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メキラとハイラ

「メキラさま、バサラさまがあなたさまのご助力を賜りたいと仰っております。裏切り者が出たもようで」

 インダラが頭を軽く下げる。目の前にいる異様な姿は何百年経っても見慣れることは無い。目が三つ、鼻が三つ、口も三つ。どこまでも三つが好きなのか、腕も三本で足も三本。他にも三つのところがあるのかは知らないが、とにかく近親婚の弊害が外見に現われているいい例だろう。

 その障害でさえ神だと言われてる身では神々しいと崇拝される。ただの人であれば障害者と見られ、神ならばその姿は畏敬の対象になる。

 神が神であるために人はある。神は人の居ない世界では存在できない。インダラは尊大に頷くメキラを眺めながらそう思った。

「バサラめ、いつも私に偉そうに指図するくせに。やっと私の強さに気づいたんだな」

 満足そうにメキラは笑った。

 この国に何百年も生まれなかった子どもを自分が授かった。新しい時代を作る子どもの親になった自分がこの世界を牛耳ることはもう確定的なことだ。

 一番年下のバサラに大きな顔をされることにはうんざりだった。ここで裏切り者を始末してやって大きな貸しを作ってやるのも悪くないとメキラは思う。

「どこにいるのだ、その裏切り者は」

「こちらです、メキラさま」

 龍印を解したサンテラの力がいかほどのものか、インダラにしても大いに興味がある。主を害することがあれば、自分も戦う必要があるからだ。

 ここはゆっくり見せてもらおう。きっと主からしつこく聞かれるだろうしとインダラは思った。

 床を這ってこちらに向かってくる黒い蛇にインダラが手を伸ばすと蛇はインダラの手を伝いながら耳元まで登っていく。

「裏切り者はあちらのようです」

 そう言って蛇の頭をなでる。するとそれは紙くずの燃え滓ように消えた。

「おまえの術は気味悪いものばかりだな」

 メキラの言葉にインダラは「申し訳ありません」と笑いながら言った。

「どうした?」

「いえ、何も」

 あなたは存在が気味悪いんですよと小さく言ったのは聞こえて無かったらしい。






 


「ハイラさま、よろしいですか」

 一方、メイファが入った部屋の大きな卓について大きな肉をかぶりついているのは一族で唯一の女性、ハイラだった。

 首が太く筋肉が盛り上がっている逞しい背中。剥き出しになっている腕もごつくて一般の女性の足くらいある。

 ハオタイの女性用の服を着ているし、彼女は女性であることは間違いない。それでも屈強な兵士が余興で女装したように見える姿にメイファは思わず舌を出した。

 どれをとっても鍛え抜かれた剣闘士のようであるのに突き出した腹がそれを裏切っている。

 彼女は妊婦なのだ。五百年前にもう一人の女性だったバサラとカルラの母親アニラが亡くなり、女性になるはずだったカルラが死んだ。

 残された女性がハイラだけのために、他の者たちもなかなか彼女と子どもをつくる気にならなかった。バサラなどは見るのも嫌だと言っていたぐらいで。

 そこに今回メキラがその重い腰を上げ、その勇敢な挑戦が功を奏し妊娠しにくいはずの彼らに子どもが授かったのだ。

 いつでも挑戦する者に天は優しい。

「主が一族のために母になられるハイラさまに贈り物を差し上げたいと申しております」

「バサラが?」

 脂ぎった手の指をねぶりながらハイラがにまりと笑った。自分を顧みずというか、ハイラは美しいものを好む。彼女も本当ならバサラとの間に子が欲しかったのだ。しかし、バサラときたらなんだかんだと逃げ回って結局一回も彼女を寝所に呼ぶことは無かった。

 しかし、ベオークの一族は誰もが自己愛が強い。自分の血を残したいと切望しているはず。同族としか子孫を残せない質の一族である中、今はハイラしか子どもを孕むことはできない。

 やっとバサラもそれに気づいて秋波を送ってきたのかもしれないとハイラは思う。

 子どもはできないと半分あきらめていたところにハイラの妊娠を知ったのだとしたら。

 妊娠し易いということならバサラは自分を寝所に呼ぶかもしれない。仲直りをしようと声をかけてきたのならここは今までの遺恨を忘れてやる度量を見せてやってもいい。

「バサラが是非にというなら仕方ないわ。案内しなさいな」

 卓に敷いていた凝った刺繍を施した布で油のついた手を拭うとハイラは立ち上がり、控えていた主人にそっくりな大柄なしもべが扉を開く。

「ありがたく存じ上げます、ハイラさま」

 浅く頭を下げるとメイファは小さく呟く。

「ったく気持ち悪い女だぜ、あれでバサラさまと寝ようなんてお笑いだ」

「何か言った?」

「いいえ」とメイファはふわりと笑う。ハイラだけを部屋に入れたところでこのしもべは外で食い殺してやるとしもべを目だけで追った。

 肉は固そうだし、筋も多そうだがこの巨躯だ。食べではあるだろう。いや、内臓だけにしとく方がいいかもしれない。血の気が多そうで喉が鳴るとメイファは舌舐めずりをした。

 産み月が近づいてハイラの食欲はますます旺盛でそのお腹には何人入っているのかと揶揄したくなるほど大きくなっていた。

「贈り物って何かしら」

「ハイラさまがお好きなものだと主は言っておられましたよ」

 メイファの返事にハイラの口が興奮でまくれあがる。

「子どもね、ああ……きっとそうだわ」

 自分がもうすぐ親になるというのに、この女は人の子どもを食べようと言うのだ。魔獣より、獣らしいとメイファは声を出さずに笑った。


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