落ちない気分になったそうです。
それでも、失くなってしまったものはどうしようもない。
心の中でお爺さんへ謝り、姪はがっかりはしながらも仕方ないと割り切り、その時は諦めることにしたようなのですが。
それから数日後の日曜日、姪は家の茶の間で一人宿題をやりながらテレビを観ていると、突然どこか近くからチリン……チリン……と鈴の音が聞こえてきて、ハッとしながら音のする方向――窓の外へと顔を向けました。
この音、お爺ちゃんの御守りの音だ。
聞き慣れた音に戸惑いながら、姪はすぐさま外へ向かい、音のする方へと近づいていくと、どういうわけか家のすぐ横に生えていた百日紅の枝に、無くしたはずの御守りが絡まっているのを見つけた。
どうして、失くした御守りがこんな所に……。
風もないのに、チリン……チリン……と静かに揺れるその御守りへ近づき、姪がそっと手を伸ばし触れようとしたその刹那でした。
揺れていた御守りが突然ピタリと止まり、次の瞬間――すぐ背後で耳をつんざくような衝突音が響いたのです。
驚いて身を竦ませた姪が恐る恐る振り向くと、何やら家の様子がおかしい。
どうしたのかと玄関の方へ回り込み確認すると、姪の家は道路沿い、十字路の側に建てられていたのですが、その道路を走っていた車がハンドル操作を間違え家の中へと突っ込んできていたのです。
車は家の外壁を突き破り、つい数分前まで姪が宿題をしていた茶の間へ進入し動きを止めていました。
もし、あのままそこへ座っていたら、間違いなく車と衝突し身体を潰されていたはず。
近所の人たちが外へ出てきて騒ぎ始める声を聞きながら、姪はお爺さんの御守りが自分を外へ呼び出して助けてくれたのではと、そう直感していたそうです。
そんな惨事を体験して以降、姪は御守りをランドセルに付けるのをやめ、代わりに中へ入れて持ち歩くようになったそうです。
その方がまた失くなった時にわかりやすい。付けて歩いてたら、本当に失くしたかまた不思議なことが起きる前兆か区別がつき難くてややこしいから。
ということらしく、恐らく今も大切に持ち歩いているはずです。




