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運命の赤い糸  作者: 高美
運命の赤い糸〜小夏の場合〜
3/23

話し合い

 私の家を通り過ぎ少し歩いていくと、一つだけドンと立派に建っている和風住宅の大豪邸に着いた。

 周りもなかなかの立派な一軒家ばかりだが、この家は規格外だった。


ーーーここ純也先輩の家だったんだ。


 小さい頃からこの立派な家は認識していた。通るたんびに誰が住んでいるんだろうと疑問に思っていたが、まさか純也先輩の家だなんて思いもしなかった。

 私の隣に立っている不良も大きな大豪邸を初めて見たのか、口をポカンと開けてボーっと眺めていた。


 上を見上げてしまうほどの、大きな門の前に立っていると、ゆっくりと自動で開いていく。純也先輩はいつもの様に中へ入り、私たちも慌ててついて行った。



 

 

 玄関を開けると、灰色の和服がよく似合う黒髪と白髪が程よく混ざった中年男性が、優しく微笑みながらゆっくりとお辞儀をした。


「ーーお帰りなさい」


 『ただいま』と言うと、純也先輩は私達の方へと向き、和服姿の男性を紹介した。


「この人は、おれが小さい時から側でお世話してもらってる十郎さん」


「初めまして、茶ノ屋十郎と申します。どうぞ宜しくお願い致します」


 旅館でしか見たことない丁寧なお辞儀に、私も不良も釣られて深々と頭を下げた。







「お飲み物お持ち致しますので少々お待ち下さい」


 茶ノ屋十郎さんに客室を案内され座って待っているが、非日常空間に落ち着かずあたりを見回す。一番最初に目に入ってきたのは学校のプールぐらいある大きな池だった。その池を囲むように、綺麗に手入れされている丸く切った短めの植木や、庭石が植え付けられていた。


 すぐに茶ノ屋十郎さんは、麦茶が入ったグラスを三つ置いた木目調の角型おぼんを持ちながら入ってきた。

 テーブルを挟んで目の前に座っている不良と純也先輩に、水色の模様が描かれている透明のグラスを置く。

 私の方にも同じグラスを置くと、なにか言いたそうに目で訴えられるが、すぐににっこりと微笑まれ、私も反射的に微笑み返した。

 何か言ってくるかと思いきや、微笑むだけですぐに客室から出て行った。

 頭に『?』を浮かべながら見届けると、今まで黙っていた純也先輩が口を開き、不良と私は目を向ける。

 

「さて小夏、もう一度聞くよ。おれとこの不良が君と赤い糸で繋がってるのは本当かな?」


『不良じゃねー、龍生だ』なんて割り込むが私達は聞き流す。

 私は意を決して二人に目線を移すが、その時は一瞬で、私の目線は目の前のグラスに逆戻りし声と顔を強張らせる。


「その通りです。私の両手には赤い糸が繋がっていて、右手には純也先輩、左手には龍生さんの赤い糸が繋がっているんです」


 仕方なく不良から龍生さんと呼び方を変え、目線はグラスのまま両手だけを二人に見せると龍生さんは私の両手をまじまじと見る。


「俺にもお前にも見えるし、言ってることは本当なんだろうな」


 私の両手から、純也先輩に目線を移し喋りかけるが、純也先輩は私の両手を穴が開く様にジーッと見つめたまま返事を返した。


「そうだね。信じたくないけど」


 ずっと見られたままの両手が居心地を悪くし、無意識に手を下ろす。私はやっと二人に目線を移し、さっきから薄々気になっていたことを聞いた。


「あのー、お二人はお知り合いですか?」


 私の質問に龍生さんは、親指を純也先輩に向け優しく答えてくれた。


「こいつとは、同じクラスだ。ただそれだけで仲良くはない」


「小夏。今はそんな話してる場合じゃないよ」


 向けられた親指を払いながら優しく諭され、照れながら軽く頭を下げた。


「ーーすみません」


「小夏はどっちを選ぶの?」


 家に行くまでに予想はしていた事だが、思ったよりも純也先輩は真剣な表情で本題を切り出し、思わず息をのむ。

 すると、テーブルの上から急に片手が現れ、龍生さんの慌てた声が響いた。


「待て! それはずりーよ! お前が先に出逢ってるんだから、お前を選ぶに決まってんだろ!」


「じゃあ問題ないじゃないか。ね、小夏」


 取り乱す龍生さんとは違い、純也先輩は落ち着いた声で私に同意を求めた。

 龍生さんの鋭い目線を強く感じながらも正直に答える。


「まぁ、はい。不良は好きじゃないですし」


「だって。じゃあ帰ってくれるかな? 不良くん」


 私の答えに気分を良くしたのか、テーブルに肘を置き顔を支えながら嬉しそうにドヤ顔を決めた。その姿を見た龍生さんは、眉をピクッと動かし被っていた帽子を外した。金髪の頭をガシガシ掻きながら決意した目で私を見つめる。


「ーー分かった! 俺、今日から不良やめる! だからもう少し俺を見てくれ! ーーな! それから決めよう!」


「どうする? 断ってもいいんだよ?」


 必死に訴える龍生さんを横目で見ながら純也先輩は余裕のある笑顔で私に聞いた。龍生さんには悪いなと思いながらも首を横に振る。


「断ります。すみません」


「はえ〜よ〜! 少しは考えてくれよ〜」


 考えるふりもしなかった私を見て、力が抜けたように項垂れるとテーブルにおでこを擦り付けた。


 考えるも何も不良はムリだ。この二人を自由に選べるなら、迷わず真面目な純也先輩の所にいく。


 でもなんで私だけ二つの赤い糸が繋がっているんだろう。答えを出せないまま話し合いは終わってしまった。

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