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亀裂ー2

「クロード、メイファの言うことを信じるな。奴は暗示の術をいつの間にかかけてくる」

 太い腕でがしりと頭を撫でられて、クロードは目を見張った。 また、術にかかるところだったのか? 確かめるようにアウントゥエンを見ると大きく頷いた。

「クロード、元の姿に戻してくれ」

『変成、変転、変容、我の命により辺幅、変化せよ』

 声をかけて触れると、サウンティトゥーダが相対しているメイファとラドビアスの間に飛び込んでいく。

 大きく振り回す長い尾を避けながら、爪をラドビアスに刺そうとすることに気をとられた一瞬、メイファの胸元に大きな赤い塊が飛び掛っていった。 大きな口を開けたアウントゥエンに向けてメイファが鋭い爪を向ける。

 押し倒したメイファの上着を破り取るように首を振って素早くアウントゥエンはクロードの元に戻った。

「クロード、護法神はこの中だ」

「うん」

 上着を探ると、刺繍に入った袋がぽろりとクロードの手の中におちる。 急いであけると手の中に握った。

『変じよ』クロードの声に応じて指輪は長剣に姿を変えた。

「指輪はおれの元に帰ってきたようだぜ、メイファ」

「ううん、苛々するなぁ。雑魚のくせしてちょろちょろと動き回りやがって」

 メイファはクロードが『護法神』を取り戻したのを見て戦意を消失したのか、嫌そうに呟くと姿を豹に戻して屋根に飛び上がった。

「クロードさま、もうなんのかんの言わないで逃げましょうね」

 ラドビアスが子どもを叱るようにクロードを見る。

「分ったよ、そんな言い方すんな」

 魔獣に乗り込んだ途端にたくさんの矢が飛んでくる。ランケイを自分の前に荷物のようにのせたラドビアスがサウンティトゥーダに跨るとすぐさま魔獣は飛び上がった。

「乗れ、クロード」

 クロードがアウントゥエンの背中に乗ったのを確認してアウントゥエンは空にまっすぐ飛んでいく。 クロードはあせってアウントゥエンにしがみついた。

 やっと水平になるとアウントゥエンは下に向けて大きく口を開けた。 ごおっという音とともに吐き出したのは炎だった。

「やめろ、アウン」

 クロードの言葉の甲斐も無く、聞こえるのは、大勢の阿鼻叫喚の叫び声で。 建物からも火の手が上がり、残った兵士もクロードどころでは無くなった。

「アウントゥエン……」

「クロード、こうなったのはおまえのせいだ」

 ばしりとアウントゥエンに言われてクロードは言葉を失う。

「前に何人かの兵士を倒して逃げればこんな事にならなかった」

「……そうだな」

 おれは、目先のことばかりに捕らわれていて、つい逃げてしまう。 使役している魔獣に諭されるなんて笑えない。 むやみに人を傷つけるのは論外だが、それを嫌って結局もっと酷いことになる可能性を考えないといけないのだ。

「おれは指揮官失格だよな」

 ぽつりと漏らすクロードにアウントゥエンが小さく火を吹いた。

「我はクロードのそういうところが好きだ。好き? アイシテル? 好む? まあこの中のどれか……だ」

「ありがとう、アウントゥエン。おれ、おまえたちが安心して命令を聞けるようになるから」

 クロードは、体を倒してアウントゥエンの首筋に顔を埋めて呟いた。

 ――ごめん、みんな。 燃えてしまった人も何もかも。ごめん。

 あの兵士たちにも家族がいて、生きるべき人生があったはず。 何を優先して何を諦めなければいけないのか。 自分には考えなければならないことが多い。 だけど、次は読み間違えないと強く心に誓った。





「今、ここを出ていくなら見逃してやるが」

 ラドビアスが独り言のように前を向きながら言う。

「嫌と言ったら?」

 体を起こしてラドビアスの前に座った少女もラドビアスを見ない。

「メイファは引き上げたようだ。おまえも引け」

「何のことだか分らない。意地悪ね、あんたは」

 ふんと鼻を鳴らすラドビアスにランケイは斜め後ろにいるクロードに顔を向ける。

「クロードに変な事を吹き込まないでよ、ラドビアス」

「クロードさまは聡い方だ。気づいているかもな、おまえのきな臭さに」

 ランケイは、唇を噛んで黙り込んだ。 自分がやっていることの卑怯なやり口は、否定できない。 クロードの親切心に付けこむ自分は最低だと分っているから。

「だけどあたしは弟を助けたいのよ」

「わたしに弁解しても仕方ない。良心が痛むのを軽減するためにする打ち明け話などに興味も無いし」

 冷たく言い放つラドビアスの言葉がランケイの頬を打つようだ。

「この先、これ以上わたしの主人を窮地に陥れることが分ったらお前を殺す」

 そこでサウンティトゥーダが賛同するように大きく吼える。 彼にしても主人に災厄が降りかかるのはごめんなのだ。

「クロードは愛されてるのね」

 その彼を騙そうとする自分は罰が堕ちるのだとランケイは思う。 分ってる、分ってるのだ。 だけど地獄に行くのは弟が無事に帰ってきてからにしてくださいとランケイは手を組んで祈った。



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