――幕間――
「――夢枕に、死んだ人が現れる。なんて言われたりもするようですが、こういうケースもそう言えるのでしょうか? ……一度死んでしまった人とは、もう二度と現世で会うことはできない。ですが、この話のように夢の中でだけでも再会でき、それが生き残った者へ何かしらの影響を与えることができるというのであれば、死の先にある未来にも少しは救いがもたらされるかもしれませんね」
小さく息を吐き出しながら、戸波の話を聞き終えた羽切が、どこか憂いを帯びた視線をテーブルへと落としながらそう呟いた。
「……羽切さんは、亡くなった旦那さんには会いたいって思いますか?」
気味の悪さや純粋な恐怖とは別の、哀愁にも似た沈黙が部屋の中を包みそうになるのをどことなく察知し、俺は無理矢理話を繋ぐための話題を捻りだす。
「主人にですか? どうですかね。記憶の中には常に一緒におりますし、亡くなったことも、今はそういう運命の元に生まれてきた結果だったのだと割り切っていますから。……でも、もしまた会うことがあるのなら、逆に主人が私を見て何と声をかけてくるのか。そちらの方が気になります」
ほんの一瞬だけ無表情に目を細めた後、とぼけるような仕草で小首を傾げそう言ってくると、羽切は「さて、次のお話をしましょうか」と話題を怪談へ戻し、戸波と渋沢へ期待を込めた眼差しを送った。
「他に皆さんから、お話できる怪談はありませんか?」
「うーん、何でも良いならあることはあるけど……」
「オレも、実体験はさすがにねぇからなぁ。……あ、じゃあガキの頃に親戚の叔母さんから聞かされた不気味な話するか。その叔母さん、子供ビビらせるのが趣味だったのかわかんねぇけど、家に来る度色々恐い話聞かせてくれてたんすよ。その中で覚えてるやつを、取りあえず三つくらいまとめて話してみますわ」
話すネタを吟味している戸波に代わり、渋沢が軽く手を挙げ次の番を申し出た。
親戚にそんな人がいたのかと少し以外に思いながら渋沢を見ていると、
「それじゃあ、何から話すかな」
暫時迷うように眉を顰めてから、渋沢は「まずは、人形の話からいくか」と一人納得したように小さく頷き、
「オレが幼稚園の頃に聞かされた話だけどよ――」
身を乗り出すようにしながら、静かに口を開き始めた。




