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龍の主人

「おまえの弟を助けたいんだろう?」

「セイシンは痛い目にあったりしてないんでしょうね」

 ランケイが精一杯睨みつけると男は「どうかな」と笑った。

「おまえが言いつけを守らないと足の一本くらいは無くなっているかも」

 ひっと小さく悲鳴を上げるランケイに男はふんと鼻を鳴らす。

「すぐさま奴らの所へ戻れ。後でまた連絡する」

「セイシンに会わせて」

 ランケイの声は何も無い空間に消えた。弟を取り戻したいだけなのに一体自分はこの後何をさせられるのだろう。もう誰に助けを求めてもいいか分らない。

「ごめんね、クロード」

 本人に言えない謝罪の言葉をランケイは道路の端に零した。




「姉さんに会うか、セイシン」

 道路わきの高い塔の上から頭が二つ覗いていた。亜麻色の髪の長い一見アーリア人に見える貴人。彼の淡い水色の瞳が陽の光りを受けて金剛石のような輝きを見せていた。長い袖のせいで抱かれている少年の姿はよく見えないが歳が十ばかりのハオ族らしい。横の貴人と同じような上等の黒い絹地の丈の長い上着を着ている。

「オラはバサラさまの眷属になったんだから、もう姉ちゃんとは関係ないです」

「おや、それはダメだよ。家族じゃないか。姉さんとは仲良くしなさい。本当の思いは胸にしまっておけばいいのだから」

 少年の頭を撫でていると後ろから声がかかる。

「バサラさま、セイシンをお連れになるなら、そうと言ってください。どうします? お帰りになりますか?」

「そうだな、帰りはおまえに乗って帰ろう。セイシン、龍に乗ってみたいだろう?」

「はい、バサラさま」

 二人の会話に男は大きくため息をつく。

「わたしは面白い乗り物ではございませんよ。子どもが振り落とされても知りませんからね」

「昔はおまえも可愛かったのに。いたいけなあの頃が懐かしいな」

「一つ言っておきますが、あなたさまは十のときからいたいけではありませんでしたよ、バサラさま」

「おや、インダラ。もしかしておまえセイシンに嫉妬してるのか?」

「いやに楽しそうですが、そんな訳ないでしょう。バサラさま」

 ここにいなさいと少年から手を離したバサラと呼ばれた男が、印を片手で組みながらもう片手を男の背中にのせた。

『変成、変転、変容、我の命により辺幅、変化せよ』

 言葉の後にインダラと呼ばれた従者の男に変化が起こる。

 背中が湾曲してどんどん胴体が伸びていく。顔の口のところが大きく裂けて前に大きく張り出す。その大きな口には鋭い歯がびっしりと生えている。額を割って大きな鹿のような角が二本にゅうと生えてきた。

 きらきらとした魚のような鱗が全身をあっという間に覆う。

「すごい、すごいです。本物の龍ですね、バサラさま」

「そうだよ、そら手をお出し。抱いてのせてあげよう」

 二人に向かって、龍が小さく唸り声をあげた。

「はいはい、主人に向かって早くしろとは態度が悪いしもべだ。セイシン、しっかり捕まっておきなさい」

「はい、バサラさま」

 二人が乗ったことを確認した龍が必要以上に速度を上げて空に飛び上がっていった。





 茜色から紫へ空は夜の色を纏い始めた。

 見上げた空は砂漠よりも薄く煙幕が張っているようだ。オアシスのバザールから漏れる明かりが空の闇を凌駕しようとしているかのように。

「出かけますか、クロードさま」

 ラドビアスが長椅子に横になっていたクロードを軽く揺する。

「え? もう夜なの?」

 起き上がったクロードが周りを見回す。

「ランケイは帰って来た?」

「いいえ」

 だから今出発するんですよとばかりにつんとラドビアスがクロードに上着を着せ掛ける。

「だめだよ、キータイまでは連れて行くことにしたんだから。おまえたち、ちょっと探してきてよ」

 声をかけられて長椅子の足元で寝そべっていた魔獣が顔を上げた。

「帰ってくる」

「そうかな」

「だってあいつは……」

 アウントゥエンが言いかけたのをクロードが手を振って止める。

「探してきてよ、アウントゥエン」

 ええ? という顔を見せたが、アウントゥエンは大きく伸びをすると体をぶるぶると震わせてからバルコニーから姿を闇に躍らせた。


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