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怪談遊戯  作者: 雪鳴月彦
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第六話:首無し地蔵

 これね、おれが三十……六だったかな。そんくらいの時に、本当に体験した話なんだよ。


 バイク仲間の間じゃ、信じる奴と疑う奴が半々くらいかな。


 でも、マジに体験した。


 その日は、晩秋に差しかかった週末の夜でさ。


 冬になって雪が降ると、場所によっては規制がかかったりして峠道走るのも難しくなるから、その前に走れるだけ走ってやろうと思って、毎週金曜と土曜の夜は雨でも降らない限り、大抵峠道を走ってばかりいたんだよ。


 んで、土曜の夜だったな。


 次の日も仕事が休みだから余裕あるしってことで、一人でさ、日付変わるくらいの時間まであちこちバイク走らせて遊んでたわけ。


 そんで、夜中の十二時半くらいになった頃だったかなぁ。


 そろそろ帰るかと思ったんだけど、最後にもう一ヶ所別の道走りながら帰るのも良いなって考えてさ、普段あんまり通らないルートを選んで帰路についたんだよ。


 で、そこってかなりカーブが多くて道もそんな広くないから、夜中なんてほっとんど利用する人がいない場所なの。


 で、その道走って帰ってたらさ、峠のてっぺん近くまで来た辺りに急なカーブがあって、そこを曲がってすぐの路肩にね、人が(うつぶ)せになって倒れてるのが見えて、おれびっくりして慌ててブレーキ踏んだわけよ。


 それから一度バイク停めて、恐る恐るその人がいた場所まで戻ったらさ、どういうわけか、何にもなくなってて。


 あれ、おかしいな。今確かにここに人がいたのにって思って、一応周辺も確認したけど、やっぱりいないんだよ。


 だから、気のせいだっかなぁって無理矢理納得してまたバイク乗って発進したんだけど、五分くらい走ったらまた急カーブがあって、そこ曲がった瞬間……路肩にさっき見たばかりの人が同じように倒れてるの見えてさぁ。


 しかもそのとき、おれはっきり見ちゃったんだよ。


 その倒れてる人、首から上なかったの。


 色は灰色っぽいボロ布みたいな服着てて、その胸元、真っ赤になってて。


 さすがに何かおかしいぞこれって思って、もう二回目は確かめには行けなかったな。


 もう無我夢中で前だけ見て、バイクすっ飛ばして逃げるように家帰ってさ、その日はもう酒も飲む気になれなかったから、そのまま部屋の電気点けてほとんど眠れないまま朝まで過ごしたよ。


 でも、人間って馬鹿って言うのか不思議と言うのか、あれは結局なんだったんだろうってどうしても気になっちまうんだよな。


 万が一本物の死体だったら、事件ってことだろ?


 それを無視して逃げ帰って、後々疑われたりするんじゃないか、最悪誤認逮捕とかされちまったらどうしようとか、もう頭ん中で不安がぐるぐる渦巻くわけよ。


 それでどうしてもちゃんと確かめたくなって、明るくなるの待ってから今度は友人連れて確認に行ったわけ。事情は伏せてね。


 そしたらさ、やっぱりどこにも無いんだよ。死体も、血痕とかそれらしい跡も。


 しかも、おれは二回急カーブの先にその死体を見たはずなのに、その場所……急カーブ自体が一ヵ所しかなかったんだよな。


 じゃあおれ、あのとき二回目はどこのカーブを曲がってたんだって余計恐くなって。


 やっぱりあの時、おれは何か得体の知れないモノを見ちまってたのかもしれねぇなって、そんなこと考えて薄気味悪い気分になってたらさ、友人がな、「おい、カーブのとこ、ガードレールの向こうに何かあるぜ」って指差すんだよ。


 それで、何のことだと思いながら近づいてひょいっと覗いたら……そこにさ、たぶん悪戯か不法投棄かでどこかから持ってきたんだろうな。


 首の無いお地蔵さんが一体、捨てられてたんだよ。


 かなり前からそこにあるのか、もう身に付けてる……なんつーのかわかんねぇけど、涎掛(よだれか)けみたいなやつとかもボロボロで汚れも酷くて。


 それ見た瞬間、おれハッとしてさ。


 昨夜見た首無し死体も、服ボロボロでこんな感じだったなって。


 あれ、ひょっとしたらあのお地蔵さんが自分のことに気づいてほしくて、それでおれに姿見せたのかな? って思ったんだ。


 お寺とか持っていって供養してやれば良かったのかもしんねぇけど、おれそういうの全然詳しくねぇからさ。


 結局そのお地蔵さん、そのままにして帰ってきて……未だ何もしてないんだわ。


 たぶん、今もあそこで誰かを待ってんのかもしれねぇなぁ。

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