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厄介事ー2

「あなた方は魔術を使われるのですか? 姫を一晩匿っていただきたいのです。お約束していただけるなら私の命でもなんでも差し上げます」

 掴まれた上着の裾を振り払うとクロードは薄く笑う。

「命って……おれたちはまるで化け物扱いだな」

 まあ、当たらずとも遠からずなんだがと独りごとを呟く。

「別に人間の命なんて欲しくないよ。言っとくけどおれたちと一緒にいると困るのは君らだよ。仕方ないなぁ、話だけなら聞いてやる」

「クロードさまっ」

「話を聞くだけだよ、ラドビアス。急いでランケイとここら辺の者が着る古着を調達してきてよ。こんな目立つ格好じゃ宿に行ったところでそこの主人に通報される」

「クロードさま、いけません」

「早くしてくれ、ラドビアス」

 一瞬目を閉じてラドビアスは肩を落とすと路地裏を指さした。

「わたしが帰ってくるまであちらにいらしてください」

 頷くクロードに一礼するとラドビアスは踵を返して速足で通りを歩きながら、背中越しに厳しい声を出した。

「ぼさっとしないで早く来なさい、ランケイ」

「分ってるわよ」

 八つ当たりされて、眉をひそめながらもランケイはラドビアスの後を追って行った。

 薄暗い路地裏に身を潜めてからクロードはくだんの男に話しかける。

「で、本当はなんなの? 王宮から逃げだしたんだろ、君の主人。嘘の話はもうごめんだからね。そんな派手な身なりで旅の途中とかばかにされてるみたいだから」

「無礼者、よくもわらわにそんな口を!」

 大きな声で叱責しようとするのを男が必死に押さえる。

「ここでは、この者にすがるしかありません。耐えがたいのはわたしも同じですが堪えていただきたく切にお願い申し上げます」

「わかったわ」

 目に見えてほっとした男を多少白けた顔で見ていたクロードが右手を上げる。

「変化しろ」

 手の中で指輪は長い長剣になり、男の喉元を掠めるように突きつけられた。

「おれもそんなに気が長い方じゃない。さっさと話さないと追手にやられるより先にくたばっちまうことになるぞ」

「ぶ、無礼者!」

「何者かを言わないと本当に無礼なマネをすることになる。おまえらが何者なのかが分らないのにどう敬えばいいのさ。それと女、おまえ煩い。それ以上言うとこの男の喉をかき切るからな」

 ひっと息を飲んだのを見てクロードの目が細くなる。

「で?」

 つんと剣の先を視線を戻した男に当てると男の喉仏がごくりと上下した。

「このお方は恐れ多くもハオタイ皇帝の御息女様にあらせられます」

 男はクロードがどう出るかを見定めるように一旦言葉を止める。そこへ刃先がわずかに首に食い込む。

「続けろ、話を止めていいなんて誰が言った?」

 ラドビアスとかいう背の高い男に守られている西から来た商人の子供に見えた少年が、実は一番やっかいだったのだと男は気付く。

「ハオタイのロン皇帝には五十人ものお手付き娼妃がいるらしいからな。子供だってそれなりだろ。それで?」

「このたび、砂漠のある地所から自治を任せろと嘆願があったらしいのです。最近急にまとまって行動するようになった楼蘭族ですが」

「楼蘭族?」

「何か?」

 いや、と首をクロードは振って顎をしゃくって先を促す。

「族長というのが、それは野蛮な男らしいのですが、ここ最近ハオタイの旅団は楼蘭族の手引きなしでは砂漠を横断することは不可能になっていて、皇帝も認めざるを得ないのです」

「最低限の自治をお認めになる証として、ランカ様を落都させられ、その族長に嫁すことに」

 それが嫌で逃げだした――そういう訳かとクロードは納得顔でランカと呼ばれた娘を見た。姫の格としてはきっと低い。母親の身分がそう高く無いのだろう。

 だが、広大な宮殿の敷地から一歩も出たことが無かった高貴な身では、砂漠の族長などという得体のしれない男に嫁ぐのは恐ろしいことかもしれなかった。

 だが、たぶんその族長はクロードが知っている男だと思う。浅黒く逞しい体でまっすぐで行動力があった。

 ザックならきっと幸せにしてくれそうだと思う。思うが彼女に説明はできないし、きっと分るとも思えなかった。





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