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怪談遊戯  作者: 雪鳴月彦
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第十六話:サンプルの電話

 これさ、おれの従兄(いとこ)から聞いた話なんだけどな。


 おれの従兄、今二十八なんだけど電化製品店の従業員をやってるんだ。


 それで、残業のせいで帰りが遅くなっちまって、結構遅い時間まで店にいた日があったらしいんだよ。


 で、さっさと仕事終わらせて帰りてぇなーとか考えながら、閉店後の人のいない売り場歩いてたら急に電話の音が聞こえてきたって言うんだ。


 電話も当然取り扱ってるから店に並んでるけど、今はもう全部電源も切ってあるから音が鳴るわけがないのに、どうしたんだ?


 不思議に思いながら固定電話を陳列してるコーナーまで確かめに行くと、一台だけ電気が通ってる状態でライトが点いてて、プルルルル、プルルルルって呼び出し音が鳴ってる。


 何だこれ? どうなってんだ? って首傾げて、従兄がその電話の受話器を掴んで眺めてたら、その受話器から何か声が聞こえてるのに気がついたらしいんだよ。


 普通に考えて、店に陳列してある電話がどこかと繋がるわけがない。


 どっかの誰かが間違い電話してきたり、従業員が何か急用があってかけてくるなんてことも絶対にできないから、従兄もすげぇ戸惑いながらその受話器を耳に当てたのな。


 そしたら……その受話器越しに六十代くらいのおっさんの低い声で、


「申し訳ない……駄目かもしれない。申し訳ない……申し訳ない……」


 って、意味不明な言葉が聞こえてきて慌てて受話器を元に戻したらしいんだけど、またすぐに呼び出し音が鳴りだして、従兄も気味悪くなってそのまま仕事の残りも切り上げて家に帰ったんだと。


 それで次の日、他に居残りしてた従業員に電話のこと訊いたら、誰もそんな音は聞いてないって言われたみたいでさ。


 それじゃあ、自分が聞いたあの音と電話の声は何だったんだろうって暫く不思議に思いながら仕事してたらしいんだけど、それから一ヶ月が過ぎた頃、その従兄のいた店、経営不振で潰れちまったって。


 従業員たちもギリギリまで何も知らされなくて、寝耳に水だったらしいぜ。


 それでな、後になってから従兄が気づいたらしいんだけど、あの時の電話の声、あれ一回だけ会ったことのあるその店の社長の声とそっくりだったような気がするって言うんだよ。


 ひょっとしたら、その社長の生霊みたいなのがさ、電話越しに会社の倒産を社員たちに謝ってたんじゃないかって、従兄は考えてるみたいだな。


 ま、そんなことが本当にあるのかはわかんねぇし、適当に考えた嘘かもしんねぇけどな。


 ただ、従兄が働いてた店が潰れたのはマジだから、絶対なかったとも言えねぇんだけど。


 その従兄さ、今も別の家電量販店に再就職して懲りずに仕事してんだよ。なんか懲りねぇって言うか、馬鹿だよな。

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