第十三話:おいでおいで
叔母が小学一年の夏に、実際に体験したと言っていた話。
八月の、お盆を直前に控えた夕暮れに、叔母は不思議なモノを見た。
時刻はおそらく六時を過ぎていたくらいで、空はオレンジ色に染まっていたという。
その空を、一人で家の庭から見上げていた叔母は、ふと視界の端に動くものがあることに気がつき、そちらへ視線を逸らした。
家から数十メートル程離れた場所に、竹林があったそうなのだが、その竹林の中から、白く細い腕だけが一本突き出し、叔母の方へおいでおいでとするように大きく揺れているのを見てしまった。
しかも、その腕は竹林の上方、地上から三、四メートルも離れた位置から突き出していて、到底人が立っていられるような高さとは考えられず、叔母は
どうしてあんな所でおいでおいでしてるんだろう?
と、不思議に思いながら暫くその腕を眺めていた。
「何してるの? 暗くなるから、そろそろ家に入りなさい」
ベランダへ出てきた祖母が声をかけてきたため、叔母が竹林を指差して
「誰かおいでおいでしてるよ?」
そう教えると、祖母はそちらを見た途端
「あんなもの相手したら駄目! 早くこっちに来なさい!」
と、突然今までに見せたことのない剣幕で怒鳴りだし、無理矢理叔母を家の中へと連れ戻したという。
叔母がその腕を見たのはそれっきりで、祖母もあれが誰の腕だったのか、亡くなるまで話してはくれず、結局未だわからないままだという。




