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厄介事ー3

「間もなくその族長が皇帝に謁見を受けにこのキータイに参ります。そうなったらランカ様はいくばくかのうちに辺境の地に落ちて行かねばなりません」

 男の話にクロードは問いかけもせず、黙って聞いていた。

「助けて頂けますでしょうか」

「聞きたいんだけど」

 はいと言う男にクロードは剣先を外した。

『変化せよ』

 その言葉に剣が姿を消す。

「それでお姫さまが逃げたいと思ったのは、まあ考えが足りないとは思うものの仕方ないと思うけど、なんでおまえはそれを(いさ)めないでついてきたんだ?」

 初めから答えは分っているがと思いながらクロードはあえて口にする。

「世間知らずの姫が父帝の命に背いて逃げたとして、どうするつもりだった?」

 うなだれる男になおも辛辣な言葉が投げられる。

「どこに逃げるつもりだった? 自分の故郷にでも逃げるのか? 逃げて所帯でも持とうと思った? 手配書は全国に周り、身の回りの世話を何一つできない目立つ女を連れて隠しおおせることができるとでも? おまえの半端な忠義心のおかげで、姫は罪人扱いになるし、おまえも死罪は免れない。おまえだけで済めばいいがそうはいかないだろう。一族郎党皆殺される」

「止めなさい。コウユウはわらわの境遇を(おもんばか)って一緒に逃げてくれたのよ。おまえみたいな下郎にわらわの無念さなど到底分らないわ」

 ランカがクロードの胸をどんっと突く。

「分らないよ、ぬるま湯みたいなところで甘やかされてきた了見の狭い娘の気持ちなんてさ」

「なんですって?」

 手を出したランカの手をパシンと打ち払ってクロードは逆に彼女の胸倉を掴んだ。

「自分のことばかり、きゃあきゃあ喚いてんじゃない。別にあんたは死ぬわけでもなんでもないだろうが。自分が何で良い暮らしができてんのか考えてみたことがあるのか」

「離しなさい、下郎。もちろん知ってるわ。わらわが皇女だからに決まってるでしょ」

 高らかに応えるランカを突き放してクロードは鋭い視線を向ける。

「そうだよ、あんたは身分が高い。何もしなくても贅沢な暮しができる。それはなぜかと聞いているんだ。人はそれぞれ与えられた物に対する対価を払う必要があるんだ」

「言ってることが分らないわ」

「おまえが皇女だと言うのなら皇女という立場にもそれ相応の責任があるということだ。国のためにできること。それは今回で言えば、おまえが嫁に行くということで内乱を防ぎ、国内の結束を固める礎となること。それも逃げてはいけないおまえの責任なんじゃないのか」

「なんでわらわが……」

「あんたは、身分をはき違えている。何もしないでも良い暮らしなんてどこにもありはしない。国の長である皇帝だってその肩には誰も肩代わりができない重いものがどっしりとのっている。それでこその威光であり、尊厳であるとおれは思う」

「分らないわよ、分りたくない」

 ランカは耳を押さえてしゃがみこんだ。

「……あなたは一体?」

 コウユウと呼ばれた男は見直すように少年を見た。上に立つものの心構えを説くこの少年がただの商人の息子には見えなかった。さっきの魔法のような仕草といい、今の堂々とした話しぶりといい、彼は人の上に立つ者特有の風格を漂わせている。

「お待たせいたしました、クロードさま」

 そこへ、荷物を抱えてラドビアスとランケイが姿を見せた。

「じゃあ、この方の着替えを手伝うからあんたたちは向こうへ行ってよね。誰も入ってこさせないでよ」

「了解」

 クロード、ラドビアスがコウユウと共に背を向けたのを確認して、ランケイは着飾っている自分と同じ年頃の娘に声をかけた。

「これに着替えてくれる?」

「分ったわ」

 そう言って何もしない相手の様子にランケイは首をかしげる。

「あの、それ、いま着てる服を脱がなきゃ」

「だから早くすればいいではないか」

 やっと彼女が自分では服を脱ぐ気が無いのに気付いた。手がかかると思いつつもきっと彼女にとっては人が傅くのは当たり前のことなのだ。宮中ならともかく、ここでも同じような扱いを受けられると思っているのには苛つくが、放っておいても何も変わらない。

「まだ?」

 あっさりと着替えたクロードが後ろを向いたままで聞いてくる。

「後は髪を下ろすだけだからもういいわよ」

 振り返ったクロードは内心驚きを隠せなかった。街着を着て髪を下ろして化粧も落とした顔がランケイに似ていたからだ。

「準備はいいですか。さっさと宿に向かいますよ」

 ラドビアスが待ちくたびれたように言う。彼にとっては益々面白くない状況だといえる。

 大陸に渡ってすぐにランケイを拾い、そして今度はハオタイの皇女とは。

「人が良いのにもほどがありますよ、クロードさま」

 思わず愚痴が飛び出した自分にラドビアスはため息をついた。何百年生きてきたとしても人間は達観などできはしない。








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