――幕間――
「言われてみれば、確かにあるな。不自然に空いてる席。そういうの見かけた時って、ラッキーって思ってすぐ座る場合と何か別にいいやみたいな、理由は特にないけど座る気になれない場合があるんだよ」
お茶の中にある氷がカランと涼しげな音色を奏でるのを聞きながら、渋沢は羽切が語り終えたばかりの不思議な話にそんな相槌を返した。
怪談なのか、都市伝説なのか。
正直この二つに違いがあるのか、特に詳しいわけでもない俺にはわからないが、そんなことがあるわけないという気持ちと、本当にあったとしても信じてしまいそうだという、矛盾した感覚を生み出す話だなと、内心そう思った。
「理由はないけれど、何となく座りたくない。または、座りたいという気分になれない。そういう時は、素直に避けておいた方が無難かもしれませんよ」
薄い笑みを口元へ浮かべて、羽切は渋沢を見つめる。
「第六感、と言われている感覚でしょうね。人は無意識に危険を察知し、本能で避けることもあります。もしこの話が真実なら、きっとそういうことなのでしょう」
「あ……」
羽切の告げる言葉を聞いて、戸波が何かを思いだしたような顔をして呟きを漏らした。
「どうした?」
俺が訊くと、戸波は「そういえば……」と独り言のように言いながら、難しい表情を浮かべて視線を下に落とした。
「第六感って言えばさ、あたしの親戚のおばさんが昔変な夢を見たって人から話を聞いたことがあるって、教えてくれたことがあって」
「変な夢? 正夢とか、予知夢みたいな?」
「んー……ちょっと違うような。その話をしてくれたって人は、おばさんが働いてた職場の人らしいんだけど、その人、死んだお母さんに仲人みたいなことをしてもらったんだって」
意味がよくわからずに聞き返す俺へ、神妙な面持ちで目線を上げてきた戸波は、「何なら、これも話しておこうか」と言うと、チラリと他の二人にも目配せのような視線を送り、それからまた自分の手を見つめるように俯いて、その夢の話とやらを語り始めた。




