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運命の槍

「ランケイ、君は弟がもう生きていなかったとしたらどうするの?」

 クロードの問いかけにすぐに反応できない。

 その可能性の方が高いのは分かっていた。子どもを食糧として捕獲するのなら、もう弟はハイラ神の腹の中だと。

 だけど、弟を助ける――そう思わないと生きていられない。自分が置かれた何もかもを忘れてしまうために。そのために弟の救出に必死になっている。

 つまり、自分のためだと。

 認めてしまうともう前に進めない。

 鬱々としている自分に比べて淡々と物事を進めていくクロードが憎らしく思えてくる。ためらいとか、躊躇するとか。そんな片鱗の一つ見せないで自分の思った通りに事を進めていける技量と境遇にさえ、嫉妬する。

 だから素直になれないのだとランケイは声を荒げてしまう。

「そんな事クロードには関係ないでしょ。あんたこそ、ベオークに行った後どうするつもりなのよ」

 ランケイが言い返すとクロードはだよなあと笑う。

「考えて無かった」

「考えてない?」

 うんと十四歳くらいの見かけどおりにクロードは頷く。

 アーリア人特有の抜けるような白い顔にピンク色の粉を刷毛で一つはたいたような顔色。本物の銀も負けるのではないかと思うくらいのシルバーブロンドの髪。大きいアーモンドの形の藍色の瞳。通った細い鼻、ほんのりと赤い唇。

 女の子と男の子の間の危うい均衡。この歳くらいの少年しか持てない色香がクロードにはある。いっそ儚いと表現したほうがいいと思える可憐な少年。

 だが、これに騙されてはいけない。

 内面は恐ろしく策略家で冷静で骨太なのだ。

 見せかけに騙されると痛い目に合う。どう見ても十代初めくらいの容貌なのに実際は自分と同じ十七歳なのだ。だが、これも本当かどうかなど分からない。

 もしかしたら、中身は恐ろしいほどの老人かもしれない。魔導師には分からないことが多すぎる。

「おれは破壊者だからね。おれが行くところ、行くところぶっ壊していく。だから帰るところすら無くなっているのかもしれない」

「破壊者?」

 自分はもしかして人では無かったのかもしれないとクロードは思う。なんかの拍子に感情を持ってしまった厄災。何をしようとしても結局は壊してしまう方を選ぶ。もとより、ベオークを潰して生き残れる保証などどこにもないのだ。これこそが自分が産まれてきた役目なのかもしれない。力を持ちすぎたものへの神の怒り。

 それがおれ、おれの正体。

 神の下す怒りの『運命の槍』、おれの役目はそれなのかもしれない。そうであったなら、その後におれは生きているわけはない。

 そうじゃないとしたって。

 何百年も生きている者たちの悲哀を知って、歳を重ねていけない悲しみの一端を知ったおれはただの人には戻れない。

「奪った者たちの元におれも行くのが一番いいと思う」

「それってどこ?」

「どこだろう、行ってみなきゃ分からないだろうな」

 黄泉の国、あるのか、どうか。本当はどうなのか、誰も知らない。肉体が朽ちればそれでお終い。土地を構成する塵芥に戻るだけ。

 そうなのかもしれない。

「お姫さまに上手く化けてよ、ランケイ」

「できるかしら、あたしに」

「外見ならたぶん」

 煩いと茶碗を投げてきたのを笑いながら避けてみせてクロードはランケイの手を取った。

「君は幸せになる権利がある。失うものばかりじゃないさ、きっと」

「失うって」

 何も言わなくてもそれがなんなのか、分かっていたが口に出せない。文句を言いたいのに声が出なかった。

「いつ出発するの?」

「アウントゥエンが帰ってきたら分かる」

 クロードが計っているのは、楼蘭族の族長一行がキータイに来る頃合いだった。ザックに一暴れさせようとも思っている。

 暴動や、罪人の逃亡。

 そして魔獣に宮城内で暴れさせる。

 一挙に色んな事を企ててキータイの意識を分散させる。

 キータイにいる教皇ビカラのしもべを他の問題で足止めするのが目的。

 結界に守られて今まで何事も無かった大国で起こる騒動の数々にきっと警備は手薄になる。

 クロードが狙っているのは、ベオーク自治国への扉。

 龍門を使ってベオークに行く。教典が身の内にあるクロードも、バサラの眷属であるラドビアスも無事だろうが。

 ランケイは無理だ。ただの人である彼女には龍道は灼熱地獄となる。それを教えていないのは彼女を連れて行くつもりはクロードには無かったからだ。

 ザックには彼女を妃として連れ帰ってもらう腹積もりでいた。

 実際の皇女だろうがなかろうがそんな事はどうでもいい。言ってしまえば、キータイ側だとしてもその者が本人かどうかなど実はどうでもいい。そういう看板を背負った高貴な女、いわんやそう見える女性であればいい。キータイが本物だと言い、本人が名を名乗る。それこそが大事なのだ。


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