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怪談遊戯  作者: 雪鳴月彦
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第十話:母の紹介

 四年くらい前、家へ遊びに来たおばさんが話してくれたんだけど、そのおばさんって二十代の頃、スーパーでパートをしていたのね。


 それで、その時一緒に働いてた仲の良い先輩パートの女の人から、こんな話を聞かされたんだって。




 その人、当時既に四十代で、五歳になる子どもがいたらしいんだけど、晩婚だったんだって。


 結婚したのが、三十七の時で、旦那さんと出会ったのがその一年前って言ってたかな。


 三歳年下の、同じ会社だけど別の店舗で働いてた社員さん。


 その人と、年に一度開かれる会社の親睦会で知り合って、めでたくゴールインしたみたい。


 それでね、不思議なのがその出会い方らしいんだけど……その先輩の女の人、三十三歳の時にお母さんを病気で亡くしたらしいの。


 お父さんはもっと前に亡くなってて、それ以降は母娘の二人暮らしをしてたって。


 お母さん、三十を過ぎても彼氏ができる気配すらない娘のことをずっと気にしてて、生きてる時はよく「いい人、見つからないの?」って、訊いてきてたんだって。


 本人も、結婚に焦りはあったんだけど、なかなかきっかけとかがなかったみたいで。


 結局、お母さんを安心させてあげられないまま、死別しちゃったんだって。


 それから三年が過ぎて、その人が三十六歳になったある日、おかしな夢を見たの。


 それは、どこなのかわからない、きりがかかって真っ白な場所に佇んでて、周りを見渡しながら一人で心細くなってるっていう夢らしくて。


 そうして、途方に暮れながら立ち尽くしていたら、突然どこかから自分を呼ぶ声が聞こえてきて、それが亡くなったお母さんの声だって気がついたんだって。


 あ、お母さんの声だ! って思ってその人、声をする方へ歩いていったら、霧の中で自分を心配そうに見て立ってるお母さんを見つけて。


「あんた、こんな所で何してるの。そっちになんていたら駄目だから、ほら、こっちに来なさい」


 って、お母さん、その人の手を繋いでどこかに歩きだしたんだって。


 どこに行くんだろうって思いながら、されるがままについていくと、段々霧が晴れて、周りの景色が見えるようになってきて……そしたらそこ、どこかのパーティー会場だったって言うらしいんだよね。


 あれ? 外にいたような気がしてたのに、どうして建物の中にいるの? いつの間に入ったんだろう。建物の中にずっといたなら、霧なんてかかってるわけないし……。


 夢なんだから気にしても仕方ないんだけど、その人は自分が夢見てるなんて知らないから、そんなこと思いながら戸惑って、それでもまだお母さんに手を引かれて会場の中を進んでいったの。


 そしたら、たくさんあるテーブルの一つに近づいていって足を止めると、お母さんがおもむろに振り向いて、そのテーブルに座っていた男の人を手で示してきたんだって。


「この人、あなたのこと大切にしてくれるから、ちゃんと挨拶しなさい」


 って、急に言われて、戸惑いながらこんにちはって挨拶をして、それから趣味とか好きなお店とか色々話をさせられて、よくわかんないけど悪い男の人じゃないなって思ってたら、そこで目を覚ましたんだって。


 何だ、夢か。って思いながら起きて、夢とは言え、久しぶりにお母さんと会えたなぁ……なんて少しセンチメンタルな気分になりながら、また一人きりの暮らしを続けていたんだけど、その二ヶ月くらい後にその人、びっくりする出来事に遭遇したの。

 おばさんの勤めてたスーパーって、年に一度全店舗の従業員が任意で参加できる飲み会、まぁ親睦会があって、その人はそういう場が苦手だからって理由で毎年断ってたんだって。


 でも、その年はどういうわけか、何となく出席しなきゃいけないような強迫観念みたいなものに襲われて、参加するってことで申請したらしいの。


 ずっと出てなかったし、たまには付き合いで顔を出すのも大切かなって割り切って、当日会場へ向かってお酒を飲んだり出された料理を食べてたら、ふと視界の端に見覚えのある人が映り込んで、え? って驚いたの。


 それ、そこにいた人、夢の中でお母さんが紹介してきた男の人だったんだって。


 これはどういうことだろうって、呆然としながらその人のことをジッと見てたら、相手も気づいたらしくて、目が合うと軽く会釈をしながら近寄ってきて声をかけてきたって。



 そこからは夢で見たみたいに話が弾んで、気づいたら連絡先を交換するまでお互い示し合わせたみたいにとんとん拍子に進んじゃって、一年後には結婚しちゃったって。


 結婚してから、旦那になったその男の人に、どうして親睦会の時自分へ話しかけてきたのって訊いたら、男の人、「自分でもわかんないけど、見た瞬間声をかけなきゃってほとんど反射的に身体が動いてたんだよ。たぶんあれが一目惚れってやつなのかもな」なんて笑いながら答えたんだってさ。


 そのおばさんの先輩、絶対独身のままでいる自分を心配してお母さんが縁を運んできてくれたんだって信じてるみたいで、結婚してからずっと喧嘩もしたことがないまま良い夫婦生活を続けてるって。


 離婚とか別居とか、そんなことしちゃったら、お母さんを裏切っちゃうから。




 そんなこと言いながらその先輩、ニコニコ笑ってたわって……こんな不思議な話、教えてもらったんだよね。


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