修羅場...?
学校の帰り、凛と美月と反対方向だった私は、脳内で流れている流行りの曲を鼻歌で歌いながら一人で歩いていた。
すると、少し先にある曲がり角からピアスをジャラジャラと付け、派手な格好をした男二人が笑い合って曲がってくる。
思わず目を逸らし、ぶつからないよう電柱の側で立ち止まると、一人の赤髪の男が私に気づきニヤニヤしながら近づいてきた。
「あれ? 可愛い子がいるね〜」
「何処の高校かな? 遊ぼーよ」
赤髪の男と金髪メッシュの男に囲まれ、初めて不良に絡まれたことで恐怖心が段々と湧き起こるが小さく呟いた。
「すみません。退いてもらえますか?」
「いいじゃ〜ん! カラオケでも行く?」
私の願いを赤髪の男が大きい声でひと蹴りし、私はもうどうすることも出来ず、ただただ目を閉じて縮こまった。
すると、すぐに右側から別の声が聞こえてきた。
「ーーはい、どーーーん」
「ぐえっっ」
痛そうな呻き声が聞こえ、ゆっくりと目を開けると赤髪の男が脇腹を抱え痛そうにうずくまっていた。
「ーー誰だてめぇ!! ーーりゅ、龍生さん!?」
金髪のメッシュが男を睨むと、すぐに怯えた目に変わり後退りをした。金髪のメッシュの目線の先に私も目を移すと、そこには黒い無地のパーカーに白の帽子を被っている不良がいた。帽子の下から金髪が短く見えていて、パーカーのポケットに両手を突っ込んだ状態で立っている。
その男は、帽子を片手でクイっと上げると二人を睨み、威圧感のある声で二人をひと蹴りした。
「邪魔だ」
「「す、す、すいませんでしたー!!!」」
二人は怯えた声で言葉をシンクロさせ、そそくさと逃げていく。私は助けてくれた第三の不良に怯えながらも、そこは礼儀として頭を下げた。
「助けてくれてありがとうございまーー」
頭を上げようとした時、男の左小指に赤い糸が見え、血の気が引いた。
恐る恐る自分の手をチラッと見ると案の定、私の小指と繋がっていたのだ。
だが、私は見て見ぬ振りをし家に帰ろうと歩き出すと、肩を掴まれ阻止される。
「待て待て待て。お前見えてないのか?」
「……なんのことでしょうか」
私は嘘がバレないよう真顔で知らない振りを続けた。それでもこの不良は諦めず、私に見えるように小指を立てた。
「ほら、糸だよ」
チラッと目だけを小指に移すと、やっぱり赤い糸が私の小指と繋がっていた。
ーーうわっ! ガッツリ繋がってる!!
心の中では大パニックになっているが、表情には出さずにもう一度頭を下げた。
「いえ、私にはなにも」
「おい、嘘つくのはなしだろ」
嘘を突き通す私に、苛立ちを含んだ低い声で手首を掴まれた。
面倒くさい事になると目に見えていた私は、早く帰りたい欲が強くなり反抗的になった。
「離してください!」
掴まれている左手首とは反対の手で不良の胸板を押していると、不機嫌さを隠しきれていない声が不良のすぐ後ろから聞こえてきた。
「おれの彼女に何か用かな?」
「ーー純也先輩!」
不良越しから前を見ると、学校帰りの純也先輩が、眉をピクピクさせ笑顔を保ったまま不良の肩を強く握っている。不良はすぐに肩を退かし、二人は静かに火花を散らせ睨み合った。
「は? 彼女ってなんだよ。お前赤い糸って知ってるか?」
「もちろん。おれたちは赤い糸で繋がってる運命同士なんだからね」
純也先輩は余裕の表情でにっこりと笑うが、不良は目を丸くした。
「……俺もこの女と赤い糸で繋がってるぞ」
ーーあぁ、言っちゃったよ〜! どうしよう!
頭を抱えている私が脳内で騒がしくしていると、純也先輩は不良に向かって目を細め怪しい笑みを浮かべた。
「へぇ〜……君がか」
「ーーいや! 純也先輩! 違うんです!」
何故か浮気がバレて修羅場になってしまった女かのように、汗をかく思いで腕を上下に降り言い訳しようとするが、不良はすぐに正論を言った。
「違くねーだろ。ちゃんと赤い糸で繋がってるじゃねーか」
そう言って不良は私に肩を組んでくっついてくるが、すぐさま純也先輩に腕を剥がされ私の手を握る。
「小夏、ちょっとおれの家に行こっか! 龍生も一緒にね」
私に笑顔を向け、不良には冷たい目を向けた。私は逆らえず頷くと、純也先輩は家へと歩き出し私と不良も後ろからついて行った。
私の高校生活大波乱の予感です…