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怪談遊戯  作者: 雪鳴月彦
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第七話:峠のテケテケ

 次の話は、二十代後半の、ちょっとイケメンなお兄さんが教えてくれた体験談です。





 羽切さん、テケテケって妖怪聞いたことありますか?


 あれって、僕ずっと作り話だと思ってたんですけど、本当にいるんですよ。


 僕ドライブが趣味なんですけど、去年の九月に九州の方にある、夜景が綺麗だって噂の山へ遊びに行ったんです。


 と言っても、そこは峠道の途中にある車一台が停められる程度のパーキングから眺めることができる夜景なんですけどね。


 その部分だけ、うまい具合に木々がなく開けていて、眼下に町の夜景がはっきり見渡せるんですよ。


 地元民の間でもマイナーな場所なのか、本当に穴場で滅多に人が来ない場所で。


 たまたま友人からその場所教えてもらったものですから、じゃあたまには贅沢に有休でも申請して遊びに行こうってことで、三泊四日の予定で向かったわけです。


 車は現地でレンタカーを借りて、それでもう初日はお金の節約にもなるかと、車中泊するつもりでその峠道へ行ったんですけど、最初は別の観光スポットを回ったりしてたものですから、目的地に辿り着いたのが夜の十一時半くらいでしたかね。


 やっぱり隠れスポットというだけのことはあって、その日は天気も良いのに誰も夜景を見に来てる人はいなかったんです。


 こっちとしてはその方が好都合ですから、ゆっくり楽しめるしラッキーなんて思って、一人でぼんやり眼下に広がる景色を眺めていたんですけど……。


 十分も過ぎた頃でしたかね、周囲にはポツンと一つ、弱い光を落とす外灯があるだけで、他に人工物と呼べるのはパーキングの標識とガードレールくらいしかない場所なんですけど、急にペタッ……ペタッ……って、何て言うのかな、湿った手で床を叩くような変な音が響いてきたのがわかったんです。


 山ですし、周りは木々も多いですから、猿とか何か野生の動物が近くにいるのかもしれないと少し警戒しながら、こっちもジッと耳を澄ましてその音を聞いてたんです。


 そしたらその音、自分のいる場所に近づいてきてるみたいで、だんだん大きくなってきてるのがはっきりわかったんですね。


 それで、気味が悪いなとは思いつつも、こいつはいったい何だろうって気にもなりまして、そのまま立ち尽くした状態で様子を窺い続けていたんですけど……。


 自分が車を停めてるパーキングのすぐ側に、外灯があるって言ったじゃないですか?


 外灯の頼りない明かりが、ぼんやり車と自分の周りを照らしていたんですけど、暫くして、その光の届いてる範囲に、音の正体が姿を見せたんです。


 そいつね……男なんですよ。


 顔が擦り剝けて血が滲んでて、着てる黒っぽい服も擦り切れてボロボロで。


 一瞬、バイク乗りが単独事故でも起こして、それで自分を見つけて助け求めに来たのかなって思って、駆け寄りそうになったんですけど。


 すぐに、踏みとどまりました。


 だってそいつ、下半身がなかったんですよ?


 赤黒いロープみたいな内臓が飛び出た上半身引きずりながら、すごい濁ったような目でこっち見上げて、一直線に近づいてきてるもんですから、慌てて車の中逃げようとしたんですけど、手がもたついて鍵落としちゃって。


 もう頭はパニックですから、そのまま車の屋根に上っちゃったんですよね。


 そしたらそいつ、何て言うのかな……赤ん坊が壁に掴まって立とうとするみたいに、車を利用して身体を起こして、必死に僕の方へ手を伸ばしてくるからもう身動きも取れなくて。


 とてもじゃないけど、恐くて身動きなんか取れないし、そのまま車の上で頭抱えるようにして耐えていたら、十五分くらいは過ぎてたかな……ちょっと定かではないんですけど、カーブの向こうから車のエンジン音が聞こえてきて、ライトの明かりが射したんですよ。


 人が来た! と思って、カーブの先から車が姿みせたと同時に、がむしゃらに両手を振って助けを求めたんです。


 車の運転手もすぐ僕に気づいて減速しながら窓を開けて、どうしたんだって声かけてくれたんで、下にいる奴に襲われそうになってるって訴えたんですけど、その人、不思議そうに周りをキョロキョロしてから誰もいないぞって言うんですね。


 それで僕も、え? ってなりながら車の周囲を確かめたんですけど、上半身の男、いつの間にか消えていなくなってたんです。


 恐いから、車の下に誰か隠れてないかって頼んで確認してもらっても何もいなくて、結局僕が変な奴扱いされてしまったんですけどね。


 その後は僕もすぐに車へ乗り込んで、急いで峠を下りました。


 独り暮らしですから、その日はもう部屋へ戻るのも恐くて、二十四時間営業のファミレスで夜が明けるまで過ごしていました。


 あの男が何者だったのか、僕には未だにわかりませんが、夢や幻なんかじゃないことだけは確かです。

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