純也先輩とのデート
今日は純也先輩の生徒会の仕事もなく、一緒に帰っていた。私の家に着きお礼をしたあと家に入ろうとすると、先輩に呼び止められた。
「小夏、日曜日デートしない?」
「デート? どこか行きたい所あるんですか?」
私の人生に『デート』という文字が出てくるなんて思ってなかった私は、一瞬、的外れなことを聞いてしまった。
「行きたい所っていうか、小夏とデートしたいだけ。ダメかな?」
「いえ! 全然大丈夫です! 行きましょう」
日曜日のデートの約束をした私は、急いで自分の部屋まで行き勢いよくクローゼットを開けた。
「何を着ていこう」
掛けられている洋服達をじっくりと見定めていく。目に入ったのは、買っといて一度も着たことがないお洒落なワンピース。一度手に取り鏡の前で合わせた。
「ーーワンピースは気合入れすぎな気もする」
ワンピースを着ている自分を想像して恥ずかしくなりクローゼットに戻した。
ーーピコンッ
着ていく洋服に永遠と迷っていると、緑色のアプリが携帯画面に表示された。
メッセージ先は純也先輩からだった。
ーー水族館に行こうか考えてるんだけどどうかな?
ーー良いですね! 分かりました!
先輩からうさぎの『了解』スタンプが送られ、可愛い一面にクスリと笑った。
♢
結局選んだのは、白のロゴシャツにデニムパンツのコーデ。そこに大人っぽさをプラスして、ベージュ系のカーディガンを合わせた。
いつもポニーテールに毛先を巻いた髪型をしていたが、今日は髪を下ろし毛先を緩めに巻いた。
待ち合わせ時刻になり家を出ると、家の前に黒の高級車が目の前で止まっていた。
迎えに行くと言われていたが、まさか車で来るとは思いもしなかった。
ビックリして立ち止まっていると、後部座席から純也先輩が降りてきた。
先輩の服装は、黒のコットンジャケットの下にボーダーシャツを着て、スキニーパンツを履いた爽やかな服装だった。制服の時よりスタイルの良さも目立ち似合っていた。
「今日の服装とても可愛いね。その髪型も似合ってるよ」
一段と柔らかい口調でストレートに褒めてくれる純也先輩に、私は顔を赤らめ照れてしまう。
「あっ…ありがとうございます」
『さぁ乗って』とエスコートされ中に入ると、茶ノ屋十郎さんが運転席のミラー越しにペコリと頭を下げた。私もお礼を言いながら頭を下げる。
♢
車の中はとても穏やかな時間で、先輩と楽しく喋っているうちにいつの間にか目的地についた。
開けた後部座席のドアを支え、王子様みたいな笑顔でスマートに手を差し出された。
「どうぞ」
「……ありがとうございます」
エスコートされる自分はお姫様にでもなった気分だった。お姫様扱いされるならワンピースでも着てこれば良かったと、夢のような扱いに楽しんでいる自分がいる。
「まずはお昼食べよっか! なに食べたい?」
腕時計の時刻をチラッと確認し、検索しようと携帯を開いた。
「そうですね〜。ーーパスタが食べたいです」
「パスタならーーあっ、食べた後に行く予定だった水族館の中にもあるよ!」
近くにあるパスタ屋を検索した先輩は、私に画像を見せる。そこには、透明のガラス張りが全面に広がり、泳いでいる魚を見ながらパスタを食べられるお洒落なお店になっていた。
「水族館の中で食べられるんですか!? 早く行きましょう!!」
どんな感じか早く見てみたい私は、無意識に先輩の手をとり早足で歩き出した。
♢
水族館に着いて気づいたが、先輩の手を握ってしまっていた。いつ離したらいいかタイミングが掴めないまま先輩と水族館の中へと入っていく。
手に意識が集中して楽しめないんじゃないかと心配していたが、泳いでいる魚達に一瞬で目を奪われ、そんなことはどうでも良くなってしまった。
「わぁ〜! 美しすぎる!」
私は子供のように目をキラキラさせながら先輩を見ると、先輩も同じように目を輝かせていた。
「すごいね……初めて来たよ」
「え? そうなんですか?」
デートスポットになりそうな水族館に始めてきたなんて信じられない。偏見だが、先輩なら何十回も色んな女の人と行ってそうだ。
「小学五年から中三まで海外にいて、高校から日本に戻ってきたんだ」
気持ちよさそうに動いている魚を、目で追いかけながら先輩は答えた。私も先輩から目を離し、顔のようになっているエイの裏をガラス越しに触れながら会話を続けた。
「帰国子女だったんですね。ーーまぁ私も日本にいながらも、水族館って行ったことないんですけど」
すぐにエイがどっか行ってしまったので、先輩の方へと向き軽く笑った。すると、先輩も魚から目を離し私と目を合わせ微笑んだ。
ーーーーー
まだ大きな水槽の前でお魚を見ていたかったが、さすがにお腹の限界でお目当ての店へと入った。すぐに店員がやってきて、泳いでいる姿が真横からよく見える席に案内された。
メニュー表を見て私はカルボナーラ、先輩はミートスパゲッティを頼んだ。
「待たせ致しました。こちらがカルボナーラとーーミートスパゲッティで御座います」
早く食べたくてウズウズしながら、降ろしていた髪をアップにし手を合わせる。パスタをフォークに巻きつけ大きな一口で食べた。
「ーーお、美味しい〜! 濃厚なクリームがパスタにたっぷりと絡んで、分厚いベーコンが更にカルボナーラを美味しくさせてます!」
「ーーハハッ 食レポ上手すぎ」
先輩は、こぼれるような笑い声を上げ、あどけない表情を見せてくれた。
「え? ーーあっ、無意識でした」
私の頬が赤らむのが分かり隠すように手を当てると、先輩は優しく微笑む。
「いいと思うよ。おれは好きだな 小夏と食べるの毎回楽しそう」
私でも気づかなかった変な癖を、優しく受け止めてくれたことが嬉しくて先輩の好感度がどんどん上がっていく。
その後も食べながら、頭の上にサメが泳いでいることに感動したり、小さい魚が横で可愛く泳いでいる姿を見て二人で楽しみながら食べた。
「じゃあ行こっか! ーーはい」
「よろしくお願いします」
席を立つと手を繋げるよう手を差し出され、お腹いっぱいで気分のいい私は素直に手を繋いだ。
♢
クラゲコーナーやペンギンコーナーを回るが、私の足を気遣ってか、適度に休みながら回ってくれた。
一番感動したのはイルカショー。夕陽をバックにイルカが高く飛び上がる姿は、絵にすれば賞でも取れるんじゃないかと思うほど、とても綺麗だった。
存分に見て周り室内を出る。
十郎さんの迎えが来るまでベンチで座って待っていた。
「楽しかったね〜」
「はい! とても楽しかったです。連れてきてくれてありがとうございました!」
まだ興奮が冷め切らない私達は、あれが良かった。これが凄かったなど話が盛り上がり余韻を楽しんでいた。
「次のデートはどこに行こうか」
先輩に自然と次のデートを聞かれるが、私は気づかず当たり前のように行きたい場所を考えた。
「う〜ん。ーー遊園地ですかね?」
「じゃあーーはい! 約束ね」
右手の小指を立てる先輩。その小指と私の小指を重ねると赤い糸が絡まるように繋がった。
「約束…」
何故だろう。この光景が遠い昔にどこかであったような気がする。誰かと指切りした記憶をなんとなく思い出した。
ーーーーー
「今日はありがとうございました」
家に着いた頃には外も薄暗く、玄関の明かりに照らされながら先輩にお礼を述べた。
「小夏の可愛い笑顔が沢山見れて良かった」
照れもせず平然と私の目を見て言う先輩に耐えられず、恥ずかしくて困ってしまった。
「あ、あのストレートすぎませんか? 慣れてなくて恥ずかしいです……」
真っ赤になった顔を肩にかけていたバックで隠しモジモジしている私に、一瞬キョトンとしたが、徐々に理解した先輩は慌てて謝った。
「ーーえ? あ、ごめん! 無意識だった」
無意識。女に慣れているんじゃなくてただの天然タラシだったなんて。その無意識に、私は何回顔を赤らめただろうか。
先輩は車に乗り、私は車が見えなくなるまで小さく手を振った。
とても楽しかった。穏やかな時間過ごせてお魚にも癒されたし、先輩も優しくて楽しいデートだった。
デートってこんなに楽しいものだったんだ。
そりゃ皆行きたがるわけだと一人で納得した。
ベットの中で、今日のデートを思い出しながらゆっくりと目を閉じた。